2019 W杯・備忘録 108
〜 ANS 2021 〜
Six Nations Rugby Limitedが主催したオータム・ネーションズ・シリーズ2021を振り返ってみる。主催者たる欧州6か国に対して、他の地域の国が挑む試合が20試合組まれた。特に興味深いのは、欧州5か国対南半球・SANZAARを組織する4か国の戦い。
欧州5か国からの戦績を星取表的に見てみると次のようになる。
RSA | NZ | AUS | ARG | |
ENG | ○ | − | ○ | − |
IRE | − | ○ | − | ○ |
FRA | − | ○ | − | ○ |
SCO | ● | − | ○ | − |
WAL | ● | − | ○ | − |
記録として、まず記されるのは勝ち負け。そして、それ(だけ)が後に語り継がれてゆく。2023W杯時に、語られるのも勝敗のみになるのではないだろうか。それにしても、「北」が「南」を圧倒している。
では、この表を得点差で示すと次のようになる。
RSA | NZ | AUS | ARG | |
ENG | 1 | - | 17 | - |
IRE | - | 9 | - | 46 |
FRA | - | 15 | - | 9 |
SCO | 15 | - | 2 | - |
WAL | 5 | - | 1 | - |
1点差であっても、46点差であっても、「勝ちは勝ち・負けは負け」なのだろうか…
この結果、北5か国はWR・ランキングの持ち点を上げ、南4か国は下げている。
「前」は2021/10/27、「後」は2021/11/22現在の数値。
ENG | IRE | FRA | SCO | WAL | |
前 | 85.44 | 84.85 | 83.87 | 82.02 | 80.59 |
後 | 87.83 | 86.53 | 85.53 | 83.05 | 81.56 |
RSA | NZ | AUS | ARG | |
前 | 91.13 | 90.97 | 86.99 | 80.69 |
後 | 90.61 | 88.75 | 83.92 | 80.58 |
ちなみに、JPNは79.13から78.26に下げているが、順位は10位で変わらず。
このシリーズを見ていて頭をよぎったのが「負けて覚える相撲かな」。負けたチームの方が収穫が多かった気がする。ラグビー界は、W杯至上主義化している。その過程でしかなくなってきているテストマッチ。勝ち負けよりも、その後、どのチームが飛躍していくのか興味深い。その意味で一番「伸びしろ」があるのはARGかもしれない。
上記の9か国のHCの出身国を見てみると、
自国 :RSA、NZ、ARG、FRA、SCO、
NZ出身 :AUS、WAL、(JPN)
AUS出身 :ENG
ENG出身 :IRE
各チームの戦い方、もちろんその国の伝統を受け継いでいるのだろうが、躍動感を一番感じたのがENG。この秋のENGを見ていると、エディー的というか、AUS的というか、失敗を恐れずリスクを極限まで取っている気がする。その表れが、タックル成功率の低さであったり、Pの数の多さだったりに現れていた気がする。
W杯までの各試合は、チャレンジの場、負けて失うものは少ない。では、「負けられないW杯」で勝ち切るためにどうチームを作っていくのか。おそらく、勝率8割のチームを作るのとW杯を勝ち切るチームを作るのは違うのだろう。これからの2年間が楽しみだ。
選手・チームが武者修行をしているのなら、レフリーにとっても修行の場である。このシリーズ、出来るだけ多くのレフリーに機会を与えよう(=試してみて評価しよう)としていた感がある。2試合吹いたのは2人のみ。シリーズ全20試合のレフリーの所属国は次のとおりであった。
4人 : ENG、NZ
3人 : AUS(4試合)
2人 : FRA
1人 : WAL(2試合)、RSA、IRE、SCO、GEO
WAL/FIJ戦、24分TMOにかかり、レフリーとアシスタントレフリーが話し合って「イエロー」としたのに対して、TMOが異を唱え結局「レッドカード」が出された。おそるべし、TMO。シリーズ全20試合のTMOの所属国は次のとおりであった。
2人 : ENG(5試合)、RSA(4試合)、IRE(3試合)
1人 : WAL(3試合)、NZ(2試合)、AUS(2試合)、FRA
レフリーに比べて、TMOは経験できる場が限られていて、かつ、要求されるスキルも複雑な気がする。だから、レフリーに比べて、特定国・特定の者に限定されている感がある。ピッチの外に神様なのか、閻魔様が存在するかのようになってきた。
レフリー、TMOを輩出できているか、その国のラグビー力の一つの指標になってきている気がする。
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Midolの記事で、「イタリアよりもジョージアの方がWRランキング上なのだから、6か国対抗はイタリアとジョージアを入れ替えるべきである、という正論が主張されている。しかし、6か国対抗は6か国が出資している(=ジョージアは出資していない)母体(SNRL)が運営している。だから、イタリアが外れる・外されることはありえない」とあった。なるほどと合点がいった。
SNRLが設立されたのが2002年。2004年から6か国対抗の主催者になっている。理由は、もちろん、ラグビーのプロ化を受けてビジネスとしての進化に対応するためである。そのSNRLが、昨年秋のオータム・ネーションズ・カップを主催し、今年のANS2021も取り仕切った。
南半球主導で始まったプロ化。南半球の機構改革は素早かった。1995年・プロ化の翌年には、RSA・NZ・AUSが出資するSANZARが設立され、スーパーラグビー+トライネーションが始まる。2012年にトライネーションにARGが加わり、今日まで続くザ・ラグビー・チャンピオンシップとなる。2016年にARGが出資者となることで、SANZAARとなっている。
東海の孤島、JPNでは、やっとリーグワンの運営母体が組織され、新しいリーグが始まる。ラグビーのプレー内容はもちろん大切だ。しかし、プロ化の時代、運営主体がプロ化することが求められているも必然だ。これからどうなっていくのか、気になっている。
令和3年12月18日
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