2019 W杯・備忘録 135
〜 ALTRAD 〜
今シーズンからオールブラックスのジャージの胸表示が「AIG」から「ALTRAD」に代わる。FRA代表の胸表示は、2018年から「ALTRAD」。FRA/NZ戦は「ALTRAD」対決となる… 残念なことに(?)、W杯では胸表示が消される。
「ALTRAD」の創業者・Mohed ALTRAD、シリア生まれの実業家・大富豪。その人生は「小説より奇なり」のようだ。Wiki・フランス語では、かなり詳細に(当然のことながら、英語版よりもかなり充実している)今日までの歩みが記載されているが、そもそも生まれた年が「1948年または1951年」とされている… 苦難の幼少期から奨学金を得て、フランスに渡り、まず、名門・モンペリエ大学で学ぶ。後年、大富豪になったAltradが財政難に陥っていたモンペリエ・エロ—・ラグビークラブ(以下「MHR」)に手を差し伸べ、2011年には筆頭出資者になる。MHRに投資(?)し、南アフリカにはラグビー・アカデミーを作り、FRA代表の公式スポンサーになり、NZ代表の公式スポンサーにもなる。現在のワールド・ラグビー界最大の「タニマチ」である。
先週の金曜日の夜のフランス選手権の決勝は、そのMHR(ジャージの胸表示は当然「ALTRAD」)と古豪カストル(以下、「CAS」)の対決。4年前・2018年決勝の再戦(その時は、29-13でCASが勝利)。
4年前、FRAはWRランキング10位で苦しみ、ガルティエ現FRA・HCはトゥーロンのHCを「首」になっていた。当時のMHRは「ラングボックス」(=「ラングドック」地方の「スプリングボックス」)と揶揄されるぐらい南アフリカの出身の選手が主軸を占めていた。
2018年決勝メンバー46人のうち2022年にそれぞれのチームにそのまま所属している選手は、MHR:6人、CAS:7人。2022年決勝のメンバーに入ったのは、MHR:1人、CAS:5人。選手は入れ替わる。そして、HCもコロコロ変わる。MHRは2018・コッター(NZ人・現在FIJ代表HC)⇒ガルバジョザ(FRA)⇒サンタンドレ(2015W杯時のFRA代表HC)、CASは2018・ウリオス(FRA、現UBB・HC)⇒レギアルド(ARG)⇒ピエール・アンリ・ブロンカン(FRA)。
ALTRADは、この12年間で8千万ユーロをMHRに投下したが、今年が一番選手補強をしなかった年でもあった。決勝の翌日、Midolの取材に「他の強豪チームは1世紀の歴史があるのに(たとえばCASは1906年創設)、MHRは36年目、まだまだ歴史を作る段階だ。自分たちは、かつてRSAのスター選手を集めてきて満足していたが、それは間違いだった。いいチームを作る、CASはよきお手本だ」と語っているのが印象的だ。
( 参考 )
2022/6/24(金)21:00キックオフ MHR/CAS KSLPFD図
「分」は得点時間
大文字は勝者 小文字は敗者のボール支配
K:キックオフ
S:スクラム
L:ラインアウト
P:ペナルティ (PG*はPGを狙って外したもの)
F:フリーキック
D:ドロップアウト (D*はゴールライン・ドロップアウト)
- :関連するリスタート
分 | 得点 | |
5 9 11 20 33 38 | K l P-l s T k l p-L TG k l T k P-pg* D P S-p-L p-PG k S s L-p-L S s s P-l l P-pg K L s-p-PG k | 5- 0 12- 0 17- 0 20- 0 20- 3 23- 3 |
67 74 76 | k l P-l L F l l-P-l-P-l P P s-f-s-P-s p-L P-l P-l D* s-P-l P*-l S f l l-f p-PG k P-l P S-p-L L tg K p-PG k p-L S-f p | 26- 3 26-10 29-10 |
戦前の予想ではCAS優位が。それが「あっと言う間」のMHR・3トライで決まる。
この3トライ。いずれも起点のリスタートはCASボール。
(5分:トライ1)
起点:センターライン付近・CASボール・スクラム ⇒ CAS展開し・8フェーズでMHR22m内へ ⇒ CAS・12番がノックオン ⇒ MHR・15番がロングキック ⇒ CAS・14番がキャッチしてショートパント ⇒ MHR・14番キャッチ・ラック・繋いでトライ
(9分:トライ2)
起点:センターライン付近・CASボール・ラインアウト ⇒ CAS展開し11番がMHR22mライン付近でタックルされノックオン・そのまま倒れ込みP ⇒ MHR・PKをタッチに蹴り出し・CAS陣内でのラインアウト ⇒ MHR・ラインアウト・モール(CASのP・ADが出る中)フェーズを重ねトライ
(15分:トライ3)
起点:センターライン付近CASボール・ラインアウト ⇒ CASキャッチしモールを作るもボールを奪われる ⇒ MHR・4フェーズ目で展開しトライ
最初の2つは「ノックオン」から。Midolによれば、原因はCAS・11番12番いずれもフィジー出身の選手で「ボールを抱えている腕の方から相手に当たったから」(FRAでは子供の時から「そんなことをしてはいけない」と教えている)。神様は細部に宿る…
この試合のP、MHR:17(イエロー:1)、CAS:11。「3点」を刻んでしぶとく食らいついていく弱者の戦法が身上のCASが大量リードされ、かつ、ゲームメーカーでキッカーの10番:ウルダピレタ(ARG代表)がケガのため10分で退き、「試合を作れなかった」。
MHR、昨シーズンは2部降格の危機に見舞われたが今シーズン蘇った。その要因の一つとして、プロレフリーだったルイス(2019W杯では「アシスタントレフリー」として参加。五輪7人制では主審を務めていた。1987年生)がコーチングスタッフに入り、「ディシプリン」と「ラック」を担当したことが挙げられている。来シーズンからは現プロレフリー・ポワト(2019W杯主審)がトゥーロンのコーチングスタッフに入る。単なる「流行」ではあるまい。
この試合の主審は会社員のトレニニ。26分、CAS・6番・主将バビヨがタックルに行きMHR・2番・ギラド(2019FRA代表主将)が脳震盪で倒れる。TMOで何が原因かを確認する。確かにバビヨの肩がギラドの頭に当たったかにも見えるが「単なるペナルティ」でカードなしの判定。長きにわたってCASを支え続けてきたバビヨ、FRA代表主将として苦渋も舐めたギラド、ともに「フェアープレー」でも名をはせてきた。いろいろな思いがよぎるワンシーンだった。
令和4年7月2日
0 件のコメント:
コメントを投稿