2019 W杯・備忘録 138
〜 三連戦 〜
W杯の試合は「一発勝負」、1回限りの対戦である。稀に、予選リーグで対戦した相手と決勝ラウンドで再戦することがある。必ずしも実力のあるチームが勝つとは限らない。だから面白いのであろう。
プロ野球の日本シリーズは7戦:4勝しなければならない。将棋の名人戦など大棋戦も7番勝負。勝者を真の実力で決めるには複数回戦った方がいいのかもしれない。
そんなことを思いながら、先週末の南北対決第3戦を見ていた。いずれの試合も1勝1敗のあとの第3戦。どの試合も興味深い熱戦だった。
NZ/IRE三連戦は、ホーム:NZがよもやの敗北。NZが弱くなったのか、IREが強くなったのか。ターニングポイントとなったシーンの連続でもあるが、あえて一つを挙げるとすれば、61分:IREのキックオフでのリスタート。そこに至るまでの展開は次のとおり。
1: IREキックオフで始まった第3戦。先制点は、三戦連続でIREのトライ。前半はIREのワンサイドゲームに近く、22-3:IREリードでハーフタイム。
2: 後半開始早々、覚醒したNZが猛攻。43分:トライ&ゴールで22-10に。
3: 50分、TMOでIRE・1番にイエロー(NZ・4(ボールキャリアー)へのタックルの際のヘッドコンタクト)
4: NZ・イエローの出たPKを蹴り出して⇒ラインアウト⇒トライ&ゴールで22-17=ワントライで追いつける「射程圏内」に。かつ、15人対14人の数的有利もあるNZ。会場の雰囲気が最高潮に。
5: 数的不利にもかかわらず、55分:IREがPGを決め25-17=8点差に。
6: 58分:IREのPGがクロスバーに当たり決まらず、そこからの蹴り合いからNZ・14が60m独走しトライ。25-22に。流れは一気にNZに!?
この直後のIREキックオフをNZ10mライン越え・中央に蹴った。すごい! このチームには迷いがない。攻め続けなければ勝ち切ることはできない。セクストンの指揮の下、15人が有機的に密に連携し攻め続ける。そして、80分走り切るフィットネスがある。
リスタートは、6種類ある。㈰ボールを投げ入れるスクラムとランアウト、㈪ボールをキックするキックオフとドロップアウト、㈫蹴ってもよし・スクラムを選択してもよしの選択権のついているPKとFK。いずれもボール支配側が、どのようにして効果的な15人のポジショニングを行い、試合展開を支配しようとするのかの考え方が顕在化する時でもある。
キックオフは、通例、ボール支配を一旦相手に渡すことを前提に、㈰相手陣のライン際 ㈪22mラインあたりからより遠くに蹴り入れられる。ところが、この時のIREは、㈰㈪に反し、自らがボールを支配し続けようという明確な意思を示した。
吉と出るか凶と出るか? 勝つためにはこの選択しかない、全員がその思いで愚直に前に出ている。プレッシャーをかけ続けようとしている。誰一人、下を向いていない。膝に手を当てていない。疲れを表に出さない。
賽は投げられた。IRE・セクストンのキックオフは中央10mライン越えに蹴られた。計画通り、IRE・15が大きくジャンプしタップするもNZボールになり、NZ・22がIRE陣へロングキック。IREの企図は潰えたかに思われた。が、ここでARからのレポートでNZ・ノックオンが認定され、IRE・スクラムに。ここからの一次攻撃でNZゴール・5mまで迫り、ラックでNZ・8がオフサイド。IRE・PGを狙わずにタッチキックを蹴り・ラインアウトからトライ&ゴール。32-22に。流動化していた「流れ≒モメンタム」が消えた。以後、15分余、得点は動かずノーサイド。
三連戦は、チームの分析力・修正力が浮かびあがってくる機会でもある。「負けに不思議の負けなし」。三連戦の勝敗を左右するのは、コーチ陣の力量。その意味でNZの敗北は必然だった気もする。どうも凡庸すぎる。だから、「唐様で書く三代目」が浮かんでくる。2007・2011はヘンリー、2015・2019はハンセン、そして子飼いのフォスターへとHCが受け継がれてきた。身内で回した「つけ」が出ている気がしてならない。その意味で、1998年サッカーW杯で優勝したフランスがエメ・ジャケのお気に入りで回して2010W杯で無様な予選リーグ敗退に至った転落過程に似ている…
IRE、2019W杯:準々決勝での屈辱的な敗退から多くを学んだのであろう。いいチームに仕上がっている。
試合中HCの出来ることは限られている。でもやれることはある。戦術的選手交代はHCの専権事項。AUS/ENG第3戦、10-6:AUSリードの34分、ケガをしていない9番をスパッと変え、試合の流れを変え、勝利に結びつけたジョーンズENG・HCの決断力、傑出していた。
( 参考 ) 南北対決各戦の時間ごとの得点
NZ(○●●) | 76-74 | IRE(●〇〇) | |||||
㈵ | ㈼ | ㈽ | ㈵ | ㈼ | ㈽ | ||
0~10 | - | - | - | 5 | 7 | 5 | |
11~20 | 7 | - | - | - | 3 | - | |
21~30 | 7 | - | 3 | - | - | 7 | |
31~40 | 14 | 7 | - | - | - | 10 | |
40~50 | - | - | 7 | 7 | 7 | - | |
51~60 | 7 | - | 12 | - | 3 | 3 | |
61~70 | 7 | - | - | - | 3 | 7 | |
71~80 | - | 5 | - | 7 | - | - | |
計 | 42 | 12 | 22 | 19 | 23 | 32 |
AUS(〇●●) | 64-74 | ENG(●〇〇) | |||||
㈵ | ㈼ | ㈽ | ㈵ | ㈼ | ㈽ | ||
0~10 | - | - | - | 3 | 10 | - | |
11~20 | - | - | - | 3 | 3 | 3 | |
21~30 | 3 | - | 10 | - | 3 | - | |
31~40 | 3 | 7 | - | - | 3 | 8 | |
40~50 | 3 | 7 | - | 5 | 3 | 3 | |
51~60 | - | 3 | - | 3 | - | 7 | |
61~70 | 14 | - | 7 | - | 3 | - | |
71~80 | 7 | - | - | 14 | - | - | |
計 | 30 | 17 | 17 | 28 | 25 | 21 |
RSA(〇●〇) | 74-56 | WAL(●〇●) | |||||
㈵ | ㈼ | ㈽ | ㈵ | ㈼ | ㈽ | ||
0~10 | - | 3 | 3 | 8 | 3 | - | |
11~20 | 3 | - | 7 | 3 | - | 5 | |
21~30 | - | - | - | - | - | - | |
31~40 | - | - | 7 | 7 | - | 3 | |
40~50 | 12 | 3 | - | - | - | 6 | |
51~60 | - | 6 | 7 | 3 | - | - | |
61~70 | 7 | - | - | 3 | 3 | - | |
71~80 | 10 | - | 6 | 5 | 7 | - | |
計 | 32 | 12 | 30 | 29 | 13 | 14 |
ARG(〇●〇) | 66-78 | SCO(●〇●) | |||||
㈵ | ㈼ | ㈽ | ㈵ | ㈼ | ㈽ | ||
0~10 | 3 | 3 | 3 | - | 3 | - | |
11~20 | 3 | - | 7 | 3 | - | 7 | |
21~30 | 5 | - | - | 3 | - | 7 | |
31~40 | 7 | 3 | 3 | - | 5 | - | |
40~50 | - | - | 7 | 5 | 7 | 14 | |
51~60 | 5 | - | - | 7 | 7 | - | |
61~70 | 3 | - | 7 | - | 7 | 3 | |
71~80 | - | - | 7 | - | - | - | |
計 | 26 | 6 | 34 | 18 | 29 | 31 |
令和4年7月23日
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