2019 W杯・備忘録 148
〜 公平性・一貫性 (その2)〜
先週末で2022ザ・ラグビー・チャンピオンシップ全12試合(以下、「今シリーズ」)が終了した。結果としては、NZが優勝した。それが記録され記憶に残るのであろう。
P | W | D | L | PF | PA | TF | TA | TB | LB | +/- | BP | Pts | |
1NZ | 6 | 4 | 0 | 2 | 195 | 128 | 24 | 11 | 2 | 1 | 67 | 3 | 19 |
2RSA | 6 | 4 | 0 | 2 | 164 | 119 | 20 | 14 | 2 | 0 | 45 | 2 | 18 |
3AUS | 6 | 2 | 0 | 4 | 142 | 194 | 17 | 25 | 1 | 1 | -52 | 2 | 10 |
4ARG | 6 | 2 | 0 | 4 | 143 | 203 | 15 | 26 | 1 | 0 | -60 | 1 | 8 |
強いから勝ったのか? どのチームも強くもあり弱くもあった気がする。実力差がどんどんなくなってきている。それは、NZが、相対的に、力を落とし(あるいは、他のチームほど成長しなかったと言った方が正しいのかもしれない)、ARGが力をつけた(あるいは、他のチーム以上に成長した)からなのだろう。以前に比べて「勝負は時の運」めいてきた。
その一つの要因がレフリング。今シリーズ、すべて違うレフリーが笛を吹いた。当然のことながら十人十色(12人12色)、当たり外れがある。
大相撲の行司が、「立行司」「三役行司」「幕内行司」「十両行司」…と格付けされているように、ラグビーのレフリーにも「格」があるなぁと感じてしまう。そして、格下のレフリーが格上の試合を吹くと試合が壊れてしまう。R5、R6の4試合を見ていて痛感した。
各チームの笛を吹かれた「P」の数は次のとおり。
R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | R6 | 計 | |
NZ | 12 | 12 | 14 | 11 | 13 | 13 | 75 |
RSA | 7 | 7 | 9 | 13 | 16 | 16 | 68 |
AUS | 16 | 13 | 16 | 13 | 11 | 16 | 85 |
ARG | 14 | 9 | 12 | 12 | 18 | 22 | 87 |
プロ化(=選手はプロ、レフリーは「?」)の時代。選手の方が競技規則を熟知している。R5、R6の各試合、選手はレフリーを信頼せず(できず)・面従腹背、レフリーは「その任にあらず」というか「荷が重すぎて」権威を振り回し・試合を壊していた。特に、RSA/ARG戦の「P」の数、特異値と言ってもいい。もう一つの表われがイエローカード。
各チームの突きつけられたイエローカードの数は次のとおり。(RSAのR1「(1*)」はレッドカードで外数)
R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | R6 | 計 | |
NZ | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 4 |
RSA | (1*) | 1 | 1 | 2 | 2 | 2 | 8(1*) |
AUS | 0 | 1 | 2 | 1 | 3 | 2 | 9 |
ARG | 1 | 0 | 0 | 1 | 2 | 4 | 8 |
イエローカードは今シリーズ「29」出ている。そのうち、R5・R6で「16」。「乱れ飛んだ」とでも形容できよう。象徴的である。そして、ペナルティトライ。
今シリーズ、ペナルティトライは「6」。内容は次のとおり。
カード | 原因 | イエロー | |
R1 | ARG/AUS | ラインアウト・モール・コラプシング | 有 |
R5 | ARG/RSA | ラック・オフサイドの位置からタックル | 有 |
R5 | ARG/RSA | ゴール前ラックでネックロール | 有 |
R6 | NZ/AUS | ラインアウト・モール・コラプシング | 有 |
R6 | RSA/ARG | ラインアウト・モール・コラプシング | 有 |
R6 | RSA/ARG | ラインアウト・モール・コラプシング | 有 |
「ラインアウト・モール・コラプシング」と書いたが、詳細に書くと㈰一方のチーム(以下「甲」)が「P」を犯し ㈪相手チーム(以下「乙」)がPKでタッチに蹴り出し ㈫甲陣内22m内での乙ボールラインアウトになり ㈬乙がラインアウトを獲得し ㈭乙がモールを組み ㈮モールが甲ゴールラインに向かって前進し ㈯乙が「P」で止める 一連の流れである。上記の4事例のうち、最初の事例は㈯の「P」が二回目で、R6:3事例は㈯の「P」が一回目でペナルティトライが相手に与えられた。
R2:RSA/NZ:50分からのNZゴール前の攻防では㈯のNZの「P」が二回あり、二回ともレフリーが注意するだけで終わった。このシーンを記憶している人びとはどれぐらいいるのだろうか。あのシーンで上記の試合同様、ペナルティトライ(+イエロー)が出されていれば、その後のワールドラグビー界は大きく変わったと思われる。少なくとも、今シリーズの「公平性・一貫性」は損なわれている。
インプレー中は「ありうること」に満ちている。それが「あったこと」と「ありえたこと」に分かれる。「あったこと」は必ずしも「あるべきこと」「あってほしいこと」ばかりではない。「あったこと」だけが記録され「ありえたこと」は忘れられてゆく。歴史とは、こういう偶有性の中の事実の集積であり、「ありえたけれども起こらなかったこと」は記憶から消し去られてゆくのであろう。
かつて、楕円球(のバウンド)がラグビーの不確実性の象徴としてよく語られていた。近年、あまり聞かなくなったのは気のせいなのだろうか。
各チームの犯した「P」を対戦相手別にすると次のようになる(横方向に犯した数、縦方向に与えられたPKの数)
NZ | RSA | AUS | ARG | 計 | |
NZ | @ | 24 | 26 | 25 | 75 |
RSA | 14 | @ | 22 | 32 | 68 |
AUS | 27 | 29 | @ | 29 | 85 |
ARG | 24 | 40 | 23 | @ | 87 |
計 | 65 | 93 | 71 | 86 | 315 |
NZ:自ら犯した「P」が75、相手が犯したのが「65」。相手を上回る「P」でありながら、勝っている。NZらしい象徴的な数字である。試合ごとに見ていくと、相手より多い「P」が4試合:R1・負け R2・勝ち R3・負け R5・勝ち。
RSAだけが自ら犯した「P」(=68)より相手の犯した「P」(=93)が多い。
AUS:相手より少ない「P」の試合はR5:AUS/NZのみ。
ARG:NZとAUSに対しては、相手より少ない「P」しか犯していない。めきめき進化している。
各チームの「イエローカード」数を表にすると次のようになる。
NZ | RSA | AUS | ARG | 計 | |
NZ | @ | 1 | 1 | 2 | 4 |
RSA | 1(1*) | @ | 3 | 4 | 8(1*) |
AUS | 5 | 3 | @ | 1 | 9 |
ARG | 1 | 6 | 1 | @ | 8 |
計 | 7 | 10 | 5 | 7 | 29 |
NZの勝因の一つが「カード」の少なさ。これがなぜなのか、NZ、本当に強いのか、気になるところである。
世界は狭くなり、様々な情報が瞬時に駆け巡る。それもあって、各チームの実力差が接近してきた気がしている。そして、予選リーグは、様々な「格」のレフリーが笛を吹く。「カード」「ペナルティトライ」の重みは増し、不確実性も増してきている。来年のW杯、この4か国のどこが優勝しても不思議ではない。一方で、どのチームが予選リーグで敗退しても不思議ではない。
令和4年10月1日
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