2019 W杯・備忘録 97
~ 第4回大会・準決勝 FRA/NZ ~
こんなに面白い試合はない。フランスでは「世紀の試合」として語られ続けている。
試合数日前、NZ・HCはインタビューに「フランスに負けるには、自分たちは強すぎる」と答えていた。何といっても、4ヵ月前の6月26日・ウェリントンでのテストマッチでは54-7と圧勝していた。自信満々、だから、NZは決勝戦に向けてのスケジュールなども公表していた。
ロンドンのブックメーカーの付けたフランスの勝利確率は60分の1。
それを聞いたフランス人の大半もそうだろうなぁと感じていた。大会前の夏のテストマッチシリーズは芳しくなく、ケガ人も続出、予選プール最終戦での主力選手のラフプレーが試合後問題となり、出場停止処分を課せられる。そして、それまでのW杯と同様、チーム内の抗争が日々報じられていた。
試合直前のNZのハカ、リザーブも交えて行われている。この時は現在のような逆三角形ではなく、先導者を囲んで半円形に並んでいた。
試合経過は次の通り。FRAの得点は「○」、失点は「●」、FRAが得点を逃したのは「×」、NZが得点を逃したのは「*」。
分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート | |
〇 * * ● * ● ○ ● ● * ● | 1 4 5 8 14 19 20 23 24 34 40 | 3- 0 3- 3 3- 6 10- 6 10- 9 10-14 10-17 | PG PG PG PG YCard PG T+G PG T YCard PG | FRAのキックオフで試合開始。 NZのP(ライン・オフサイド)。FRA・10・PG FRAのP(ノットリリース)。センターライン付近からNZ・⑩・PGを狙うもポストに当たって外れる。 FRAのP(ライン・オフサイド)。センターライン付近からNZ・⑩・PGを外す。 FRAのP(オフサイド)。NZ・⑩・PG NZ・⑭ランでFRAゴール前に迫るもFRAのP(ハイタックル・イエロー)。NZ・PKをタッチに蹴り出しFRAゴール前ラインアウトからモールでゴールに迫る ⇒ FRAのP(ラック・オフサイド)。NZ・⑩・PG FRA・リスタートのキックオフをマイボールにし、FRAのロングキックがNZインゴールに。⇒NZのドロップアウト。NZ・⑩がFRA22m付近までのロングキック:FRA・10ラン→4ラン(ラック)9→11抜けてNZゴール前で止められ(ラック)13→10・トライ。10・G。 FRAのP(ラック・ハンド)。NZ・⑩・PG FRAのキックオフ:NZボール(ラック)⑨ロング・ボックスキック:FRAキャッチできず(NZボール・ラック)⑨→⑫→⑪FRA5人以上をなぎ倒し30m走り切ってトライ。⑩・G外す。 F・2のデンジャラスタックルでP(イエロー) FRAのP(ノットリリース)。NZ・⑩・PG |
● ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● | 45 47 49 52 55 58 60 75 80 | 10-24 13-24 16-24 19-24 22-24 29-24 36-24 43-24 43-31 | T+G DG DG PG PG T+G T+G T+G T+G | FRA22m内のFRAボール・ラインアウト・モールから9→10ロングキック:NZ・⑮キャッチ・ラン→⑪ラン→⑮ラン→⑪トライ。⑩・G FRAのキックオフ:FRA・20がタップしてFRAボール(ラック)6(ラック)4(ラック)9→10→13縦クラッシュ(ラック)11(ラック)9→10・DG NZのキックオフ(FRAラック)9→10ロングキックNZ⑪キャッチ→⑮→⑭ラン(タックルされFRAラック)4ピック・ラン(ラック)9→10→14(ラック)9→3←5(ラック)9→10・DG NZのキックオフ(ラック)9→10ロングキック⑭ノックオン⇒FRA・スクラム:NZのP(オフサイド)。FRA・10・PG NZのキックオフ⇒ 15・22m内・フェアーキャッチでFK ⇒NZ10m下がってなくて再びFK ⇒NZのP(オフサイド) FRA・10・PG NZのキックオフ:10キャッチしてロングキック⑭→⑮→⑫(ラック・ターンオーバー)9背後にキック11の胸に入りトライ。10・G NZのP(オブストラクション)⇒FRA・PKをタッチに蹴り出す⇒FRAラインアウト・モールを作り15m押しNZゴール前に(ラック)9→10ショートパントをインゴールに13が押さえてトライ。10・G FRAのP(ハイタックル) ⇒ FRAレフリーに文句を言って10m下げられFRA22m内に ⇒ NZスクラムを選択⑨→⑩→⑬→⑩→⑭ノックオン:転がったボールを6がキック14が拾ってトライ。10・G FRA22m内のNZスクラム⑧→⑱(ラック)6(ラック)?(ラック)⑱→⑮トライ。⑩・G |
(注)「→」は順目のパス。「←」は内返しのパス。
○に入った数字はNZ選手の背番号。
24分、ロムーが100kg超のFRA・FWをなぎ倒してトライする。そして、45分、再びロムーがゴールめがけて走る。今度は、誰もタックルに行こうとしない、というか、触りにいこうとすらしない。電車道をロムーが快走してトライ。14点差がつく。テレビで見ていて、「この試合は終わったな」と感じたことを今でも思い出す。
ところが、ここから7回連続FRAが点を取っている。ロムー2本目のトライの直後のキックオフからノーホイッスル・DGで3点、NZのキックオフからノーホイッスル・DGで3点、NZのキックオフからNZ・⑭のノックオンによるスクラム1回を挟んでPGで3点、NZのキックオフからフリーキックを挟んでPGで3点。あっと言う間(10分弱)に逆転。
しかも、その次のNZのキックオフからノーホイッスルでトライ・ゴール。
こんな連続シーン、見たことない。
NZからすれば、悪夢としかいいようのない時間帯だった。後知恵でしかないが、NZはゲームを殺しておくべき時間帯だった。
この試合、FRAは4トライ、すべてバックスの選手が押さえている(10・11・13・14)。そして、10の的確なG・PG・DGで加点している。フレンチフレアー全開。スリリングでエキサイティングなラグビーである。どうしてもバックスに目がいきがちになる。でも、それを支えるFWの地味なプレーの積み重ね・いいボールの獲得・供給がなければ、フレアーは花開かない。この試合、フランスFWは、乱暴狼藉を働くことによってボールを供給していた。
シャンパンラグビー全開と形容されるかもしれない。しかし、フランスで「シャンパンラグビー」という言葉をついぞ聞いたことがなかった。そもそも「シャンパンラグビー」と呼ばれたのは、ある時の13人制ラグビーのフランス代表のことと書かれていた記憶がある。
NZ・9は、後年、フランスでプレーしていて、その時インタビューに答えて「あの試合、フランスFWは、ラックでは金玉を狙い、モールでは目潰し(フランス語で「fourchette(原義:食器のフォーク)」。エレロ・ラグビー辞典・230項目の一項目に挙げられている。アマチュア時代、立派な「技」として認知されていた。もちろん、レフリーに見つかればP。)とにかくやりたい放題だった。」と回想している。
FRAは前半、12のPを取られている(80分間では、FRA:19(うちイエロー2)、NZ:9)。このうちの2回はイエローカード(ただし、当時はレフリーによる「警告」のみ)が出されている。現在のように10分間シンビンだったら、前半の早い時間帯でこの試合は壊れていただろう。表面的なPだけでもこれだけあるが、見れば見るほど、Pを取られなかったラフプレーが散見される。
今でも、語られている一つが、NZ・⑦に対するもの。NZ・⑦はFWとロムーを繋ぐ要のプレーヤー。彼に対しては、レイトチャージなど「痛めつける」プレーを次々に見舞っている。(この点に関しては、FRA選手・関係者で否定する人と肯定する人がいる)。
もう一つが、前半40分過ぎ(当時はロスタイム制)、NZ・⑨が独走してゴール前に迫ったシーン。FRA・13が首絞めして倒し放さない(明らかにレッド相当)。そして、選手が折り重なり、3が耳を噛んでいる(これも否定・肯定、両説あり。少なくとも映像で見る限り、噛んでいる。レッド+出場停止相当)。レフリーの笛が吹かれ、NZ・⑨は気絶している。レフリーはタッチジャッジと話し合い、FRAのP(ノットリリース)を取って再開した。
現在のTMOがあれば、上記以外のシーンも含めて、おそらくFRAの過半の選手はレッドカードを提示されていただろう。ただ、アマチュア時代のフランスラグビーでは日常茶飯の・見慣れた行為の連続でもあった。おそらく、レフリー・フレミング(SCO)にとっても見慣れていたのだろう。
一方のNZ・FWがクリーンだったかというと、今の基準ではアウトのラッキングなど、やはり「荒い」プレーが目立つ。両チームのハイタックル(首タックル)もしばしばある。
その意味でも、こういう試合は二度と見られないと思う。
フランスの勝因の大きな要因がガルティエの存在。現フランスHCのガルティエは、選手としてW杯に4回連続出場している。まず、第2回(1991年)22歳で選ばれ、先発出場している。第3回(1995年)は当初選ばれず、本人が南アのクラブでプレーすべく南アに滞在していてスクラムハーフにケガ人が出たため、急遽招集され、バスで3時間かけてチームに合流し、あの準決勝RSA戦に先発出場している。迎えた第4回(1999年)予選リーグは自国開催ながら、夏のNZ遠征敗北の責任を取らされメンバー外に。開幕戦は自宅ソファーで観戦するハメに。だから「街で首脳陣とすれ違っても目も合わせないだろう」と。それが、フランス代表のあまりの不出来さに選手の中にガルティエ待望論が湧き上がる。そして、HCはいやいやガルティエを呼び戻すことに(この間の経緯は、いろいろと面白おかしく語られ続けている。)。「自宅から3分で合流した」と語っている。そのガルティエが主導権を握り(どこまで主導権を持っていたかは、後日、ガルティエその他とHCで言っていることが食い違っている)、この準決勝を迎えていた。
そのガルティエとハーフ団を組んだラメゾンは、大会直前HCから「スタンドオフとして3番目のオプション」とベンチメンバー外を通告されていた。ラメゾンは、後日、この件に関して「率直に言ってくれてありがたかった」と振り返っている。
ともかく、「ONE TEAM」にならない時の方がチームパフォーマンスが上がる。これもフレンチパラドックスなのか…
面白いけれど、不思議な試合だ。何度見ても見飽きない。
令和3年10月2日
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