2019 W杯・備忘録 98
~ 第5回大会・決勝 ENG/AUS ~
第1回:NZ:5月23日(土)~6月20日(土)、第3回:RSA:5月25日(木)~6月24日(土)、そして第5回はAUSで10月10日(金)~11月22日(土)開催された。南半球でも秋開催。ラグビー界のグローバル・カレンダーがかなり固まってきた時期である。
この大会から20チーム・予選プール4組の今日に至るスキームが採用された。
それにしても、見返してみて、まず感じたのは、AUS・HC・エディー・ジョーンズが若いこと、当たり前と言えば当たり前なのだが…
この大会前のランキングは、ENGが1位。おそらく、北半球のチームがランキング1位となっていた稀有な時期ではなかっただろうか。決勝は、そのENGと万年優勝候補のNZを準決勝で破ったAUSの対戦。
試合経過は次の通り。ENGの得点は「○」、失点は「●」、ENGが得点を逃したのは「×」、AUSが得点を逃したのは「*」。
分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート | |
● ○ ○ × × ○ * ○ | 5 11 18 22 24 26 28 37 | 0- 5 3- 5 6- 5 9- 5 14- 5 | T PG PG DG PG PG T | ENGのキックオフ(ドロップキック!)で試合開始。 ENG22m内でのAUSラインアウト⇒ENG選手の人数が多くてAUSにフリーキック⇒AUSスクラムを選択。一度崩れて組み直し後⑨→⑩ENGゴールライン上にハイパント⑪がキャッチしトライ。⑫のGはポストに当たって外れる。 AUSのP(ラック・倒れ込み)ENG・10・PG AUSのP(ノーボールタックル)ENG・10・PG ENGスクラム9→14→10→14(ラック)9→10→2(ラック)9→10(AUS10mあたり)・DG・左に外す ENG・AUSゴール前に迫り、ラストパスを5・ノックオン AUSゴール前のENGスクラム⇒AUSのP(⑦が肩を外す)⇒ENG・10・PG AUSスクラムでENGのP(コラプシング)⇒AUS・⑫・PG外す ENGラインアウト9→10→13縦(ラック)9→8ラン←10→14・ゴール隅にトライ。10・G外す |
● * ● × ● | 46 51 59 70 78 | 14- 9 14-11 14-14 | PG PG PG DG PG | ENGのP(ラック・オフサイド)AUS・⑫・PG ENGのP(オブストラクション)AUS・⑫・PG外す ENGのP(ラック・ハンド)AUS・⑫・PG ENGラインアウトからモールを少し押し9←10→15(ラック)9→10←3(ラック)9→10中央やや右30m・DG・外す ENG22m内のAUSスクラム・組み直し後ENGのP(?)⇒AUS・⑫・PG |
○ × × | 81 87 89 | 17-14 | PG DG DG | ENGラインアウトでAUSのP(オブストラクション)⇒ENG・10・PG ENGラインアウト9→21縦→5縦(ラック)9→10→21(ラック)8(ラック)9→10→4(ラック)9→10→11(ラック)9→21・DG、チャージされる ENGスクラム9→10←21(ラック)9→10・AUS22m内中央からのDG左に外す |
● ○ | 96 98 | 17-17 20-17 | PG DG | ENGのP(ラック・ハンド)AUS・⑫・PG ENGラインアウト9→10→21縦(ラック)9縦10mラン(ラック)7→4(ラック)9→10右足でのDG。 |
(注)「→」は順目のパス。「←」は内返しのパス。
数字の○は、AUS選手の背番号
決勝ゴールを繰り返して見てきたせいか、飛び道具:ドロップゴールの有無が勝敗を分けた印象が残っている。得点経過表を見ても、AUSは一度もDGを狙っていない。ウィルキンソンの決勝DGだけを繰り返し見てきたせいか、試合中、それまでに3回DGを外していることを忘れていた。80分間の試合が終わり、延長戦に入る前の短い時間にもウィルキンソンはDGの練習をしていた。ここまで徹している選手、滅多に出現しない。そして、決勝ゴールは、利き足でない右足のキック。やはり努力の天才…
当時、テレビで見ていて、後半ラストのAUSボール・スクラムでのENGのP、なんなんだ?と不思議に思ったことを思い返す。今回見返しても、何をペナライズされたのかわからない。
このシーンについて、大会後に出版されたENG・ジョンソン主将の自伝では次のように回想されている。
『The Aussies had the put-in to a scrum, we got the shove on them and their tight-head, unable to cope, folded in. There is no doubt that referee Andri Watson should have awarded a penalty to us. Game over. Instead, he ordered the scrum be reset and then he penalized us.』
あらためてこの試合を見返して、スクラムでは素人目にはENGが常に押しているように見える。そうでありながら、前後半80分でAUSボール・スクラムが16回あり、そのうち、4回でENGがPを(28分、56分、63分、78分)1回ENGがアーリーエンゲージ(⇒AUSのフリーキック)を取られている。一方、ENGボール・スクラムは7回あり、そのうちの1回でAUSのP(ただし、7番が肩を外したオフサイド)が取られている。
素人が見ても、実におかしなPの取り方であった。
ジョンソンの自伝では、AUS・3番が準決勝NZ戦のスクラムで首の大けがを負った経緯が書かれた後、次のように書かれている。
『His replacement, Ali Baxter, had just a handful of Tests and their loose-head, Bill Young, is not the strongest of scrummagers. When you consider the difference in size, power, experience and ability between our front row and the Wallaby one, it was mystifying to me that the referee could imagine that we would be scrummaging illegally. Why would need to? Vicks and Trevor were taking them apart as it was.』
これに対して、エディー・ジョーンズは、こう回想している。
『テストマッチは、アウェーで勝つには難しい。これまでの歴史が示すように、レフリーは無意識のうちに、どちらかと言えばホームチームに有利な判定を下しがちだ。スタジアムには大勢のイングランド人がいて、応援歌の『スイング・ロー・スウィート・チャリオット』が地鳴りのように響いていた。だがワラビーズのホームであるのに変わりはなく、満員の観客席は明らかに白よりも金色で占められていた。2大会連続で決勝戦を担当する南アフリカ出身のレフリー、アンドレ・ワトソンも、いくつかの場面では多少オーストラリアに有利な笛を吹いていた。後半、我々はイングランドを無得点に抑え、エルトン・フラットリーは3本のペナルティーゴールを決めた。―特に最後の1本は22メートルライン上の比較的やさしい位置からのペナルティーキックだったが、残り時間はすでになく、外せば負けというプレッシャーのなかでのキックだった。フラットリーはこれを上手く沈め、我々は息を吹き返す。』(エディー・ジョーンズ 高橋功一訳『エディー・ジョーンズ わが人生とラグビー』ダイヤモンド社 2021年 p202)
もちろん、レフリーは様々な圧力の下で判断している。そして、「無意識に」なのかどうなのか、ともかくどちらか一方に有利な笛が吹かれるように感じられる。もちろん、レフリーの個性も関係してくるのだろう。
当時は、見ていて、北半球のレフリーと南半球のレフリーの判断が一番開いていた時期だった気がしている。(グローバルレベルだけでなく、国内においても、関東協会のレフリーと関西協会のレフリーは、明らかに判断が違っていた)。まだまだ、お互いの地域の交流が蜜ではなかったのが一因の気がしていた。プロ化というよりもテレビ化・視覚化が進展し、かつ、レフリーの南北交流が進むことにより、その違いが少しずつ解消してきた気がする。
今日、実は一番大きな圧力となっているのは、ある意味で観客の「ブーイング」なのかもしれない。そして、南半球の観客と北半球の観客ではプレーに対する反応が違う気がしている。仮に、そうだとすれば、南北の違いはいつまで経っても解消されないかもしれない。
令和3年10月9日
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