2019 W杯・備忘録 145
〜 進化 〜
南半球4か国のザ・ラグビー・チャンピオンシップ、第4節を終えて、全チーム2勝2敗、メディアは「今年の優勝はどこか」を第一に報じ続けている。一方、W杯至上史観から見れば、どのチームが成長しているのか、が気になるところである。どのチームも勝ちにこだわりながら、2023W杯決勝から逆算して、今、試すべきことを実行している気がする。
先週末の第4節二連戦の第2戦、チームの修正力・適応力が問われる試合。番付どおり、NZがARGに大勝(53-3)し、RSAがAUSに完勝(24-8)した。どのチームも「進化」を求めて、試行錯誤が続いている。
広辞苑(第7版)では、「進化」が次のように解説されている。
㈰進歩し発展すること。⇔退化
㈪〔生〕生物個体群の形質が、世代を経るにつれて遺伝的に変異し、元の種との差異が増大してゆくこと。⇒退化㈪を含む。
㈫〔社〕生物における進化の観念を社会に適用した発展の観念。社会は同質のものから異質のものへ、未分化のものから分化したものへ一方向的に進むとする。H.スペンサーが提唱。社会進化。
どのチームも「進化㈰(=発展)」を目指している。
では、「チーム」の進化って何なのだろうか。チームは「(一つの)生きもの(=進化㈪・退化も生じる)」でもあり「(人の集団である)社会」でもある。進化の種を、個々人に見出すのか、それともチーム戦略・戦術に見出すのか、これまた各人各様であろう。進化した結果、負けることもあるのだろう。
第4節の試合を見て、まず感じたのは、NZがキックを普通に使いだしたこと。もちろん、雨(第4節の2試合は、いずれもこのシリーズ初めての雨天での試合)の影響もあったのであろうが、意図して蹴っているように思えた。逆に言うと、それ以前の試合では「禁欲的」に蹴ることを避けていたように感じていた。
各チーム・各試合の「Kicks in play」の数は次のとおり。
表-1
第1戦 | 第2戦 | 第3戦 | 第4戦 | |
NZ | 16 | 19 | 15 | 32 |
AUS | 16 | 12 | 21 | 25 |
RSA | 30 | 23 | 20 | 31 |
ARG | 15 | 29 | 25 | 25 |
各チームのstatsを見比べてみると、雨の影響だけではないような気がする。では、NZ、意図して変えてきたのであろうか。もともと、キックを一旦封じてチーム力向上を目指したとも思えるし、アタック担当コーチにシュミット(前IRE・HC)が就任した効果なのかもしれないし、選手の瞬時の判断が反映したのかもしれない。NZ、3戦続けて同じ先発メンバーの中での変化(これが「進化」か否かは議論の余地が大いにあるだろう)、対戦チームがどう捉えているかも気になるところである。次戦、AUSがどう対応するのか興味深い。
これまでの8試合のうち7試合で、相手チームよりキック数が多いチームが勝っている。たまたまなのだろうか?
キックが多くなれば、パスは少なくなるのか?
各チーム・各試合の「Passes」の数は次のとおり。
表-2
第1戦 | 第2戦 | 第3戦 | 第4戦 | |
NZ | 158 | 169 | 179 | 163 |
AUS | 135 | 139 | 105 | 125 |
RSA | 92 | 99 | 123 | 119 |
ARG | 114 | 123 | 85 | 128 |
少なくとも、展開志向の強さとパス数は、ある程度、相関しているようだ。NZは、全試合、相手チームよりもパス数は多い。興味深いのは、RSAが相手チームよりも多いパス数の試合は1試合(第3節 RSA:123 vs AUS:105)でこの試合は負けている。
これまでの8試合では、パス数が相手チームより多かったチームの勝利は「3」。これまた、たまたまなのだろうか?
各チーム・各試合のスクラムハーフの選手の「Kicks in play」の数は次のとおり。
(数値上段:実数 下段:表-1実数に占める割合(単位:%))
表-3
第1戦 | 第2戦 | 第3戦 | 第4戦 | |
NZ | 2 12.5 | - 0 | 4 26.7 | 5 15.6 |
AUS | 11 68.8 | 4 33.3 | 10 47.6 | 12 48.0 |
RSA | 13 43.3 | 13 56.5 | 4 20.0 | 7 22.6 |
ARG | 2 13.3 | 5 17.2 | 4 16.0 | 4 16.0 |
近年目につくのが、ハーフのボックスキック。これを多用するチーム(AUS・RSA)とそうでないチーム(NZ・ARG)は、はっきり分かれる。RSAが第3戦・第4戦とボックスキックが激減したのがチーム戦略なのか、それとも選手の交代(後述)によるものなのか、気になるところである。
各チーム・各試合のスクラムハーフの選手の「Passes」の数は次のとおり。
(数値上段:実数 下段:表-2実数に占める割合(単位:%))
表-4
第1戦 | 第2戦 | 第3戦 | 第4戦 | |
NZ | 78 49.4 | 78 46.2 | 100 55.9 | 86 52.8 |
AUS | 61 45.2 | 76 54.7 | 53 50.5 | 68 54.4 |
RSA | 57 60.0 | 43 43.4 | 57 46.3 | 57 47.9 |
ARG | 41 36.0 | 59 48.0 | 47 55.3 | 73 57.0 |
どのチームも、パス数のほぼ半分がスクラムハーフによるもの、実感に合っている。
「進化」という点では、選手の新陳代謝がどのように起こって来るのかも興味深い。RSAのスクラムハーフ、2019W杯時点では、㈰デクラーク ㈪ヤンチース ㈫ライナーの序列で使われていた。先発で使われていたデクラーク、このシリーズ第1戦:0分、自らの逆ヘッドタックルで脳震盪を起こし退場・交代、第2戦:脳震盪の影響で欠場、第3戦:先発で出場するも相手9番にビンタを食らわせTMOでイエローカードをもらい・60分で交代、第4戦:ベンチ外に(これが何を意味するのか、今後判明してくるのだろう)。第1戦:デクラークの不測の事態に交代で入ったのがヘンドリクセ、80分間見事にプレーし、第2戦:先発、第3戦:リザーブで20分プレー、第4戦:先発、と新旧交代をうかがわせる使われ方をされ、チームに完全に溶け込んできた感がある。こういうのを「持っている」というのだろうか。
「進化」は思わぬことからも生じるのかもしれない。
どのチームが「進化㈰」を達成しているのか、来年のW杯の結果で定まる。
令和4年9月10日
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