2019 W杯・備忘録 53
~ 勝利の涙 ~
久しぶりに、いい涙を見た。
2019年10月9日熊谷でのM30 予選Pool C 対USA戦以来、402日ぶりの公式戦、2020The Rugby Championship・Round3・NZ戦で、ARGが予想を覆す歴史的勝利をものにした。ノーサイド直前、レデスマHCが感極まって涙するシーンが映し出された。
試合経過は次の通り。ARGの得点は「○」失点は「●」、狙ったが外したのは「×」。
| 分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート |
× ○ ● ○
×
○ ○ | 2 3 10 17
21
25 31 | 0 - 0 3 - 0 3 - 3 10 - 3
13 - 3 16 - 3 | DG PG PG T・G
PG
PG PG | ARG・LOから6フェーズ目 NZ・ラックに横から入ってP ARG・ラインオフサイドのP NZ、ARGゴール前でノットリリースのP→ARG・PKをタッチに蹴り出しLO→そのLOでNZがP→ARG・PKをタッチに蹴り出しLO→ARG、15フェーズを重ね、Pのアドバンテージが出て、スタンドオフがディフェンス背後にショートパント、自ら押さえる。 ラックでのARGの入り方にP、直後にNZ・2番が相手選手を軽く叩いて、Pの差し替え NZ、レイトチャージのP ARG、NZインゴールでグラウンディング出来ずに5mスクラムに。そのスクラムでNZ・1番コラプシングのP |
○
●
○ ○
● | 46
52
57 75
81 | 19 - 3
19-10
22-10 25-10
25-15 | PG
T・G
PG PG
T | N・15番のノックオンでARGのスクラム→スクラムでNZのコラプシングのP→ARG・PKをタッチに蹴り出しLO→ARG・LO後モールを押し、NZ・モールコラプシングのP ARG・ラックに横から入ってP→NZ・PKをタッチに蹴り出しLO→NZ・LOからモール、ARG・モールに横から入りP→NZ・PKをタッチに蹴り出しLO→NZ・LOモールから押し込む ARG・LOから展開、NZ・ラインオフサイド ARG・自陣22m内でラインオフサイドのP→NZ・クイックで展開・ラックでノットリリースのP→ARG・PKをタッチに蹴り出しLO→NZ・LOでP ARG・P→NZ・クイックで展開→ARG・P→NZ・クイックで展開→ARG・ノット10m→NZ・PKをタッチに蹴り出しLO→ARG・P→NZ・クイックで展開 |
トライ数だけ見れば、NZ・2に対してARG・1。
備忘録・49でも取り上げたマイボールリスタートであるS:L:Pで見てみると、
| S | L | P | S+L+P回数 |
ARG | 5/5 | 8/9 | 13 | 27 |
NZ | 3/3 | 17/19 | 16 | 38 |
S:L:P比で見ると、ARGは 1 : 1.8 : 2.6、NZは 1 : 6.3 : 5.3 となる。
(ちなみに、W杯決勝ラウンドの勝者 1 : 1.4 : 1.2、 敗者は 1 : 2.3 : 1.7
S+L+Pの回数は、勝者 25、敗者 25 と 同数であった。 )
NZは、かなりのマイボールリスタートの機会がありながら、それを得点に結びつけることができなかった。よく言われるように、「NZはアンストラクチャーから得点する」ということは、裏返せば「NZはストラクチャー(=マイボールリスタート)から得点できない」ということの表れなのかもしれない。
この試合を象徴しているのが、NZボールスクラムが3回。ARGは「つまらない・些細なミス」をほとんどしなかった。長く実践から遠ざかっていたチームとは思えない精度・集中力の賜物であろう。
もう一つの象徴が、NZが得たPKの16回。それでいてPGは1回・3点のみ。結果論に過ぎないのだろうが、勝ちに拘るのであれば、PGで得点を積み重ねていくべきであっただろう。国内の試合でもしばしば見受けられるが、狙えるところで狙わずにPKを蹴り出し、ラインアウトからのトライを狙うという戦術、うまくいけばチームに勢いをもたらす。しかし、相手に阻止されれば、相手に勢いをつけるとともに悪循環に陥る。そういう典型的な展開でもあった。
スタッツ(The Rugby Championshipを主宰するSanzarのホームページに直後に掲載されている)で目を見張るのは、ARGの6番・7番の働き。
| 6番 | 7番 | ||||
T | MT | PC | T | MT | PC | |
ARG | 10 | 2 | 2 | 28 | 3 | 4 |
NZ | 4 | 1 | 1 | 10 | 3 | - |
(注)T:タックル数 MT:ミスタックル数 PC:ペナルティを犯した回数
「刺さりまくる」とともに、6番・7番二人で6回のペナルティ。これをどう評価するか、人それぞれなのだろう。ともかく、勝利の立役者である。
2019W杯で一敗地に塗れたARG。それを率いたHC・レデスマの横には大会後「くびになった」AUS・HCチェイカが。リベンジ組の勝利であった。この試合の全得点をあげたスタンドオフ・サンチェスも、あの対FRA戦の戦犯として名指しされスタメン落ちした。いろんな思いが駆け巡った400日余であったことだろう。そして「涙」。
もう一人、書かずにいられないのが、ガードナー(AUS)。ARGからすれば、あの2点差で負けたFRA/ARG戦を吹いた「憎っくき」レフリーである。
2020The Rugby Championshipは、オーストラリア一国開催。レフリー陣はW杯で笛を吹いたガードナー、ベリーの二人のAUS人とオキーフ、ウィリアムスの二人のNZ人で構成され、この四人が各試合、それぞれ主審・副審2・TMOの役割を分担している。
選りによって、この試合は主審:ガードナー、副審1:ベリー、副審2:ウィリアムス、TMO:オキーフで行わることになった。
試合は、開始早々荒れ模様。3分両チームの「小競り合い」が。ガードナーは、両チームキャプテンと当事者・NZ・6番を呼んで(ARGの当事者はキャプテン・6番・マテーラ)、まず、NZ側に注意を促し、次にARG・キャプテンに「落ち着くように。あなたがキャプテンなのだから模範を示すように…」と注意したところ、ニコリともせず「俺は母国をリスペクトしているんだ。国の為にプレーしているんだ」(半分想像です…)と言い返してプレーが再開される。そういえば、「愛想のいい」アルゼンチン人って見たことない。
ともかく、W杯・M3 FRA/ARG戦では口数の多くなかったガードナーが、この試合、NZの試合ということもあり、英語でしゃべり続けていた。そして、ぶれずに笛を吹いた。Pの数の多さが、それを物語っている。この試合のPは、両チーム合わせて29。W杯でのM3 FRA/ARG戦・18(ARGに5)、M14 JPN/IRE・15、M39 WAL/URG・21に比べると多い。ガードナーにとっても忘れられない試合となったことであろう。
世界のラグビーシーンは動いている、一本道を歩むが如く。W杯の各大会は、世界のラグビーシーンの貴重な「一里塚」のように思えてきた。
WRランキングを決める各国の持ち点、勝てば増え・負ければ減る。この試合では、NZが持ち点を2減らし91.17から88.17になり、2位から3位に落ち、ARGは持ち点が78.31から80.31になり、10位からWAL・JPNを抜いて8位になっている。
W杯後、その持ち点が動かない(=試合を行っていない)のは、RSA(94.20)とJPN(79.29)の二カ国である。いつになったら、持ち点が動くのか、気になるところである。
ARGはオールブラックスから勝利した7番目の国となった。JPNが8番目の国となる日は、いつ来るのだろうか?
令和2年11月21日
0 件のコメント:
コメントを投稿