2020年11月14日土曜日

岡島レポート・ 2019 W杯・備忘録 52

    2019 W杯・備忘録 52

      ~  大学ラグビー ~

  エディー・ジョーンズの日本ラグビーに対する指摘は鋭い。傾聴に値する。彼は、常々、日本の大学ラグビーのあり方に苦言、というよりも、真っ当な批判をしてきた。

 たとえば、『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは「信じること」』(生島淳著 文藝春秋 20158月刊)では、「大学ラグビーの問題点」という小見出しの中で、次のようなエディーの発言が収録されている。

 「大学ラグビーが日本のラグビーが発展するうえで、大きな役割を担ってきたのは理解しているつもりです。ただ、現状を見てみると残念ながら帝京大学以外のエリートチームは、エリートにふさわしい練習が出来ているとは言いがたい。伝統校は進歩が止まっています。学生である福岡、藤田をワールドカップの戦力にするためには、普段から適切なコーチングが必要なのに、大学での日々の練習には期待できない。帝京大学が連覇しているのは、マネージメント、コーチングが優れているからです」(p129

 「日本の大学は満足な練習環境を整備しないのに、学生に対して時間を費やすことを求めます。帝京大学が連覇している理由は、大学がしっかりと環境を整備していることにつきます」(p130

  前大会前に出版され、読んで、「おっしゃるとおり」と納得した記憶がある。特に、日本代表が強くなるためには、大学ラグビーが変わらなければ、と感じていた。

  盛者必衰、栄枯盛衰、諸行無常なのか、その後、帝京大学の連覇は途絶え、日本代表は、今大会、悲願のベスト8を達成し、決勝ラウンドに進出した。

  あらためて、W杯・各大会の日本代表選手の出身(所属)大学をカウントしてみると次のようになる。

 各大会、出身(所属)大学別の選手数

 

 Ⅰ

 Ⅱ

 Ⅲ

 Ⅳ

 Ⅴ

 Ⅵ

 Ⅶ

 Ⅷ

 Ⅸ

同志社

 ⑧  

 ⑥  

 3  

 ③  

 -  

 2  

 2  

 -  

 -  

明治

 3  

 5  

 ④  

 1  

 2  

 1  

 1  

 1  

 1  

大東

 2  

 2  

 ④  

 1  

 1  

 -  

 -  

 -  

 1  

法政

 -  

 -  

 -  

 ③  

 ⑤  

 3  

 2  

 1  

 -  

京産

 -  

 2  

 3  

 ③  

 2  

 -  

 1  

 ③  

 1  

関東学

 -  

 1  

 1  

 1  

 4  

 ④  

 2  

 1  

 1  

早稲田

 2  

 2  

 3  

 1  

 1  

 ④  

 ③  

 ③  

 1  

東海

 1  

 -  

 -  

 -  

 -  

 1  

 2  

 ③  

 3  

帝京

 -  

 -  

 -  

 -  

 1  

 1  

 1  

 2  

 ⑦  

(注) ○で囲った数字は、当該大会での同一大学から日本代表を出した選手数の最大値

    当然のことながら(?)、時の強い大学チーム出身の選手が多く選ばれる。同志社⇒明治・大東大⇒法政・京産⇒関東学院大・早稲田⇒東海大⇒帝京大と、大学ラグビーの勢力の移行が如実に反映されている気がする。

そして、今日、エディーの苦言に耳を傾けた伝統校がやるべきことをやり始めたのかもしれない…

  北半球8カ国のオータム・カップ、南半球3カ国のチャンピオン・シップが始まっている。観ていると、各チームに大学生年代の選手が次々と出場している。

    W杯日本代表で、現役大学生で選ばれたのは、第1回:広瀬(同大4年)・宮本(同大4年)・ラトゥ(大東2年)、第2回:大内(龍谷1年)・元木(明治2年)・増保(早大2年)・松田(関学3年)、第3回:赤塚(明治4年)・ラトゥ(大東4年)・廣瀬(京産4年)・オト(大東4年)、第4回:木曽(立命3年)・三木(龍谷4年)、第5回:山村(関学4年)、第6回:-、第7回:-、第8回:福岡(筑波4年)、藤田(早大4年)、第9回:-

  各国の代表選手に比べて「遅咲き」なのかもしれないが、若くして代表になる選手がいないわけでもない。

  ラグビー関係者は、ラグビーがこの国で盛んになることを熱望し続けてきた。そのための手段として、しばしば、① 日本代表の強化 ② ラグビーの普及 のための様々な改革案が語られてきた。今大会前には、「プロ化」「地域密着」を打ち出したトップリーグ改革案が出されたりもした。

 ところが(?)、日本ラグビーの構造がさほど変わらなかったにも拘らず、悲願のベスト8が達成された。その後、予期せぬCovid-19に翻弄されてもいる。

 今こそ、日本ラグビーの将来像をクールに語るべきではないだろうか。

  ベスト8「前」と「後」では、代表強化のウェートが違ってくる。おそらく「代表強化のための○○○」という主張は後景化する。そして、「出来るだけ多くの人にラグビーを」、そのためにどうすべきか、という論点がより重くなってきた気がしている。

  日本のラグビーは、他のラグビー主要国とは全く違って、各年代が学校・企業という「組織」に属するチームでプレーしている。たしかに、多くの国の選手がプレーする「地域」に属するチームとは性格を異にしている。しかし、いずこにおいても、この大流動化の時代、特定の地域から動かず「住民・ジモティ」として定住している人々は少なくなってきている。一方で、組織は組織で地域に密着もしている。

 そういう現状を踏まえれば、「地域密着」vs「組織密着」という二項対立で捉えることは意味がなくなってきている。

むしろ、この百年余の積み重ねの歴史をポジティブに捉えるべきだと感じている。

 特に、他の国のラグビーの構造と比較した場合、異彩を放っているのが大学ラグビーの「重み」である。大学ラグビーによって「すそ野」が大きく広がっているということをポジティブに捉えて発展させる手立てを構想すべきではないか、と感じている。

 また、選手たちにとっては、その次のステップでもある「社会人ラグビー」も単に少数精鋭ではなく広がりを求めることも考えるべきなのかもしれない。

一方で、見る側からすれば、接戦が望まれる。大差の試合を少なくすることも考えなければならない。

  先日、秩父宮での大学ラグビーのチケットを購入しようとしたが、受付開始2分で完売してしまい購入できなかった。もちろん、密にならないように間隔を開けた着席ということで販売数がより限定されたことも影響しているのだろうが、根強い人気・支持があることも事実である。気になるのは、観客層が高年齢層に偏っていることではあるが…

  ともかく、多くの選手が大学ラグビーで鍛えられ日本代表になっている。これは日本ラグビーの「よき伝統」として継承されるべきであろう。未来の日本代表の出身大学がどこなのか、愉しみである。

                                                                          令和21114 

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