2019 W杯・備忘録 38
~ M13 ARG/TON ~
残された記録だけを見ていると、あれッと感じる試合がいくつかある。そのうちの一つが、M13 ARG/TON戦。なんといっても、前半26分にARGは4トライ目をあげている。これは、今大会2番目の速さである。「最速」は前回の備忘録のM29 RSA/CANの18分。3番目が、M15 RSA/NAMの27分。あのNZだって、CAN相手に36分かかっている。速さに何の意味があるのか…しかし、TONは、CANじゃない、などと言うとカナダ人に叱られそうだが、6日前のM7 ENG/TON戦では、ENGは77分に4トライ目を押さえている。TONがさぼったわけではないだろうし… なぜ、こんなに「簡単に」4トライを取れたのだろうか?
また、4トライ押さえたあと、50分以上の間、ARGはただの1点も追加していない。サッカーのイタリア代表の「カテナチオ」のように、だらだらボールを回し続けたのだろうか。そんなことがラグビーで出来るはずがない!?「試合を殺しにいった」のか!?なにが起こったのだろうか?そんな興味を持って見返してみた。
大会8日目、あのJPN/IRE戦の前の時間帯、暑い昼下がりの花園で21,917人を集めて、13:45分、ARGのキックオフ。一週間前の悪夢のFRA戦を振り払うように10番に入ったウルダビジェタが右前に蹴り入れる。それをARGウィングがキャッチして前進する。素晴らしい立ち上がりもノックオンがあり、試合が落ち着かない。ARG・ラインアウト→TON・ラインアウト→ARG・ラインアウト、TON・スクラム→ARG・スクラムと続き、TONゴール前に攻め込み、ラックでTONがP。ゴール正面の至近距離でPGを狙うのかと思っていると、タッチに蹴り出し、ARG・ラインアウト。6分、狙い通りのピールオフから、この日先発出場した2番・モントーヤがライン際にトライ。ゴールも決まる。
次のトライもTONゴール前のラインアウトでのTONのPをタッチに蹴り出してのARG・ラインアウトからモールを作って押し込み、また、2番がトライ(16分)。
19分には、TON・バックスが展開し落としたボールを拾ったARG・11番が独走してトライ(19分)。そして、26分、TONゴール前のARG・スクラムから11フェーズで再び2番がトライ。ゴールキックもすべて決めて、これで、28-0。
RSA/CANは、解説の菊谷が「RSA、持ってるプレイを惜しみなく出してきてますよね」と言ったぐらい多彩な攻撃全開で、トライを重ねた。それに対して、ARGは、「用意してきた」「スペシャル」な攻撃はほとんど見られない。キック合戦で優位に立ち、Pも含めて、ゴール前に肉薄し、トライを重ねる。
では、4トライ取ったから、「手を抜いた」のか?そんなことはなさそうだ。攻撃は最大の防御、で、とにかく敵陣にいて、攻めている。後半12分には、9番がインゴールに押さえ、レフリーがトライの笛を吹くも、TMOでノックオンが確認され取り消される。後半15分にはARG・ラインアウトからバックスが抜けてインゴールに向うも、レフリーがディフェンスの邪魔をしたとして「笛」。マイボール・スクラムで再開となる。「ツキがない」のか…レフリーとの相性はどうもよくない、しっくりしていない。前の試合、対FRA戦後のレフリー批判が響いているのか、それとも、この試合のレフリー・ペイパー(RSA)と合わないのか…
結局、後半40分間で得点は、TONの1トライの5点のみ。これは今大会・ハーフタイム40分間での最小得点。次に少ないのが、M6 IRE/SCOの後半の8-0とM44 RSA/JPNの前半5-3の8点。
テリトリー・ポセッションは、前後半とも、ARGが支配している。一つの仮説は、単調な攻め。それを裏づけるのが、TONのタックル成功率の高さ。試合全体で95%。前半・93%、後半・96%。ちなみに、TONのタックル成功率、初戦の対ENG戦・81%、第3戦の対FRA戦・78%。第4戦の対USA戦・88%。ここから導き出せるのは(?)、TONのディフェンスのすばらしさよりもARGの攻撃の「策のなさ」というか、「手の内」を隠して「ぶつかり稽古」に徹したせいなのか。
「普通に」ボールを回して、「普通に」対面にぶつかる、を繰り返すだけでは、このレベルでは、点を取れない、ということか。一方で、相手陣でボールを回している分には、点を取られない、ということか。これが、ラグビーにおける「試合を殺す」ことになるのか…
ARGの日程は、三週連続、土曜日に1.FRA、2.TON、3.ENGと戦うことになっていた。ある意味、「恵まれていた」はずなのだが、初戦に「しくじった」ことで軌道修正を余儀なくされた!?レデスマHCが初戦の記者会見で「レフリー批判」をしたように、レフリーのせいにして、初期設定のまま戦うことも「アリ」だったのではないか、と感じている。しかし、「戦犯」を10番・サンチェスとし、この試合は、10番にウルダビジェタ、サンチェスは控えに。2番は先発にモントーヤ、控えにクレーピーとして、それが26分までは「ピタッと嵌まった」ようにみえた。だから、第3戦も2番、10番は第2戦と同様にし、サンチェスはベンチ外になった。ARGが、今大会全4試合、どう総括したのか、興味深い。
ノーサイド後の映像を見ていると、クレーピーとモントーヤの2番を争う二人は、いかにも一列目らしく「熱い」抱擁をしている。一方で、ウルダビジェタとサンチェスの10番を争う二人の映像は残念ながら映らない。チーム内の競争、デリケートな問題で、ARGの「躓き」の原因の一つに挙げられると思われる。
「中3日」「中4日」が話題になることも多かった今大会。では、「中5日」以上で4試合を戦ったのは、どのチームか。
グループAは、JPN。開催曜日は、金・土・土・日。
グループBは、なんとNAM。日・土・日・日。
グループCは、TON。日・土・日・日。
グループDは、AUS。土・日・土・金。
TONからみれば、試合間隔も十分で、初戦のENG戦の手ごたえもあったはずだ。そうであれば、もう少しいい試合ができたのでは、と悔やまれるのかもしれない。立て続けに4トライ取られるようなチームではないはずなのだが。試合の流れの一言ではすまされない、何かがあったのだろうか。
ベスト8に進出した8チームの中で、予選リーグの各試合で下位3チーム(すなわち、3位~5位)から4トライ未満で勝ったのは、FRAの対ARG(23(2トライ)-21)、対TON(23(2トライ)-21)の2試合のみ。FRAを「リトマス試験紙」的に見做せば、今大会のTON、けっこう強かった!? どうなのだろうか。
巣ごもり、というか、北半球のラグビー・シーンが止まってしまっているので、こういう試合(?)もじっくり見ることができる。
FRA偏愛者からすれば、どうしてもARGは「憎っくき」という形容詞を付けてしまいがちだが、今大会のARGは前評判が良すぎたせいか、あるいは、何か微妙な不適合があったせいか、ともかく、「力を出し切れなかった」感が強い。一言で言えば、第3戦対ENG戦、前半18分のレッド・カードで片付けられるのだろうが、いいチームであったことも確かである。「時の運」で片付けて忘れ去るには、ほんの少し惜しい気がするチームであった。
令和2年8月8日・記
( 参考 )
ARGボール
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
KO
|
1
|
1
|
-
|
1
|
3
|
S
|
2/2
|
3/3
|
2/2
|
-
|
7/7
|
LO
|
6/6
|
-
|
6/6
|
3/3
|
15/15
|
PK
|
3
|
-
|
4
|
2
|
9
|
FK
|
-
|
-
|
1
|
-
|
1
|
DO
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
計
|
12
|
4
|
13
|
6
|
35
|
(注) KOのうち1回は、前半開始時のもの。
S、LOの分母は、マイボールでの投入回数。分子は、そのうちのボール獲得回数。
PKの回数は、相手チームのペナルティ(反則)によって獲得したPKの回数。
ARGの得点
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
トライ(T)
|
3
|
1
|
-
|
-
|
4
|
T後のG
|
3
|
1
|
-
|
-
|
4
|
PG
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
TONボール
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
KO
|
2
|
2
|
1
|
-
|
5
|
S
|
1/1
|
1/1
|
2/3
|
4/4-
|
8/9
|
LO
|
4/5
|
5/5
|
1/2
|
3/4
|
13/16
|
PK
|
-
|
3
|
1
|
4
|
8
|
FK
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
DO
|
-
|
-
|
-
|
2
|
2
|
計
|
8
|
11
|
7
|
14
|
30
|
TONの得点
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
T
|
-
|
1
|
-
|
1
|
2
|
T後のG
|
-
|
1
|
-
|
-
|
1
|
PG
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
後半の得点は、TONの1トライ・5点のみ。すなわち、後半だけで見れば、0-5でTONが勝っている!?
前後半のリスタートの数値だけ見ていると、TONボール・スクラムが、前半2回に対して後半7回。PKでのリスタートが前半3回に対して後半5回。このあたりにゲームの特性が表れている気がする。
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