2019 W杯・備忘録 126
〜 ENG 〜
ENG、強いのか弱いのか? 愚問なのだろう。 問題なのは、ENGが次のW杯で優勝するか否か。 今日のワールドラグビー界、四年に一度の結果がすべてになってきた感がある。
では、現時点でその可能性はどうなのだろうか? 昨秋はトンガ・AUS・RSAに三連勝。一方、今年の六か国対抗は、振るわなかった。昨秋のテストマッチと今年の六か国対抗のチームスタッツを見てみる。(昨秋、第1戦トンガ戦は対象外)
まず、得失点。
表-1 得失点
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
得点 | 32 | 27 | 17 | 33 | 29 | 15 | 13 |
失点 | 15 | 26 | 20 | 0 | 19 | 32 | 25 |
どんな戦い方をしていたのかをいくつかのスタッツで比較してみる。
表-2 ボール保持率(%)
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 60 | 46 | 54 | 59 | 49 | 43 | 55 |
相手 | 40 | 54 | 46 | 41 | 51 | 57 | 45 |
当然のことながら、相手によって戦い方を変えている。ENGは、ボール保持に執着しているようには見えない。面白いのは、AUS・RSA・FRA戦の数値。
表-3 Time in Possession
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 17’48” | 14’13” | 18’08” | 22’20” | 21’32” | 14’02” | 19’36” |
相手 | 11’33” | 16’23” | 15’34” | 15’21” | 22’44” | 17’11” | 15’53” |
計 | 29’21” | 30’36” | 33’42” | 37’41” | 44’16” | 31’13” | 35’29” |
興味深いのは、昨秋のAUS・RSA戦の保持時間「計」の短さ。今年の六か国対抗15試合平均の保持時間は「38分5秒」。試合の密度が、六か国対抗で上がっている。その原因の一つが、キッキングゲームか、パスをつなぐかに起因しているように見える。パス志向の試合は長く、キック志向の試合は短い傾向にある。表-6「キック比」の数値が大きいほどキック志向に、表-7「パス数」が多いほどパス志向に、パス志向の試合の方が表-9「ラック獲得数」が多くなっている。
表-4 Time in Opposition 22
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 3’44” | 2’40” | 2’37” | 4’58” | 3’26” | 16” | 7’29” |
相手 | 14” | 2’52” | 54” | 4’41” | 5’08” | 3’23” | 16” |
六か国対抗では、「本職」のウィングを使わずにBKユーティリティプレーヤーをウィングに起用していた。それによって、相手陣深く攻め込んでいても、決めきれない試合が続いた気がする。IRE戦は、開始早々のレッドカードによって14人で戦い続けたことが影響している。
表-5 地域獲得率(%)
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 63 | 48 | 62 | 42 | 52 | 39 | 56 |
相手 | 37 | 52 | 38 | 58 | 48 | 61 | 45 |
完封勝利のITA戦、意図して相手にボールを持たせてディフェンス練習に特化していた感がある。では、RSA戦、意図して相手にボールを持たせて勝ったのか、それとも、負け試合を拾ったのか。
表-6 キック比(% Possession Kicked)
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 12.7 | 15.6 | 13.5 | 5.8 | 7.8 | 16.3 | 10.7 |
相手 | 13.4 | 14.4 | 13.3 | 10.8 | 5.0 | 6.4 | 14.0 |
(注)六か国対抗サイトでは「%Possession Kicked」の数値が掲載されているが、残念ながら定義は掲載されていない。おそらく、ボールを持っているプレーヤーのプレー選択(キックorパスor…)の内のキックを選択した割合だと思われる。数値が高いほど、キックを多用していることを示している。
秋のテストマッチ、ITA・WAL戦は意図が感じられる。IRE戦は14人になったことでの必然の選択。FRA戦、どういう意図で戦ったのか。相手に付き合わざるを得なかったのか、それとも仕掛けたのか。
表-7 パス数
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 126 | 82 | 113 | 205 | 159 | 68 | 164 |
相手 | 88 | 87 | 101 | 125 | 220 | 189 | 99 |
世界チャンピオン:RSAに勝つためには、相手と同じような戦略(=キック主体、パスを最小化してゆく)で試合を進めるべきだ、ということを表している気もしている。
表-8 オフロード
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 9 | 1 | 7 | 9 | 6 | 4 | 4 |
相手 | 3 | 2 | 3 | 8 | 14 | 11 | 13 |
RSA相手には、リスクを最小化することも求められているのかもしれない。
表-9 ラック獲得数(Ruck Won)
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 65 | 57 | 73 | 108 | 110 | 42 | 85 |
相手 | 41 | 56 | 58 | 62 | 109 | 87 | 70 |
14人で戦い続ける、事の是非はともかく、現実にそういう事態に陥った時にどう戦うのか、その意味ではIRE戦の数値は興味深い。
表-10 タックル成功率(Tackle Made) (%)
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 75.3 | 85.7 | 84.8 | 90.6 | 89.1 | 84.0 | 85.8 |
相手 | 83.0 | 82.8 | 93.9 | 90.4 | 89.8 | 91.5 | 87.8 |
ENG、現時点までは、精度よりは大胆さ・「飛び込む」ことを優先している気がしている。「本番」に向けて、この数値をどう向上させていくのか。
表-11 ペナルティ数
vs AUS | vs RSA | vs SCO | vs ITA | vs WAL | vs IRE | vs FRA | |
ENG | 9(0,0) | 18(1,0) | 10(1,0) | 12(0,0) | 13(0,0) | 8(0,1) | 8(0,0) |
相手 | 18(2,0) | 8(1,0) | 13(0,0) | 12(0,0) | 13(1,0) | 15(0,0) | 9(0,0) |
(注)()内の最初数字はイエローカード、二番目の数字はレッドカードを出された数。
タックル同様、Pに関してもリスクを取ることを求めている気がする。勝敗に拘りながらも各試合の意図が見え隠れしている気がする。
大相撲:輪島の黄金の左手ではないが、強み・「得意技」を持っているに越したことはない。一方で、相手あっての勝負、相手の出方に臨機応変に対応することも必要だ。そして、想定外の事態への適応力も鍛えておかなければならない。その意味では、IRE戦14人で戦い続けなければならない事態に陥ったことはENGにとっては「ラッキー」だった気がしている。「本番」までの練習試合、何を課題として、それぞれの試合を戦っているのか、そこはかとなく感じられないでもない。
今週のMidolでは、ENGの現状について次のように解説していた。
『ENGが強いことは認めるが、このところ調子が良くないのは事実だ。陳腐な戦略、物議を醸しだすHC、17か月後のW杯を前にして地味な存在である。アウトサイダーなのか? 多分。 しかし、エディーの選手たちを用心しろ。前回勝者:RSAのW杯1年半前の状態を思い起そう。ENGは、人びとの目を誤魔化し、密かに優勝する・サプライズを巻き起こすことを狙っている。』
令和4年4月30日
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