2019 W杯・備忘録 123
〜 WAL/FRA 〜
2022六か国対抗第4節WAL/FRA戦、珍しい試合だった。何が珍しいかというと、得点が少ない(13-9)。試合開始8分、10-3となった時点で、フランスの解説者は「両チームの打ち合いだ」と言っていた。それに反して、以後はロースコア。後半だけだと3-0。しかも、46分以降30分余、両チーム無得点。近年、見たことのない試合だった。
グランドスラム達成後、F7:ジュロンシュは、Midolのインタビューで次のように話している。「(あなたから見て、今年の六か国対抗での山場は?)一番印象に残っている試合は、WAL戦だ。ひたすらディフェンスしまくった。WALはノートライ。ホーム・カーディフでそんなこと起こったことがなかった(注:13年ぶり)。13-9の勝利は、サポーターから見れば最良ではないのだろう。もちろん、それはわかってる。でも、あの試合は決定的なものだった。」
試合は流動的、流れ・Momentumは時々刻々変化する。スタッツで見ると、前半と後半でまったく別の試合の観がある。
(前半)
ボールキャリー数 | ランメーター | タックル数/ミス | ペナルティ | オフロード | ラインアウト | スクラム | |
FRA | 58 | 369 | 40/1 | 3 | 10 | 4/5 | 2/3 |
WAL | 40 | 281 | 67/11 | 3 | 2 | 3/3 | 3/4 |
(後半)
FRA | 37 | 174 | 93/8 | 5 | - | 8/8 | 2/2 |
WAL | 69 | 499 | 71/3 | 6 | 4 | 6/6 | 6/7 |
前半はFRAが攻め、後半はWALが攻める。まるで野球の先攻・後攻のように。FRAのオフロード、前半:10、後半:ゼロ。意図してこうなったのか、それとも、流れに漂ってしまったのか…
トライは8分FRAの1本のみ。それは次のような流れでのもの。
・ F陣でのF8・ノックオン ⇒ Wスクラム ⇒ W9・ボール投入が遅れ、FにFK ⇒ Fスクラムを選択
・ FスクラムからF9→10→8・ラック・9→15・ロングキック・W10・ロングキック・F10・ロングキック・W15・ロングキック・F15ラン→11→2・ラック・11→1→10→12・ラック・9→1・ラック・9→4・ラック・9→10→8・ラック・9→10→14→13→15→7:トライ
FRAボール・リスタートからではあるが、蹴り合い(フランス流には「ピンポン・ラグビー」)でボール支配権が行き来したのちのトライ。
これに対して、WALは後半3回、FRAゴールラインに迫っている。いずれも、起点は、FRA陣深く入ったところからのWALボール・リスタート。
㈰ 48分
・ センターライン付近でのFRAのP(ノットロールアウェイ) ⇒ W・タッチキック ⇒ Fゴールライン5mのWラインアウト
・ Wラインアウトをキャッチしてモール ⇒ Fゴールラインを越えるもヘルドアップ
・ Fのゴールライン・ドロップアウトで再開
㈪ 60分
・ F22mの外でF12ノックオン ⇒ Wスクラム
・ WスクラムからW8・ラック・21→7→?・ラック・21→10・キックパス・8←12・ノックオン(ゴール前5m、ノーマークで普通に取ればトライだった) ⇒ ノックオンしたボールがF9の胸に入りタッチキック
・ F陣30mWラインアウトで再開
㈫ 71分
・ F陣でのFのP(キック・オフサイド) ⇒ Fの蹴った地点でのスクラムか・オフサイドのあった地点でのPKの選択肢からWはスクラムを選ぶ
・ F22mでのWスクラム ⇒ 6フェーズ重ねたのちの展開でF10がインターセプト
・ F10がタックルされ・ラック・WのP ⇒ F・タッチキック ⇒ F・ラインアウト
どのシーンもトライで終わって不思議はなかった。近年のWAL、こういう流れでなんとなくトライを取ってきた。とすれば、FRAのディフェンス力を褒めるべきなのか、WALの攻撃力の低下を嘆くべきなのか。攻撃力を高めるのか、ディフェンス力を高めるのを優先するのか、永遠の課題である。
トライ、リスタートからボールを回して・フェーズを重ねれば取れるものではない。では、どうすればいいのか? 面白い試みだと感じたのが、21分、WAL50:22でF陣内でのW・ラインアウト、ボールを確保し・モールを作らずに出し、W21→10→8が突っ込んでラック、F22m内のラックから出たボールをW21・ボックスキック=Fゴールライン前にハイパント W15・ノックオンでFスクラムに。二次元的思考から三次元的思考へ…
実に興味深いプレー。堅守のFRA相手に22m内で右に左にボールを回してもなかなか前進できない。現に、後半の3回のトライ機会、結局、得点に結びついていない。FRAの弱点の一つがハイボール。だったら、フィフティ・フィフティのハイパントをゴール前に蹴って、ハイボールに強い選手(=W15)を落下点に走り込ませるのは、実に合理的な気がする。
たしかに奇想天外なのかもしれない。邪道なのかもしれない。これでトライになっても称賛されないかもしれない。しかし、そういう感じ方の根底にある「常識」を打ち破ることこそ求められている気もする。
2023W杯で、こういうプレーが見られるかどうか、気になっている。
トライを取ることは素晴らしい! 人びとはトライを渇望している。 では、トライを取る方法論は、どのようなものが現実的なのだろうか。 この試合で見る限り、マイボール・リスタート(スクラムorラインアウト)から、練習通りにボールを回しても取り切れていない。 2019W杯では、相手ゴール前・マイボールラインアウトからのモールでのトライが一番確実だった気がしている。 これに関しては、ディフェンス側の守り方がかなり整理されてきて、簡単にはトライに結びつかなくなってきている気がしている。 その一因が、「インゴール・ヘルドアップ」の場合のディフェンス側ゴールライン・ドロップアウトでのリスタート、という試験ルールにある。従来であれば、攻撃側の5mスクラムでのリスタート=攻撃の継続だった。この試験ルールであれば、ディフェンス側はモールを作らせて、団子状態のままインゴール内に引きずり込むことで失点を防ぐ確率はかなり高いように思われる。現に、FRAはこれを実践して守り切った。
この試験ルールとともに、「50:22」によって、試合内容は大きく変わってきている。この試合では、WALが2度「50:22」を決めている。W10・ビガ−、さすがとしか言いようがない。この二つの試験ルールの帰趨によって、これからの試合展開、変わっていくのだろう。
4点差、紙一重の差なのだろう。しかし、勝ちは勝ち、負けは負けでしかない。この「差」をどう考えればいいのか、ある意味、ラグビー観めいたものに左右されるのだろう。
( 参考-1 )
2022-6-4 WAL/FRA経過表
二列目:F:FRAの得点経過
三列目:W:WALの得点経過
四列目:FP:FRAのP
五列目:WP:WALのP
Pのうち「R+」はマイボールラックでのP、「R-」は相手ボールラックでのP
「G-」はPGを狙い外したもの。
前半
1 | 3 | 8 | 15 | 22 | 31 | 37 | |
F | 3 | 10 | |||||
W | 3 | 6 | 9 | ||||
FP | F | R- | R- | ||||
WP | R- | S | R+ |
後半
43 | 45 | 47 | 52 | 56 | 57 | 64 | 66 | 73 | 75 | |
F | 13 | G- | ||||||||
W | ||||||||||
FP | R- | R- | O | F | ||||||
WP | R+ | O | F | R+ | R- | R+ |
( 参考-2 )
2022-6-4 WAL/FRA KSLPFD図
「分」は得点時間
大文字は勝者(FRA) 小文字は敗者(WAL)のボール支配
K:キックオフ
S:スクラム
L:ラインアウト(L*は、50:22)
P:ペナルティ (PG*はPGを狙って外したもの)
F:フリーキック
D:ドロップアウト (D*はゴールライン・ドロップアウト)
- :関連するリスタート
分 | 得点 | |
2 4 8 16 38 | K p=PG k P=pg K s-F-S TG k L L S s P=pg K L s l* S-p-L L f s L-F l S-f s p-L l* P=pg K DG* | 3- 0 3- 3 10- 3 10- 6 10- 9 |
46 | k l S p-L p=PG k P-l D* s p-L s P-l P-l S s l p-L DG* d P-l L s p-L p=PG* L f s | 13- 9 |
平成4年4月9日
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