2019 W杯・備忘録 105
~ ENG/RSA ~
2021年11月20日、ANSラウンド4、ENG/RSAは2019W杯決勝の再戦。
RSAがほぼ同じメンバーであったのに対して、ENGは若手中心。満員の聖地・トィッケナムでの試合は、一つ一つのプレーが素晴らしかったし、得点経過もまさに「筋書きのないドラマ」、実に見応えのある試合だった。
試合経過は次の通り。ENGの得点は「○」、失点は「●」、ENGが得点を逃したのは「×」、RSAが得点を逃したのは「*」。
分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート | |
○ ● ○ ● ○ ● ● × | 6 13 16 20 23 25 29 39 | 7- 0 7- 3 14- 3 14- 6 17- 6 17- 9 17-12 | T+G PG T+G PG PG PG PG DG | RSAのキックオフで試合開始。キックの蹴り合いの後、ENGが展開し9が絶妙なゴロパントをRSAゴールラインへ。⑮がインゴールに持ち込んでタッチダウン⇒RSAゴールライン5mのENG・スクラム⇒RSAのアーリーエンゲージでENGにFK・ENGスクラムを選択⇒RSAのコラプシングのP⇒ENG・タッチに蹴り出し・ENGラインアウト⇒4キャッチ・モールでゴールラインへ近づき(ラック)3(ラック)9→12(ラック)9→10→11(ラック)9→5(ラック)9→4(ラック)11(ラック)9→10→11→12・トライ。G・10 PG・⑩ ENGのスクラム・RSAに押された状況でボールを出し9→10→15→23←11(ラック)9→15・トライ。G・10 PG・⑩ PG・10 PG・⑩ PG・⑩ DG・10、届かず。 |
* * ● * ● ○ ● ● * ○ | 43 47 54 58 62 65 69 72 73 75 79 | 17-15 17-18 24-18 24-23 24-26 27-26 | PG PG PG PG T+G T PG PG | PG・⑩・外す PG・⑩・外す PG・⑩ RSAスクラムでENGのP⇒タッチキックでRSAラインアウト⇒RSAモールを20m押してENGのP⇒ENGゴール前のRSAラインアウト⇒RSAモールを押し切れたかに見えたがゴールラインに届かず⑪(ラック)⑦反転してインゴールにタッチダウンしようとするもヘルドアップ⇒ENGのゴールラインDO⇒㉓キャッチしてDG狙うも外れる PG・㉒ センターライン付近のENGラインアウトから21→13→14←21・トライ。G・10 ENGのP・18にイエロー⇒タッチに蹴り出し・RSAラインアウト⇒モールでゴール前に迫り崩れて④(ラック)㉑→㉒→⑬→⑪・トライ。G・㉒・外す PG・㉓ ④が抜けてENG22m内に入るもパスが通らずRSAのP RSAのP・⑥にイエロー PG・10 |
(注)「→」は順目のパス。「←」は内返しのパス。
こんなに面白い試合、滅多にない。何が面白いのか?
まず、総得点・両チーム合わせて53点、でありながら、1点差。
しかも、前半20分までに17点(全体の32%)20分~40分:12点(23%)、40分~60分:3点(5%)、60分~80分:21点(40%)。
さらに、残り20分で試合は「四転」している…
1点差の試合だから、勝因も敗因もいくらでも見つけられる。「たられば」の連鎖。
いくつかの興味深かったことを挙げてみる。
まず、リザーブ8人。2019W杯決勝ではRSA:FW6人・BK2人、ENG:FW5人・BK・3人だったのに対して、この試合では反対になっていた。そして、6分・ENG12番が負傷交替し(=実質的にバックスの「控え選手」はいなくなった)、その後どうなるかとハラハラさせられたがさいわいにケガ人が出ずにノーサイド。2019決勝戦では、前半早々・ENG3番が脳震盪で交替して、それが試合に影響したことを思い出させた… 次のW杯でのリザーブ8人の構成、どういう「博奕」を打つのか・打てるのか、
試験的ルールが適用されたのが、58分のRSAの攻撃。ENGゴール前ラインアウトからモールを組んで押し込むもゴールライン手前で崩れ、ラック後、7番がボールをインゴールに持ち込むも「ヘルドアップ」。従来のルールであれば、ゴールライン5mのRSAスクラムで再開になっていたのが、試験ルールでは、防御側=ENGのゴールライン・ドロップアウトに。昔の人には理解できない… そして、そのゴールライン・ドロップアウトのボールをキャッチしたRSA・23番がDGを狙う。距離は十分だったが、わずかに外れた。
今回の試験ルール、明らかに戦略・戦術に大きな影響を与えている。次のW杯、どのルールで戦うことになるのか、興味深い。もちろん、大義名分は「ケガの防止」で何人も反対できない。しかし、「その鎧の袖の下」にエンタメ性の向上が見え隠れしている。何かしら、ラグビーの古き良き伝統を棄損している気もしてくる。
スタッツを見ていると、この試合はラウンド4・6試合の中で、パスの回数が最小(ENG:82、RSA:87、ちなみにSCO/JPNでは、SCO:147、JPN:226)、オフロードの回数も最小(ENG:1、RSA:2、SCO:4、JPN:9)、ラック獲得回数も最小(ENG:57、RSA:56、SCO:79、JPN:90)。それでいて、ボールがよく動いている印象が残っている。
スクラムは、ENGボール・5回、RSAボール・2回の計7回組まれた。
1. 2分:E(キャリーバック)⇒RのアーリーエンゲージでEにFK⇒スクラムを選択
2. 4分:E(1の続き)⇒RのP⇒Eタッチに蹴りラインアウトからトライへ
3. 9分:R(ノックオン)⇒RのP⇒Eタッチへ蹴る
4. 15分:E(アクシデンタルオフサイド)⇒E押されながら出し展開してトライ
5. 41分:E(ノックオン)⇒EのP⇒R・PGを外す
6. 48分:E(ノックオン)⇒EのP⇒Rタッチへ蹴る
7. 55分:R(ノックオン)⇒EのP⇒Rタッチへ蹴る
7回のうち5回がP、1回がFK、そこで笛が吹かれ、ゲームが停止している。残りの1回だけがゲームが継続され、トライに結び付いている。スクラムとは如何なる存在なのか、どんな存在意義があるのか、考えさせられる。
スクラムが生じた時間帯が2分~15分と41分~55分だけ。そして、前半はRSAが反則を取られ続け、後半はENGが反則を取られ続けている。
最強チームの激突、しかも2019W杯決勝の再現、それも聖地トィッケナムでの試合、緊張感が最高潮に達した開始早々のファーストスクラム。レフリーの「クラウチ」「バインド」そこで間があって笛、一発でRSAはアーリーエンゲージの反則を取られる。これは酷い…と感じたがさすがの歴戦の勇士たち、冷静に従う。前半のRSAのPは明らかにレフリングへの不適応。後半はしっかり適応できて、スクラム機会3回ともにENGのPを取っている。
スクラムだけを見ていても、レフリーとの「間合い」の重要性を感じてしまう。この試合のレフリーはブレイス(IRE)。フランスでは、昨秋のオータム・ネーションズ・カップ決勝:ENG/FRA、今春の欧州クラブ選手権決勝のレフリーとして、いずれもFRAに不利な笛を吹いたレフリーとして記憶されている。ともかく、2019W杯には参加していないが、欧州勢非ENG・FRAのレフリーの中では一番有望と見なされているレフリーでもある。おそらく2023W杯では有力レフリーになっていると思われる。RSAにとって、貴重な遭遇であった。
規律=ペナルティを減らすが、今や、世界中の合言葉になってきている感がある。どの国の解説者も「規律!」と叫び、「ペナルティを減らそう」と大合唱している。
この試合のペナルティ、ENG:18、RSA:8。(SCO:11、JPN:9)
ペナルティの時間経過は次のとおり。
1行目:時間(分)
2行目:P=ENGのP。 q=RSAのP。Y=イエローカード
3行目:Pの原因。S=スクラム。R=ラック。L=ラインアウト。O=オフサイド。M=モール。F=ファールプレー。
4行目:結果。L=タッチキックを蹴ってマイボールラインアウト。L5=マイボールラインアウトからトライ。L7=マイボールラインアウトからトライ+ゴール。3=PG成功。3×=PGを外す。
4 | 10 | 12 | 20 | 22 | 24 | 27 | 29 | 34 | 36 | 37 |
q | q | P | P | q | P | P | P | P | q | P |
S | S | R | L | R | R | O | M | R | R | R |
L7 | L | 3 | 3 | 3 | 3 | L | 3 | L | L | L |
40 | 42 | 46 | 49 | 53 | 55 | 58 | 60 | 62 | 66 | 71 | 73 | 75 | 78 | 80 |
P | P | P | P | P | P | P | P | P | PY | P | q | qY | q | q |
O | S | R | S | R | S | M | R | O | M | R | R | F | F | R |
L | g× | g× | L | 3 | L | L | L | 3 | L5 | 3 | L | L | 3 | - |
鉄壁の勝利の方程式、試合中盤からスクラム・ラックなどの肉弾戦で相手を凌駕し続けるRSA。ENGはPで押し止めるしか「術がない」。想定通りの展開なのに、この試合では「仕留めきれなかった」。もちろん、RSA10番のPGが前半同様に決まっていたら、とか、残り10分で「焦ってしまった」、とか、すぐに思いつく。一方、ENGの迷いのなさ・不屈の精神、トィッケナムだからなのか、単なるテストマッチだからなのか…
ふと、エディー・ジョーンズのラグビーマガジン12月号での『私には外野の戯言を無視する権利があります。』(p153)を思い出させてくれた。
WATERのエラスムス、その存在が「1点」以上の価値があるような気がしてならない。
令和3年11月27日
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