2021年11月6日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 102

2019 W杯・備忘録 102
~ 第8回大会・決勝 NZ/AUS 
 
 6年前の秋、ENGで第8回W杯が行われた。「6年」、ずいぶん昔のような・つい最近のような… 引退した選手もいるし、未だに現役の選手もいるし、頂点に向かって成長し続けている選手もいる。小学校の6年間でずいぶん成長した、少なくとも心身ともに大きく変わった。青年期の6年間、どうだったのだろう。やがて、壮年から老年になると6年の持つ意味が変わってきたような気もする。
 プロラグビー選手でいる期間は、もちろん人それぞれだけど、誰にもプロラグビー選手としての青年期:壮年期:老年期がある。青壮老がうまく混ざり合っていいチームができる、というより繋がっていく。
 この大会、ベスト4は、すべて南半球。南北格差が遂にここまで来たのか、そう思わせた大会でもあった。
 
 決勝は1031日(土)80,125人の観客を集めたトゥイッケナムで行われた。
 恵まれた選手は、4年に一度のW杯に34大会連続で出場し、成長し、舞台から去る。トップレフリーも、同様に、多くの「場数」を踏む必要があるのだろう。決勝のレフリーはオーウェンス(WAL):2007年大会から3大会目、タッチジャッジはバーンズ(ENG):2007年大会から3大会目・ガルセス(FRA):2011年大会から2大会目。
 
 試合経過は次の通り。NZの得点は「○」、失点は「●」、NZが得点を逃したのは「×」、AUSが得点を逃したのは「*」。
 
得点
種類
起点となった(リ)スタート
 
 
 
7
13
19
25
34
38
 
3- 0
3- 3
 
6- 3
9- 3
16- 3
 
PG
PG
TMO
PG
PG
TG
AUSのキックオフで試合開始。
AUSP(ラック・オフフィート)。NZ10PG
NZP(スクラム・コラプシング)。AUS・⑩・PG
NZ10へのレイトチャージ。Pのみ・カード出ず
AUSP(ハイ・タックル)。NZ10PG
AUSP(ラック・オフサイド)。NZ10PG
NZラインアウトから96(ラック)91412ラン(ラック)91012(前に立っていた10に当たるもレフリーは流す)(ラック)93(ラック)914(ラック)956(ラック)13104(ラック)96NZのノットリリースをレフリーは取らない)(ラック)9139714・トライ。10G
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
41
 
 
 
 
 
51
52
 
61
 
 
 
 
69
74
78
21- 3
 
 
 
 
 
 
21-10
 
21-17
 
 
 
 
24-17
27-17
34-17
TG
 
 
 
 
 
TMO
TG
 
TG
 
 
 
 
DG
PG
T+G
後半開始のNZのキックオフ。中央・10mライン近くに蹴る(ラック)⑨→⑩ロングキック:15ロングキック:⑩→⑮ラン(ラック)⑨→⑱(ラック)⑨→㉒→③(ラック)⑨→⑦(ラック)⑨→⑩ショートパント:5(ラック)911(ラック)97(ラック)915(ラック)96(ラック)9102314(ラック)92312・トライ。10G・外す
NZ15がタックルの際足を持ち上げる。イエロー・カード
PKをタッチに蹴り出し、NZゴール前のAUSラインアウトからモール・⑧・トライ。⑩・G
AUSスクラム⑨→⑭(ラック)⑨→⑩(ラック)⑨→⑪ロングキック:14ラン(ラック)91123(ラック)横にこぼれてAUSボール(ラック)⑨→㉓→⑩ロングキック:14ロングキック:㉓ラン(ラック)⑨ボックスキック⑩→⑬・トライ。⑩・G
NZラインアウトからラックを3回連取し9→10DG
AUSP(スクラム・コラプシング)。NZ10PG
AUSクイック・ラインアウト⑩→⑮(ラック)㉑→㉓(ラック)㉑→⑤(ラック)㉑→⑩→⑮→⑬(ラック)㉑→⑩→⑰(ラック)㉑→⑩→㉓←⑪ノックオン15ラン&パント22・トライ。10G
(注)「→」は順目のパス。「←」は内返しのパス。
   ○に入った数字はAUS選手の背番号。
 
 記録としてはダブルスコア。結果だけ見れば、大差の試合。しかし、80分見続けていると、ノーガードで打ち合ったスリルとサスペンスに満ち満ちている試合。両チーム、ひたすらボールを動かし続け休むことを知らないかのようだ。それが吉にもなれば凶にもなる。3トライ対2トライ。決勝戦での最多トライ数だ。
 あらためて、AUS、魅力的なチームというか、エンタメ性に富んだチームだと感じる。とにかくアクセル全開、手を緩めようとしない。NZが最強チームであり続けているのは、グローバル・コンセンサスだろう。そのNZの最大のライバルは、RSAなのかAUSなのか。W杯のパフォーマンスだけを見てくれば、AUSは両国と肩を並べている。試合巧者になれば、より良い結果が得られるのか、2023年に向けて気になっている。
 実にAUS的に思え印象的なのは、前半終了間際、そして、後半開始早々のNZTG。これで19点差がついた。AUSの前がかりの攻めが裏目に出ている。試合開始からギアチェンジなしで、ひたすら攻め続けた結果。「骨折り損の草臥れ儲け」のような。
 それが、ワンプレーで一転する。51分:TMOで確認の上NZ15のタックルがP、かつ、イエロー・カードとなり、NZ14人に。その10分間にAUS2TGを決め、4点差に。押せ押せのAUS。流れが一変したかのように。14人でありながら、AUSにお付き合いしているのか、NZも前がかりのままボールを動かしている。不思議な時間帯だった。
 
 NZ8・リードの自伝ではこう書かれている。
Australia sprang to life and by the 63ed minute had scored two tries and reduced our lead to just four points. No one panicked. Not on the field at least. The most important tool in our arsenal was our ability to stay in the moment. How many times over the last four years had we proved to ourselves that we could get out of any situation? We stood under the posts as Bernard Foley converted the second try and Richie implored us to keep to our tasks, win the ball and play. Five minutes later, Dan Carter dropped a goal from a lineout win. It was one of the most clutch plays I had ever seen in my life and not one of the forwards knew it was happening. We thought it was coming back to us. So did the Wallabies.
When Beauden Barrett ran on to a Ben Smith kick with just a couple of minutes left, we didnt even bother trying to keep up. We watched him score the winning try from the halfway line.
It was the best view in the world.  (p209)
 
 いやな流れを断ち切ったのが、「千両役者」カーターのDG。カーターの自伝にはラストシーンをこう書いている。
『 残り数分、途中出場のボーデン・バレットが決定的なトライを決めた。僕はもうワラビーズに逆転のチャンスがないことを確信しながら、最後のコンバージョンキックを蹴るための準備を始めた。溢れる思いを抑えるのに苦労していると、キックティーを持って駆け寄ってきた控え選手のリーアム・メッサムが言った。「右足で蹴れよ」
 メッサムは、僕がこの大会の始めに、チームメイトのアーロン・スミスとしていた会話を覚えていたのだ。僕は左利きだが、何年も前から右足で蹴る練習もしてきた。たいした理由があるわけじゃない。子供の頃に、裏庭でいろんなキックをして遊んでいたときと同じような感覚だ。僕はアーロンに、引退する前に一度は右足でキックを決めたいと言った。言葉にしたことで、それはある種の予言のようなものに感じられた。
 そして僕は今、自分にとってラグビーの国際試合の最後のキックを蹴ろうとしていた。しかし、勝負はもう決まっている。もちろん、あのワラビーズを軽んじるようなことがしたいとは微塵も思わない。でも、最後のキックを右足で蹴るという考えには抗いがたいものがあった。それはまるで、一本の線に導かれているような感覚だ。その線は、今回のW杯につながっていた。W杯の2011年大会で僕が味わった痛み(大会中の練習で大けが、離脱)と、2007年大会でチームが味わった痛み(準々決勝でFRAに敗退、カーターは後半途中ふくらはぎのケガで交替)にもつながっていた。ワラビーズとの定期戦ブレディスロー・カップにも、英国連合との定期戦ライオンズシリーズにもつながっていた。その線は、僕のラグビー選手としてのキャリアすべてにつながっていた。』(p18
 ケガに泣き続けた名選手、ラグビーの神様が微笑んでくれた…
 
( 参考 ) 各大会決勝における得点内訳
大会
総得点
トライ数
ゴール数
PG
DG
(注)%
   1
   38
    4
    2
    5
    1
  39.5
   2
   18
    1
    1
    4
    -
  66.7
   3
   27
    -
    -
    6
    3
  66.7
   4
   47
    2
    2
   11
    -
  70.2
   5
   37
    2
    -
    8
    1
  64.9
   6
   21
    -
    -
    7
    -
100
   7
   15
    2
    1
    1
    -
  20
   8
   51
    5
    4
    5
    1
  29.4
   9
   44
    2
    2
   10
    -
  68.1
(注)総得点に占めるPG由来の得点の割合
 
 この表だけを見ていると、PGによる得点が多い試合は「静的」、PG以外による得点が多い試合は「動的」に感じられる。
 
令和3116 

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