2019 W杯・備忘録 46
~ ボックス・キック ~
「勝つ」ために、Possession・ボール保持(パスを回し、ラックを連取する)又はTerritory・陣地取り(ロング・キックを蹴る)のどちらを優先するかは、戦略立案上の永遠の課題なのだろう。戦術面での今大会における一つの有力解がボックス・キックである。
準決勝第2試合 RSA/WALは、その典型的な試合であった。
試合の得点経過は、次の通り。RSAの得点は「〇」、失点は「●」で表示する。
| 分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート |
〇 ● 〇 ○ ● | 13 17 18 34 38 | 3- 0 3- 3 6- 3 9- 3 9- 6 | PG PG PG PG PG | ラックでのノット・ロール・アウェイ ラックでのオフサイド スクラム・コラプシング ラインアウト・モールでのサイドエントリー ノーボール・タックル |
● ○
●
○ | 45 56
64
75 | 9- 9 16- 9
16-16
19-16 | PG T+G
T+G
PG | ラインアウトでのオフサイド W・スクラム・コラプシング→R・タッチキック・ラインアウト・モール~展開・フェーズ6・ADが出ている R・ノット・リリース→W・タッチキック・ラインアウト・モール→展開・フェーズ20・R・ノット・リリース→W・スクラム選択 |
それにしても、WALよく食らいついた。一度も8点差以上に引き離されることなく、二度も追いついた。残念ながら、一度もリードすることはなかった。
では、勝つことは出来なかったのか。
スタッツで見ると、残り10分間のTerritoryは、WAL・78%に対してRSA・22%。圧倒的に相手陣で戦っている。試合全体を通しても、Territoryは、WAL・62%、RSA・38%。Possessionは、WAL・61%、RSA・39%。数字の上では、優位に立っている。
そして、64分、奇跡的に同点に追いついてからは、「流れ」は完全にWALに来ていた。むしろ、そんな状況下でも「崩れなかった」RSAを讃えるべきなのであろう。
試合展開は「凡戦」と言っても過言ではない。お互いの「勝利に対する拘り」が剥き出しになり、すべてに優先した感がある。その象徴がボックス・キックの多用。
「ボックス・キック」は、「スクラム又はラックの背後から、スクラムハーフが前方のサイドラインと15mラインの間に蹴るコンテスト・ハイパント。マイボールにすることを狙い、最低でも相手のキャッチに圧力をかける」と説明されている。すなわち、Territoryを取ると同時にPossessionを狙う、二兎を追うプレーである。
この試合、RSA・9番は19回(チーム全体のキック数の51%)、WAL・9番は18回(同・50%)キックしている。ちなみに、決勝ラウンドの他の試合の9番のキック数・全体のキック数に占める割合は次の通り。
| QF1 | QF2 | QF3 | QF4 | SF1 | F |
9番のキック数(計) | 11 | 12 | 17 | 20 | 18 | 17 |
割合(%) | 31 | 23 | 25 | 40 | 33 | 39 |
なお、QF4は、RSA・9番が18回(60%)、JPN・9番が2回(10%)キックしている。
自ずから、キッキング・ゲームとなる。決勝ラウンドの各試合のランメーターとキックメーターを比較すると次の通りになる。
| QF1 | QF2 | QF3 | QF4 | SF1 | SF2 | F |
ラン(a) | 853 | 727 | 831 | 569 | 1045 | 478 | 570 |
キック(b) | 1122 | 1374 | 2345 | 1033 | 1497 | 1803 | 1152 |
(b) / (a) | 1.3 | 1.9 | 2.8 | 1.8 | 1.4 | 3.8 | 2.0 |
この試合のランメーターは、決勝ラウンド7試合で最低。ボールをランナーが運ぶのではなく空中遊泳して運ばれていく…。キックメーターの絶対値ではQF3が最大値。これは、レッドカードが出て14人対15人の試合になり、ロング・キックが多用された影響。
2003年優勝HCであるウッドワードが歎いているように「ボックス・キックは、本当につまらないプレー・戦術だ」というのも確かだ。しかしながら、「近年の科学的分析の結果」として編み出された戦術であり、現に「勝つためには有効」であることも事実である。
Jスポーツの解説で栗原がこの試合を評して「息詰まる投手戦」としていたが、どこに注目するかで評価は分かれるのであろう。
次大会において、ボックス・キックが、より隆盛を極めているか、気になるところである。
それ以前に、国内のラグビーで、これからどれぐらい活用されていくのか、まずはそこに注目してみたい。
( 参考 )
RSAボール
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
KO | 2 | 1 | 1 | 1 | 5 |
S | 3/3 | 1/1 | 2/2 | 1/1 | 7/7 |
LO | - | 3/4 | 1/1 | 1/1 | 5/6 |
PK | 2 | 2 | 1 | 3 | 8 |
FK | - | - | - | - | - |
DO | - | - | - | - | - |
計 | 7 | 8 | 5 | 6 | 26 |
(注) KOのうち1回は、前半開始時のもの。
S、LOの分母は、マイボールでの投入回数。分子は、そのうちのボール獲得回数。
PKの回数は、相手チームのペナルティ(反則)によって獲得したPKの回数。
RSAの得点
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
トライ(T) | - | - | 1 | - | 1 |
T後のG | - | - | 1 | - | 1 |
PG | 2 | 1 | - | 1 | 4 |
WALボール
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
KO | 1 | 2 | 2 | 1 | 6 |
S | 1/2 | 1/1 | - | 2/2 | 4/5 |
LO | 3/3 | 2/2 | 7/7 | 2/3 | 14/15 |
PK | 2 | 2 | 3 | 2 | 9 |
FK | - | - | 1 | - | 1 |
DO | - | - | - | - | - |
計 | 8 | 7 | 13 | 8 | 36 |
WALの得点
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
T | - | - | - | 1 | 1 |
T後のG | - | - | - | 1 | 1 |
PG | 1 | 1 | 1 | - | 3 |
この試合、得点の過半はPGであり、Pが試合を決めたともとらえうる。
RSAのPは9回。そのうち、ラインアウトで1回、ラックで7回(うちノットリリース4回)、ファールプレー1回。
WALのPは8回。そのうち、スクラムで3回、ラインアウトで2回、ラックで2回、ファールプレーで1回。73分、74分、79分と終盤に立て続けに取られたのが両チームの「地力の差」を表している。
令和2年10月3日
0 件のコメント:
コメントを投稿