2020年10月31日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 48 

2019 W杯・備忘録 48 

  ~  ラインアウト ~

  近年のラグビー・シーンで大きく変化した一つが、ラインアウトの前にFWが「ハドル」を組むことである。かつては、両チームのFWが三々五々並んで、ボールを投げ入れるチームの一人がサインを叫ぶことで事足りていた…
  ラグビーは、サッカーほど流動的ではなく、アメリカン・フットボールほどブツ切りではない。レフリーが笛を吹くことでゲームが停止し、セットプレーでゲームが再開される。
 
 野村克也は『野球というスポーツには、ほかのスポーツと較べて大きく異なる特徴がある。「一球一球、ゲームが止まる」ことだ。 … すなわち、ひとつのプレーごとに「間」があること … それでは、この「間」は何のためにあるのか――。「その間に考えろ」そう言っているのだと私は理解している』と書いている。 野球の「間」、相撲の仕切り、日本人の大好きな時である。その間に何を考えるか・何を確認できるのかで、両チームの差が出来ていくのだろう。
 
 今大会では、ほぼすべてのラインアウトの前に儀式のようにボールを投げ入れるチームのFWは密談をしていた。かつて、ラインアウトは身長+ジャンプ力という単純な競い合いだ、と見做されていた。それが「リフティング」が認められ、並ぶ人数の弾力性が増し、頭脳戦と化し、戦術として複雑化の一途をたどっている。
 
 今大会終了後、フランス代表・初のラインアウト・コーチに就任したガゼルはミディー・オリンピックのインタビューで「ラインアウト・コーチなんていうものがこの世に存在するなんて知ったのは、2015年大会のエディー・ジャパンでだ。それまで、そんな役回りは選手に任されていた。自分自身も選手として実践の中で考え、その後、所属チームで選手兼コーチになり、今回、フランス代表・初のラインアウト・コーチになった。」と語っていた。
 
 スクラムと並ぶラグビーの華、少なくともFWの最大の見せ場であるはずなのに、スクラムほど熱く語られることは少ない。
 
 スクラムとラインアウトは、①レフリーの笛が吹かれ、試合が一旦中断し、再開するためのセットプレーであり、②ボールを投げ入れるチームが「まっすぐ・真ん中に」入れることが求められている、という共通点がある。

 一方で、①スクラムは第一列が三人というようにどのように組むのかが決められているのに対して、ラインアウトはラインから5m~15mの範囲内に1mの間隔を開ければ何人並んでもいい(通常、2人~7人の中で攻撃側が選択する。)、②スクラムは2番がボールをかかなければならないが、ラインアウトは誰が取ってもいい、というような相違点がある。

 だから、ラインアウトは、どんどん複雑怪奇になってきて、「ハドル」を組まなきゃいけなくなってきている。

  今大会、JPNのラインアウトでのボール確保者のポジションは次の通り。
 

RUS

IRE

SAM

SCO

RSA

FW1列目

    -

    -

    -

1(稲)

    -

FW2列目

8(ム62

1(ム)

5(フ14

2(ム2

2(ト1ム1

FW3列目

3(リ3

5(姫32

7(リ322

1(リ)

5(リ5

BK

2(レ、松)

    -

2(山2

    -

    -

  ムーア、リーチを軸に、稲垣に投げてみたり、飛び道具的にBKに投げ入れたりして、「的を絞らせない」ことに予選プールでは成功していた。
 

 決勝ラウンド各チームについて見てみると次の通り。

 

     QF1

     QF2

     QF3

     QF4

 

ENG

AUS

NZ

IRE

WAL

FRA

RSA

JPN

FW1

 
 
 
 
 
 
 
 

FW2

  8

  4

  6

  8

  5

  7

  7

  2

FW3

 

  3

  1

  6

  5

  5

  3

  5

BK

 
 
 
 

  1

  1

 
 
 
 

      SF1

      SF2

       F

 

ENG

NZ

RSA

WAL

RSA

ENG

FW1

 
 
 

  2

 
 

FW2

 15

  5

  5

  2

  6

  7

FW3

  3

  3

 

 10

 
 

BK

 

  1

 
 
 
 
  決勝、RSA4番・エツベツが5回、交代で入ったスナイマンが1回キャッチしている。ENGは、5番・ロウズが4回、交代で入ったクルーズが3回キャッチしている。これだけを見ると、駆け引きなんて無用だ、という感じがしてくる。
 
 スクラムは、時間がゆっくり流れ、押すか押されるか、という視覚に訴えるときがある。ラインアウトも直後にモールが組まれると、同じような状況が生まれる。

ボール争奪という点では、スクラムで、相手の2番の選手が足を出して、攻撃側の選手が転がして入れてくるボールを奪う、というシーンは、ほぼ見られない。これに対して、ラインアウトには「スチール」ということが、しばしば起こる。それは、WRのスタッツの一項目になっている。

  決勝ラウンド7試合でのラインアウト・スチールは、

QF1AUS1回、QF2IRE1回、QF3・なし、QF4RSA4回、

SF1ENG2回、NZ2回、SF2WAL1回、F・なしであった。

  今大会のRSAのラインアウトは無敵・完璧で、これが優勝の原動力の一つだと思われる。RSAにとって、歴史的・伝統的にラインアウトはストロングポイントの一つなのであろう。たまたま前回大会(2015年)の準決勝・NZ/RSAの試合を見返していたら、前半だけで3回、NZにスチールされていた。そして、後半32NZ20-18RSAの緊迫した場面の絶好のラインアウトでもNZにスチールされている。

 RSA国内で、あの2点差の惜敗がどう語り継がれているのか、興味深いものがある。

  次回大会、各チームがどんなラインアウトで戦うのか、愉しみである。
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Covid-19が猛威をふるっている主要国の代表チームがゲームをしている。その中で、JPNだけは代表選手のプレーが観られていない。残念というか、寂しいというか、そうして秋が過ぎてゆく…
                   令和21017 

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