2019 W杯・備忘録 27
~ 負けに不思議の負けなし 3 ~
M48 今大会のラストゲーム RSA/ENG戦。32対12、20点差の負け、ENGの完敗である。ノー・トライ、試合後のセレモニーでのメダル授与時のふるまいといい、決勝戦の敗者に相応しかったENG。
とはいえ、後半18分、ENGは12番・ファレルがPGを決めて、18対12と6点差まで追い上げている。この時点では、両チームともノー・トライ、勝負の帰趨は見えていない。
この時点までの両チームのPは、RSA・7、ENG・9。((参考)に20分ごとのPKを記載しています。)
内容を見ていくと、スクラム関連、ラック関連、ラインオフサイド等で分類すると次の通り。
スクラム関連
|
ラック関連
|
ラインオフサイド等
| |
RSAのP
|
1(1PG)
|
5(3PG)
|
1
|
ENGのP
|
5(3PG)
|
4(3PG)
|
1
|
スクラムは、RSAボール11回、ENGボール3回。
RSAボール・スクラム11回のうち60分までに7回組まれ、そのうち5回でENGがPを取られている。さらに、2分のRSAボール・スクラムではレフリーが手をあげPがあったことを示しながらアドバンテージで流し結局アドバンテージ・オーバーとなったため記録には残らなかった。つまり、7回中6回でコラプシング等のPを取られている。スクラムが弱かったから負けた、のか。後半18分、ENGボールのスクラムでRSAのPを取る意地もあった。スクラムも一つの要因だろうけれど、それ以外にもいくつかの点があげられる。
まず、スクラム数が11回対3回ということは、それだけ細かなミスが多かった、ということが言える。スクラムで不利になることがわかっているのであれば、出来るだけスクラムの回数を減らす戦術を取るべきだった!?
RSA相手では、どのチームもラインアウトを避ける傾向にあり、タッチキックを少なくする。この試合でもRSAボールのラインアウトは6回で、ENGがSFでNZに与えた11回の半分である。ラインアウト数を制御したのであれば、スクラム数を制御する戦術というのは、考えられないのであろうか?
スタッツを見ていて興味深かったのが、まずRucks wonの回数。(ゴシック体がRSA)
F
|
SF1
|
SF2
|
QF1
|
QF2
|
QF3
|
QF4
| |
勝者
|
64
|
110
|
55
|
48
|
100
|
75
|
68
|
敗者
|
93
|
89
|
97
|
113
|
98
|
90
|
87
|
RSAは、3試合とも相手チームより少ないRucks won数で勝っている。
QF(JPN戦)68、SF(WAL戦)55、F・64
これに対して、ENGは、QF(AUS戦)ではRSA同様、少ないRucks won(48)で勝利し、SF(NZ戦)では相手を上回る110で勝利している。
決勝ラウンド7試合のRucks数から見えてくることは、NZがらみの試合は多く(=よくボールが動き接点が数多く出現する)、RSAがらみの試合は少なくなっている。RSAのRucks獲得数は絶対数が少なく、かつ、相手チームに比べても少ない(=ボールを相手に渡して、リサイクルさせながら、ディフェンスで相手を押し込んでいく)。
こういう視点から見ると、QF1・ENG/AUS戦は示唆に富んでいる。ENG(48)に対してAUS(113)。すなわち、ENGは、QF・AUS戦では、RSAばりの戦い方をして、ラスト20分に相手を突き放したが、決勝では、そのAUSと同じ役回りを演じて、RSAに敗れたように見受けられる。
次に、Mauls wonの回数。
F
|
SF1
|
SF2
|
QF1
|
QF2
|
QF3
|
QF4
| |
勝者
|
3
|
6
|
4
|
3
|
1
|
7
|
10
|
敗者
|
1
|
1
|
5
|
-
|
7
|
7
|
-
|
RSAが苦戦したのが、SF・WAL戦。ENGは、WALのように戦えば、少なくとも善戦したのでは、と思わせる。
オフロード・パスの回数は、次の通り。
F
|
SF1
|
SF2
|
QF1
|
QF2
|
QF3
|
QF4
| |
勝者
|
4
|
8
|
2
|
2
|
14
|
3
|
2
|
敗者
|
12
|
15
|
2
|
8
|
3
|
11
|
12
|
RSAのオフロード・パスの回数は常に少ない。これに対して、ENGは、QF・AUS戦は2回、と封印(?)したのが、SFでは8回、Fでは12回となっている。ここでも、SF・RSA/WAL戦のWALが2回だったのが、RSAとの戦い方を暗示している気がする。RSA相手にスクラム数を減らそうとするのであれば、オフロードを封印すべきだったのではないか。
ENGは、QF1・AUS戦では、オフロード2回と封印したのではないか。この点からも、決勝でも、AUS戦と同じような戦い方をすれば、どうなっていたのか?という気がする。
2003年W杯ENG優勝時のHC・ウッドワードが嫌うスクラムハーフからのキック。確かに、指摘のように「試合をつまらなくしている」かもしれないが、戦術的に有効だと近年認識されるようになったから「多用され、目につくようになった」のも事実である。
スタッツには、Kick From Hand(KFH)という項目がある。スクラムハーフからの回数は次の通り。
F
|
SF1
|
SF2
|
QF1
|
QF2
|
QF3
|
QF4
| |
勝者
|
9
|
13
|
19
|
7
|
4
|
9
|
18
|
敗者
|
8
|
5
|
18
|
4
|
8
|
8
|
2
|
また、チーム全体のKFHに占めるスクラムハーフからの割合は次の通り。
F
|
SF1
|
SF2
|
QF1
|
QF2
|
QF3
|
QF4
| |
勝者
|
38
|
41
|
51
|
35
|
14
|
28
|
60
|
敗者
|
42
|
21
|
50
|
27
|
35
|
22
|
20
|
RSA・9番・デクラークからのキック、ENGは、ある程度抑え込めたのかもしれない。この点では、他のチーム比べて、対策が講じられていた感がある。
DVDで見返してみて、ラスト20分で「力尽きた」感じが強い。そこまでは、まだまだ試合になっていた。結果としての20点差は予想できなかった。ではあるが、勝てそうな気配はなかった。それを端的に表しているのがリザーブの投入時間とポジション。ENGの決勝ラウンド3試合のリザーブの投入時間・ポジションは次の通り。
16番
|
17番
|
18番
|
19番
|
20番
|
21番
|
22番
|
23番
| |
AUS戦
|
68(2)
|
68(1)
|
63(3)
|
63(5)
|
68(7)
|
72(9)
|
60(13)
|
73(12)
|
NZ戦
|
69(2)
|
69(1)
|
46(3)
|
54(5)
|
69(7)
|
62(9)
|
44(11)
|
73(13)
|
RSA戦
|
59(2)
|
45(1)
|
2(3)
|
40(5)
|
59(7)
|
75(9)
|
49(10)
|
69(11)
|
前半・2分の3番・シンクラーの脳震盪・HIA・退場は想定外で痛かった。しかし、それ以外の交代時間帯も10分程度早くなっている。また、準決勝・決勝と11番・メイがケガをおしての出場だったせいもあり、後半に交代せざるを得ないというのも後半の後半の力を削いでいる。
一方のRSAのリザーブの投入時間帯・ポジションは次の通り。
16番
|
17番
|
18番
|
19番
|
20番
|
21番
|
22番
|
23番
| |
JPN戦
|
36(2)
|
53(1)
|
53(1)
|
62(4)
|
66(5)
|
67(8)
|
73(9)
|
71(14)
|
WAL戦
|
47(2)
|
47(1)
|
47(3)
|
52(4)
|
57(5)
|
68(7)
|
-
|
68(15)
|
ENG戦
|
21(2)
|
43(1)
|
43(3)
|
59(4)
|
21(5)
|
63(7)
|
76(9)
|
67(15)
|
前半21分、2番、5番のケガによる交代というアクシデントはあっても、微動だにしない感じで「常と同じ」戦略的投入が遂行された。ケガの14番・コルビをSFでは外せるだけの選手層の厚さがあったことも挙げられる。
今大会のENG、若いチームと言われていた。まだまだ、フィジカル・メンタル・チーム力ともに「伸びしろ」が沢山ある。今回の敗戦が次の勝利につながるのか、楽しみである。
( 参考 )
ラグビーは、レフリーが笛を吹くと、一旦ゲームが中断し、セットプレーで再開される(リスタート)。
セットプレーの種類は、スクラム(S)、ラインアウト(LO)、ペナルティ・キック(PK)、フリーキック(FK)、ドロップ・アウト(DO)とキック・オフ(KO)。
時間帯別のリスタートと得点は次の通り。
ENGボール
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
KO
|
1
|
2
|
3
|
2
|
8
|
S
|
1/1
|
-
|
1/1
|
1/1
|
3/3
|
LO
|
2/3
|
2/2
|
1/1
|
2/2
|
7/8
|
PK
|
2
|
2
|
3
|
1
|
8
|
FK
|
1
|
-
|
-
|
-
|
1
|
DO
|
1
|
-
|
-
|
1
|
2
|
計
|
9
|
6
|
8
|
7
|
30
|
(注) KOのうち、1回は、後半開始時のもの。
S、LOの分母は、マイボールでの投入回数。分子は、そのうちのボール獲得回数。
PKの回数は、相手チームのペナルティ(反則)によって獲得したPKの回数。
ENGの得点
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
トライ(T)
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
T後のG
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
PG
|
-
|
2
|
2
|
-
|
4
|
RSAボール
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
KO
|
1
|
2
|
2
|
-
|
5
|
S
|
3/3
|
2/2
|
2/2-
|
4/4-
|
11/11
|
LO
|
2/2
|
1/1
|
2/2
|
1/1
|
6/6
|
PK
|
3
|
3
|
3
|
1
|
10
|
FK
|
-
|
-
|
1
|
-
|
1
|
DO
|
-
|
-
|
1
|
-
|
1
|
計
|
9
|
8
|
11
|
6
|
34
|
RSAの得点
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
T
|
-
|
-
|
-
|
2
|
2
|
T後のG
|
-
|
-
|
-
|
2
|
2
|
PG
|
1
|
3
|
2
|
-
|
6
|
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