2012年1月5日木曜日

金井 一嘉 様 の ” 忙中閑 ” 情報 から。

                                               「甘えの構造」
                                                              岩瀬 大輔
    311日の東日本大震災を契機として、この国が大きく変わることが期待された。
しかし、実際には、ほとんどのことは変わっていない。特に、日本経済が抱える構造的な課題は、310日から何ひとつ変わっていない。そして、それらの構造的な課題を克服するために必要なすべての施策について、「いやだ」と反対を続ける日本人のメンタリティも変わっていない。

 40兆円しか税収がないのに90兆円も使い続けたら辻褄が合わないことは小学生でも分かるはずだが、収入を増やそうと増税を提案しても「財務省の陰謀」「先に削るべき無駄があるはずだ」と反対する人たちが多くいる。収入が増えないなら支出を減らすしかないのだが、もっとも大きな支出である年金を減らそうとすると、高齢者が反対する。

次に大きな支出である医療費について、保険料を上げるか、自己負担を増やそうとしても、同様に
「姥捨て山」と反対されるので、実行できない。ならば医療コストを合理化しようと、レセプトの電子化や、医療データの開示を迫ってみても、(無駄な投薬や検査を指摘されかねない)医師や歯科医師が猛反対する。
支出を減らせないので、やっぱり増税できないかと考え「まずは公務員が身を削れ」という主張を実現しようと思っても、労働組合が反対するから人員削減も給与カットもできない。それなら上げ潮路線で行くしかないので、企業に頑張って稼いでもらおうと競争力を高めるための減税や、雇用コストの引き下げを提案しても「大企業優遇」と労働組合とマスコミが反対するので実行できない。

企業経営に緊張感を持ってもらうべく市場を通じた経営監視機能を高めようとすると、今度は大企業経営者が猛反対する。結果、皆がジリジリ沈んでいく。「企業の競争力強化」がまっとうな政策として取れないのは、日本くらいではないか。
ならば莫大な金融資産を活用し、投資で稼いでいこう。そう考えて、資本市場で投資ファンドが活躍し出すと「汗をかかないでお金を稼ぐのはけしからん」という風に検察も裁判官も反対するので、投資家が日本の資本市場から去っていった。
新しい産業を創ろうとちょっと尖った生意気な起業家が出てきたものの、本当に社会を変革しうる影響力を持ち始めたらメディアに猛反発を受け、司法の助けも借りて投獄されてしまった。

農業や医療・介護といった分野で規制の見直しをすることで新産業を育成しようとしても、業界が反対するので、実行できない。しょうがないので、政府の成長戦略と称して「グリーン・イノベーション」やら「ライフ・イノベーション」やら、誰も反対し得ない空虚な言葉を掲げ、お茶を濁す。

少子化で人口が減って行くのが困るので移民を促進しようとしても、外国人で看護師試験に合格したのは254名中3名。合格率を司法試験よりも低くすることで、導入を事実上拒む。 結局、国民全員がいやいや駄々をこね続けるので、今は文句を言えない子供たちに負担を押し付けることになる。

この国を変えるのは、容易ではない。官僚が悪いとか、デフレが悪いとか、日銀が悪いとか、スケープゴートを見つけてきて、その一つを直せばいいようなことではない。
国民が聞きたくない真実をつきつけ、正しい方向に導くことが、政治家、メディアの責任ではないか。そういう政治家、メディアを支持するのが、国民の責任ではないか。

私たちは、ひとつひとつ、自分ができる小さなことから変えていくしかない。
(終わり) 

 外村先生のお陰で、金井 一嘉 様を紹介して頂き、金井 様から ” 忙中閑 ” 情報(いろんな方々の小論、評論、点評等)、を送信して頂き楽しく拝見しています、今回のタイトルが、昔、読んだ土居健郎先生の ”甘えの構造” と同じタイトルだったので懐かしく、30年前頃でしょうか、パリ大学で1年間講義をして居た京都大学・社会学教授の作田啓一先生と奥様に、恥の構造(正確には、" 恥の文化再考 ”)と ” 甘えの構造 ” についてお話を伺った時を思い出しました ◎ 


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