2019 W杯・備忘録 131
〜 FRA 〜
FRA、好調である。2019W杯以降、ガルティエ体制に移行し、順調に進化し続けてきている。昨秋・今年の六か国対抗、無敗である。現時点で、WRランキング2位。来年の自国開催W杯での初優勝も夢ではなくなってきた!? ガルティエ体制になって「負けないラグビー」を追究してきている気がする。
昨秋・今年の8試合のスタッツ。まず、得失点。
表-1 得失点
相手 | ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG |
得点 | 29 | 41 | 40 | 37 | 30 | 36 | 13 | 25 |
失点 | 20 | 15 | 25 | 10 | 24 | 17 | 9 | 13 |
1試合平均の得点:31.38(IRE:38.75)、失点:16.63(IRE:11.88)
昨秋、FRAとIREは、ともに、NZ・ARGに勝利し、他の一戦はFRA/GEO、IRE/JPN、ほぼ同等の対戦相手との8試合であり、比較して見てみるのも一興だろう。
表-2 ボール保持率(%)
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 53 | 57 | 47 | 57 | 47 | 42 | 47 | 45 |
相手 | 47 | 43 | 53 | 43 | 53 | 58 | 53 | 55 |
1試合平均・FRA:45.63、IRE:57.75。
FRAは「負けないラグビー」≒「ボールを相手に渡すこと」+「ディフェンスで押し込むこと」を追究してきている。その結果、どの試合でもほぼ「ボール保持率」〈「地域支配率」が成立している。
表-3 Time in Possession
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 16’34” | 17’57” | 15’56” | 20’53” | 17’50” | 13’38” | 16’37” | 15’53” |
相手 | 14’49” | 13’47” | 18’04” | 15’42” | 18’39” | 19’02” | 18’48” | 19’36” |
計 | 31’23” | 31’44” | 34’00” | 36’35” | 36’29” | 32’40” | 35’25” | 35’29” |
1試合平均・FRA:16’54”、IRE:20’40”。
ガルティエは、ゲーム時間の長い=ゲーム密度の濃い試合に対応できる強度の高い事前トレーニングを行ってきている。そうでありながら、FRA、ボールを無闇に回さず、ゲームを殺すことも目指している気がする。ゲーム中の「オン・オフ」のスイッチの入れ方が独特な気がしている。
表-4 Time in Opposition 22
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 4’13” | 6’59” | 4’08” | 5’22” | 2’17” | 3’28” | 2’54” | 46” |
相手 | 2’00” | 2’16” | 3’05” | 2’03” | 1’46” | 2’40” | 2’38” | 7’29” |
1試合平均・FRA:3’46”、IRE:5’15”。
ENG戦を除いて、対戦相手よりも長い時間となっている。ENG戦の両チームの数値、実に興味深い。
表-5 地域獲得率(%)
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 56 | 62 | 53 | 65 | 51 | 51 | 44 | 44 |
相手 | 44 | 38 | 47 | 35 | 49 | 49 | 56 | 56 |
1試合平均・FRA:53.25、IRE:58.63。
ボールを相手に渡して陣地を前進させるFRA、ボールを持って前進していくIRE、どちらが優れているのか…
表-6 キック比(% Possession Kicked)
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 8.6 | 8.1 | 12.4 | 10.9 | 13.1 | 13.8 | 14.0 | 14.0 |
相手 | 12.0 | 9.7 | 9.8 | 14.8 | 11.0 | 3.4 | 12.9 | 10.7 |
1試合平均・FRA:11.86、IRE:7.13。
FRA、実によく蹴る・蹴り合いに持ち込もうとするチームである。おそらく、昨秋ARG、GEO戦は、NZ戦を意識して、違った戦略で戦っていた感がある。
表-7 パス数
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 138 | 163 | 88 | 156 | 120 | 97 | 96 | 99 |
相手 | 104 | 99 | 132 | 93 | 155 | 187 | 156 | 164 |
1試合平均・FRA:119.63、IRE:212。
攻撃面では、いろいろな数値がIREと対極にある。
表-8 オフロード
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 13 | 6 | 5 | 9 | 8 | 10 | 10 | 13 |
相手 | 3 | 8 | 11 | 1 | 7 | 5 | 6 | 4 |
1試合平均・FRA:9.25、IRE:8.88。
NZに勝つために何をすべきか、チームに浸透しての勝利だった。
表-9 ラック獲得数(Ruck Won)
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 80 | 77 | 79 | 91 | 79 | 37 | 68 | 70 |
相手 | 61 | 52 | 80 | 68 | 82 | 95 | 84 | 85 |
1試合平均・FRA:72.625、IRE:109.25。
SCO戦の数値は特異値。意図したもの(≒実験的なもの)だろう。ラックの連取で前進するIREに比べ、意外性に富んでいる気はする。
表-10 タックル成功率(Tackle Made) (%)
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 94.3 | 84.0 | 83.8 | 93.5 | 91.5 | 86.0 | 94.2 | 87.8 |
相手 | 78.8 | 84.2 | 82.1 | 87.3 | 89.3 | 78.2 | 90.5 | 85.8 |
1試合平均・FRA:89.39、IRE:88.66。
強いチーム=勝っているチームは、ディフェンスが安定している。FRAはガルティエ体制でエドワード(WAL・ガットランド体制でのディフェンスコーチ)を招聘したことが効いている。
表-11 ペナルティ数
ARG | GEO | NZ | ITA | IRE | SCO | WAL | ENG | |
FRA | 13(1,0) | 7(0,0) | 10(0,0) | 14(0,0) | 7(0,0) | 9(0,0) | 8(0,0) | 9(0,0) |
相手 | 13(1,0) | 18(2,0) | 11(1,0) | 10(0,0) | 10(0,0) | 12(0,0) | 9(0,0) | 8(0,0) |
(注)()内の最初数字はイエローカード、二番目の数字はレッドカードを出された数。
1試合平均・FRA:9.63、IRE:10.5。カードは、FRA:イエロー1枚、IRE:ゼロ。
規律が浸透している。
「French Flair:フランスらしさ」とは何か。
2003W杯時、現FRA協会の会長であるラポルトHC(当時)は「French Flairなんてない!」と言い放っていた。ラポルトが代表HCとして戦ったW杯は2003と2007。その2003W杯時のキャプテン・ガルティエがHCになり、2007W杯時のキャプテン・イパネスがGMになった現体制、まず行ったのが、コーチングスタッフ全員での過去の試合の振り返り。FRAの強み・弱みの抽出・FRA代表としての模範的な試合展開の構築。おそらくそこで描かれた青写真に沿って順調に進化している。
それにしても、ラポルトがFRA協会会長選に出馬し、激戦を制して会長に就いたのが2017年。その後、傘下会員に意向調査したのが「2019W杯後、ガットランド・WAL・HC(当時)をフランス代表HCに招聘する」案。この会長提案に対して、「HCはフランス人じゃなきゃダメ!」と過半数が反対しガットランド案は葬られた。もし、ガットランドがHCになっていたならば、どんなフランスラグビーになっていたのやら…
ガルティエ、イパネスともに現役引退後、FRA有力クラブチームのHCになったが、二人とも芳しい成績を上げられなかった(=首になった)。ガルティエは解説者になり、最近のインタビューでは「2019W杯後は、ラグビーを離れて別の職業に就くことを考えていた」と語っている。
こういう各人の軌跡、これはフランスらしい気がしている。
W杯での「フランスらしさ」≒決勝ラウンド:準々決勝・準決勝での番狂わせの勝利+次の試合での順当な敗北⇒優勝できない… 2023W杯 どうなるのか。
令和4年6月4日
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