2022年6月11日土曜日

岡島レポート・ 2019 W杯・備忘録 132

                                              2019 W杯・備忘録 132

  LAR/LEIN 
 
 欧州チャンピオンズカップ決勝戦をJ-COM(ケーブルテレビ)のフランス語チャンネルで見る。
 戦前の予想は、どのメディアも圧倒的にレンスター(アイルランドの地域クラブ。以下「LEIN」)有利。㈰ほぼIRE代表チームのメンバーというチーム構成≒IRE代表と戦うことと同義 ㈪IRE2019W杯以降、進化し続けており、特にゲームスピードの点で他を圧している そのIREのゲームスタイルがそのままLEINのものとなっている ㈫準決勝:フランスクラブチームの雄・FRA代表選手が中心のトゥルーズに圧勝している(40-17) ㈬ラロッシェル(以下、「LAR」)の中心選手:8番・9番(ともに元NZ代表)がケガで欠場 ㈭フランス国内リーグの日程が過密(ENGのクラブチームも同様の環境下)でLARに連戦の疲れがある… LEINの強み・LARの弱みはいくらでも報じられた。一方、LAR有利の報道は見られなかった。
 
 キックオフはLEIN。そのままLAR陣でボールが動き、LARが立て続けにPを重ね、アッという間(8分)にPG2本を決められ0-6。やはりダメかと思われた次のLARのキックオフ⇒LARのラインアウトからLARがトライ&ゴールで7-6と逆転。しかし、地合いはLEIN。着実にPG2本追加し、7-12でハーフタイム。前半のPLAR9(うち4がPGで失点)、LEI3PGによる失点ゼロ)。
 後半、60分:LARのトライ&ゴールで17-18と追いすがった直後、62分:この試合初めてのTMOLEIN9番(ギブソン=パーク:IRE代表)がパントを蹴りチェイス途中、レフリー:バーンズの目の前で転倒する。レフリーは両手を広げ、試合は続行される。試合が止まったところでTMO。よく見るとLAR4番がつま先をかけている。「レフリーの目は欺けても15台のカメラは騙せない!愚かな行為…昔はナイスプレーだったかもしれないが、現代ラグビーではやっちゃいけない!」とフランス人解説者は絶叫。イエローカードが出され、かつ、このPでPGを決められ17-21と突き放される。もはやこれまで… となるはずが、次のLARのキックオフからボールはLEIN陣内にとどまり続ける。この14vs15人の10分間、スクラム機会が4回、そのうち3回でLAR100kg超のセンターが三列目に入りスクラムで押し勝っていた。そして、15人に戻ったころからLEINゴール前にくぎ付けになり、最後にトライ&ゴールで逆転勝利。
 
 やはりラグビーは面白い、試合はやってみなければわからない、そう実感させられる好ゲーム。ある意味でIRE攻略法のお手本のような試合。
 Midolでは「オガーラの秘策」と題して勝因を分析している。オガーラは元IRE代表スタンドオフ。その後継者がセクストン(IREでもLEINでも10番)。ヨーロッパチャンピオンカップで選手(マンスター:IREの地域クラブで優勝)&HCとして優勝した3人目となった。マンスターでプレーした後、フランスのクラブチームで現役生活を終え、クルセイダーズ(NZのクラブチーム)でコーチ経験を積み、一昨年からLARHCに就任。近未来にIREHCになるのではないか、と噂されている。
『オガーラは1週間前に「古くからの友人であるセクストン率いるチームと戦う「ゲームプラン」を持っている、と宣言していた。そのプランとは ㈰ラックでの球出しを遅らせる(≒Pを取られるリスクがあり、現にかなり取られた) ㈪セクストンからのロングパスを封じること(短いパス+ラックの連取でフェーズを重ねた後にセクストンからのロングパスでワイドに展開しディフェンスを切り裂く)⇒このために、ディフェンスラインの外側の選手がオフサイド気味に前に出る≒Pを取られるリスクがあり、現にかなり取られた。㈫PGで点を重ねるだけでなく、トライを取ることが重要。(オガーラは、経験知として、「決勝ではトライを取らなければ勝てない」と明言)(奇しくも、リーグワン決勝も敗者・サントリーはノートライ) プラン通りにプレーして勝利した…
 
 この夏、IRENZ遠征する。どんな試合展開になるのか楽しみだ。
 
 Midolの別の記事の中で、この試合を観戦していたエディー・ジョーンズはノーサイドの笛が吹かれた後、「フランス人選手を観察に来た」(というリップサービス(?))と言い、「スケルトンがいつも以上に素晴らしい働きをしていた。彼が体を張り、LARの他のFWがそれについていって、LEINのゲームプランを破壊した」と語っている。
 スケルトン、おそらく現時点で世界最高の5番だろう。高く(2.03m)・重く(140kg)・当たれて・飛べて・ディフェンスは低く・80分間走り続けられる!この試合、終盤のLARの連続ピック&ゴー、スケルトンとボティア(フィジー代表・センター)が交互にボールを受け・敵に当たり・前に倒れ、そういうフェーズの繰り返しから決勝トライが生まれた。スケルトン:元サモアU20代表・AUS代表(19キャップ)・2015W杯メンバー(2戦目のケガで離脱)・20172020サラセンズ(ENGのクラブ)・2020LARの一員。フランスリーグを見ていたら、いいAUS選手がかなりいる。そして、そのうちのかなりが2019AUS代表に選ばれていない。AUS協会の方針「一定数の代表歴がなければ海外でプレーしている選手を選ばない」が原因である。2027W杯開催が決まったこともあり、この方針は変わる可能性が高い。そうなれば、AUS、一挙にW杯優勝候補になるだろう、一方、スケルトン側から見れば、AUS代表にもサモア代表にも選ばれうる。どう選択するのだろう。
 
 LEINがほぼほぼIRE代表そのものであったのに対して、LARは多国籍軍。スケルトン以外にも中心選手にNZ代表がいたり、両ウィングはRSA出身だったり、もちろんフランス代表も何人かいる。代表が強くなるための国内リーグのあり方の議論の素材になる両チームの戦いだった。
 
( 参考-1 )
LAR/LEIN 得点・P経過表
二列目:RLARの得点経過
三列目:ELEINの得点経過
四列目:RPLARP
五列目:EPLEINP
Pのうち「R+」はマイボールラックでのP、「R-」は相手ボールラックでのP
G-」はPGを狙い外したもの。
 
前半
1
3
5
6
9
13
19
20
32
33
35
37
40
R
 
 
7
E
 
3
6
9
12
RP
M
O
R-
O
 
 
M
F
R-
 
 
S
O
EP
 
 
 
 
 
S
 
 
 
R-
R-
 
 
 
後半
40
43
46
51
57
59
60
64
68
69
71
75
76
78
R
10
17
24
E
 
15
18
21
RP
 
M
R-
O
 
 
 
F*
 
 
 
 
 
 
EP
R+
 
 
 
R+
R+
 
 
F
M
R-
R-
R-
 
 
(注)64分「F*」でLAR4番にイエローカードが出された。
 
( 参考-2 )
LAR/LEIN KSLPFD
「分」は得点時間
大文字は勝者 小文字は敗者のボール支配
K:キックオフ
S:スクラム
L:ラインアウト
P:ペナルティ (PG*PGを狙って外したもの)
F:フリーキック
D:ドロップアウト (D*はゴールライン・ドロップアウト)
- :関連するリスタート
 
得点
4
6
10
22
40
k l-P-l l P-pg
K P-l P-pg
K L TG
k l S-p-L l S l-P-l P-pg
K l s D* dg* D L P-l p-L p-S-P-l s-f P-pg
  1. 3
  1. 6
7- 6
7- 9
7-12
41
47
52
60
64
78
K p-PG
k l-P-l l P-pg
K L s P-pg
K L s p d* DG* l L TG
k L P*-pg
K s S p-L-p-L p-S p-S p-S TG
10-12
10-15
10-18
17-18
17-21
24-21
 
 ゴールライン・ドロップアウトが両チーム1回ずつ。キャッチしたLEIN10番・セクストン、LAR15番・デュラン(FRA代表)がいずれもドロップゴールを狙い・外していた。
 それにしても、LEINの後半の後半の失速、なぜなのだろうか。
 
令和4611

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