2019 W杯・備忘録 120
〜 ENG/IRE 〜
先週末、六か国対抗第4節の3試合:ENG/IRE、WAL/FRA、ITA/SCOが行われた。週末3試合というのは、あれこれ予想し・観戦し・じっくり振り返るのには適度な数のようだ。リーグワン:DIVISION1だけでも6試合、少し多すぎる、というのは贅沢な悩みなのだろうか。
ITAが勝つためには、最低限、㈰ロースコアのゲーム ㈪相手にレッドカードが早い時間帯に出されること、かなと思って見ていたら、なんとENG/IRE戦、開始早々にENGにレッド—カード。ほぼ80分間14人対15人の試合が展開された。
2019W杯後の3年間の同一カードの得点は次のとおり。
表-1 得点
ENG | IRE | WAL | FRA | ITA | SCO | ||||
2020 | 24 | 12 | 23 | 27 | 0 | 17 | |||
2021 | 18 | 32 | 30 | 32 | 10 | 52 | |||
2022 | 15 | 32 | 9 | 13 | 22 | 33 |
ENG/IRE、15-32の大差の試合結果、しかし、見応えがあった。14人対15人の戦いの「お手本」になるような試合だった。なによりも、両チーム選手の横溢した気魄が画面越しでも感じられた試合。大差の結果になったが、得点経過(興味のある方は参考1、2をご覧ください)は、0-8と一旦引き離されるものの後半10分には15-15の同点に。ENGホームのトィッケナムの満員の観衆の大歓声が最高潮に…
各チームのトライ数は次のとおり。
表-2 トライ数
ENG | IRE | WAL | FRA | ITA | SCO | ||||
2020 | 3 | 2 | 2 | 3 | 0 | 3 | |||
2021 | 2 | 2 | 3 | 4 | 1 | 8 | |||
2022 | 0 | 4 | 0 | 1 | 3 | 5 |
後半の後半、力尽きたENG、80分間攻め続けたIREが2トライを追加し・突き放し、大差の試合となった。
表-3 ボール保持率
ENG | IRE | WAL | FRA | ITA | SCO | ||||
2020 | 42 | 58 | 59 | 41 | 49 | 51 | |||
2021 | 48 | 52 | 50 | 50 | 33 | 67 | |||
2022 | 43 | 57 | 53 | 47 | 51 | 49 |
14人対15人であろうと、15人同士であろうと、ENGは「ボールを相手に持たせ」IREは「ボールを持つ」志向は変っていなかった気がする。
表-4 地域支配率
ENG | IRE | WAL | FRA | ITA | SCO | ||||
2020 | 52 | 48 | 50 | 50 | 38 | 62 | |||
2021 | 52 | 48 | 50 | 50 | 36 | 64 | |||
2022 | 39 | 61 | 56 | 44 | 51 | 49 |
ENG、「相手陣で相手にボールを持たせる」ことを志向しているのだろうが、一人欠けていることによって綻びが出ていた。それを端的に示すのが、後半2度あった50:22のIREラインアウト。
開始早々レッドカード、レフリーへの心理的負担も異様に大きい。あのシーンをTMOで詳細に見れば、かつ、ヘッドコンタクトを受けたIRE・5番がそのまま交替したことを踏まえれば、どのレフリーであれレッドカードを出したと思われる。さはさりながら、レフリーも「人の子」、やはり「忖度」があるのでは、と邪推しながら見続けていた。
表-5 ペナルティを取られた数
ENG | IRE | WAL | FRA | ITA | SCO | ||||
2020 | 12 | 7 | 7 | 13 | 8 | 10 | |||
2021 | 14 | 12 | 15 | 6 | 16 | 12 | |||
2022 | 8 | 15 | 9 | 8 | 7 | 8 |
案の定(?)、IREに厳しい笛が多いような… 2019W杯以前からディシプリンの浸透していたIRE、そのディフェンスコーチだったファレルがHCになって磨きがかかってきた感があった。そのIREが「15」。いかにも多い。
表-6 ペナルティを取られた数の内スクラムによるもの
ENG | IRE | WAL | FRA | ITA | SCO | ||||
2020 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 2 | |||
2021 | 3 | 0 | 2 | 0 | 3 | 1 | |||
2022 | 1 | 6 | 1 | 0 | 1 | 0 |
多くなった原因がスクラムでのコラプシング。興味深いのは、試合経過の中で、まずスクラムコラプシングを取られたのは、ENG。その後のスクラムでは、IREが取られ続けていた。
レッドカードが出た段階で気になったことがリザーブとの交代時間。特に、ベテラン、2019W杯決勝先発メンバーであった21:ヤングス、22:フォードがいつ投入されるのか、気になりながら見ていた。
表-7 リザーブの交替ポジション・時間
各列 上段:交代ポジション 下段:時間
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | |
ENG | 2 79 | 1 67 | 3 38 | 20 67 | 7 15 | 9 53 | 15 79 | 13 70 |
IRE | 2 53 | 1 53 | 3 74 | 5 2 | 6 61 | 9 68 | 10 79 | 12 66 |
WAL | 2 55 | 1 67 | 3 60 | 6 52 | 7 76 | 9 10 | 15 67 | 12 65 |
FRA | 2 53 | 1 53 | 3 40 | 12 80 | 4 65 | 8 65 | 9 72 | - |
ITA | 2 52 | 1 52 | 3 52 | 4 54 | 6 72 | 9 52 | 15 67 | 14 46 |
SCO | 2 60 | 1 60 | 3 60 | 4 76 | 8 63 | 9 76 | 10 76 | 12 76 |
これを見てもわかるとおり、この日のENG、レッド以外にも㈰主力の若手:7番が15分で負傷交代 ㈪その交代で入った20番が67分に交代 という想定外のことが起きている。かつ、そもそもこのシリーズ先発2番だったカーワンデッキ—がケガで登録されず、控えのフッカー(16)は経験不足。それでありながら、70分余りは対等に戦っていた。Midolによれば、試合後、ENG・2:ジョージは「自分が代表として戦った試合の中で最高の試合だった」と語ったそうだ。
2023W杯に向けて、最高級の試練の場に直面したENG、よりいいチームになる体験だった。対するIRE、ブレずに・愚直に自らのゲームプラン通りに戦って最終的に大差での勝利、これも得るところが多いのだろう。この試合、14人対15人の試合のお手本になるだろう。
( 参考-1 )
2022-6-4 ENG/IRE経過表
二列目:E:ENGの得点経過
三列目:I:IREの得点経過
四列目:EP:ENGのP
五列目:I:IREのP
Pのうち「R+」はマイボールラックでのP、「R-」は相手ボールラックでのP
「G-」はPGを狙い外したもの。
前半
1 | 4 | 5 | 9 | 12 | 14 | 16 | 22 | 26 | 28 | 30 | 35 | 36 | 36 | 39 | |
E | 3 | G- | 6 | 9 | |||||||||||
I | 3 | 8 | 15 | ||||||||||||
EP | F | S | F | O | |||||||||||
IP | R- | S | R+ | S | O | S | L | O | R- |
荒れた展開になりそうでならなかった。レフリーの「忖度」さほどでもなかったからか、それとも、IREだからなのか、あるいは、ENGホームだったからなのか…
後半
42 | 45 | 49 | 51 | 54 | 55 | 60 | 64 | 71 | 74 | 76 | 78 | |
E | 12 | 15 | ||||||||||
I | 18 | 25 | 32 | |||||||||
EP | R+ | R+ | R- | R- | ||||||||
IP | S | S | R+ | L | S | R- |
最後に「仕留めた」IRE、いいチームであることは間違いない。
( 参考-2 )
2022-6-2 ENG/IRE KSLPFD図
「分」は得点時間
大文字は勝者 小文字は敗者のボール支配
K:キックオフ
S:スクラム
L:ラインアウト(L*は、50:22)
P:ペナルティ (PG*はPGを狙って外したもの)
F:フリーキック
D:ドロップアウト (D*はゴールライン・ドロップアウト)
- :関連するリスタート
分 | 得点 | |
2 5 17 30 36 40 | K pr=PG k P T k s-p-L s-P-l-f P-l s-P=pg K L s-f l P-l l L s-P-l-P=pg*-D P=pg K L p-L-F p TG k P=pg | 0- 3 0- 8 3- 8 6- 8 6-15 9-15 |
51 60 65 71 76 | k l p s-P-l L*-F s-P-l P=pg K p-L-P-l s-P=pg K l L* p=PG k l l F l d* TG k p-L TG k P-l-S | 12-15 15-15 15-18 15-25 15-32 |
この試合、「s」(=ENGボールスクラム)は次々に出てくる。そして、「s」だけで終わるのではなく「s-」と次のリスタートがセットになっている。その多くが「s-P」(=ENGボールスクラムでのIREのP)。
一方、「S」(=IREボールスクラム)は、最後(画面表示では80分47秒)の1回のみ。この「S」、アイルランドがP−ENGボールラインアウトでその直前に交代で入ったENG・16がノットストレートでのもの。
スクラム機会は、ENGに8回(うちIREのP:6、ENGのP:1、ENGへのFK:1)はすべてボールが出される前に笛が吹かれている。IREに与えられた最後のスクラムだけが「通常の≒規則が予定している通り」ボールが三列目から出された。
通常のスクラムとは何か、考えさせられる。
平成4年3月19日
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