2019 W杯・備忘録 119
〜 ENG/WAL 〜
六か国対抗:第3節と第4節の間に一週間の休みがある。前回は第3節SCO/FRAに焦点を当てたが、今回はENG/WALを中心に見ていく。
スタッツを見ていて、アレっと思ったのが「Lineouts Won」と「Opposition Lineouts Stolen」
次のようになっている。
表-1 Lineouts Won
ENG | WAL | SCO | FRA | IRE | ITA | ||||
2020 | 5 | 14 | 11 | 12 | 9 | 15 | |||
2021 | 4 | 16 | 18 | 12 | 13 | 12 | |||
2022 | 6 | 14 | 14 | 12 | 18 | 12 |
なぜか、ENGだけが少ない。しかも、この3年間、同じ傾向である。同一チームの対戦は、同じような試合内容になるのだろうか。
表-2 Opposition Lineouts Stolen
ENG | WAL | SCO | FRA | IRE | ITA | ||||
2020 | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 | |||
2021 | 1 | 1 | 1 | 2 | 1 | 0 | |||
2022 | 2 | 2 | 1 | 0 | 1 | 1 |
素人目には、ENGのラインアウトだけが優ってる気はしない。現に、スチール数も飛びぬけているわけではない。でありながら、ENGのラインアウト数が少ないということは、WALが意図的にタッチに蹴り出さないと考えられうる。
ラインアウトの原因は、㈰攻め込まれたチームが自陣22m内からタッチに蹴り出したことによる相手ボールラインアウト ㈪PKを得たチームがタッチに蹴り出すことによるマイボールラインアウトの二つが多い。
このうち、㈪については、次のような数値が参考となる。
表-3 PGを狙った回数/PKを得た回数
ENG | WAL | SCO | FRA | IRE | ITA | ||||
2020 | 4/ 6 | 3/10 | 3/11 | 2/ 7 | 1/10 | 1/ 8 | |||
2021 | 5/ 9 | 4/14 | 2/15 | 2/15 | 2/18 | 1/10 | |||
2022 | 7/13 | 0/13 | 2/ 9 | 6/12 | 0/ 8 | 3/ 9 |
表-4 PKを得たうち、PGを狙わなかった回数
ENG | WAL | SCO | FRA | IRE | ITA | ||||
2020 | 2 | 7 | 8 | 5 | 9 | 7 | |||
2021 | 4 | 10 | 13 | 13 | 16 | 9 | |||
2022 | 6 | 13 | 7 | 6 | 8 | 6 |
これらからは、WAL、攻め込まれても「安直に(?)」タッチに蹴り出さないということが推測される。それを直接表しているわけではないが、パス総数は次のとおりである。もちろん、天候・グランドコンディションなどに左右される。
表-5 パス総数
ENG | WAL | SCO | FRA | IRE | ITA | ||||
2020 | 119 | 240 | 98 | 131 | 164 | 139 | |||
2021 | 127 | 126 | 147 | 137 | 144 | 157 | |||
2022 | 159 | 220 | 187 | 97 | 280 | 83 |
2019W杯前後でHCがエディー・ジョーンズで変わっていないENG、HCが変わったWAL。WALは、2019W杯までのガットランドのラグビーから脱皮しようと模索しているように見受けられる。それが特徴的に出ているのが、オフロード数。
表-6 オフロード数
ENG | WAL | SCO | FRA | IRE | ITA | ||||
2020 | 4 | 8 | 3 | 13 | 8 | 5 | |||
2021 | 3 | 1 | 7 | 6 | 5 | 6 | |||
2022 | 6 | 14 | 5 | 10 | 10 | 4 |
2019W杯では、WALとIREのオフロード数はRSAと並んで少なかった。それが両チームともにHCが変わって戦術も変わってきている。
六か国対抗、手の内を知り尽くした同士の戦いである。新人が出てきても、ほとんどの選手はどこかで戦っている。癖・弱点は周知のことだ。新戦術を試しても、1週間もあればかなりの分析されてしまう。
真の戦いの場は、次のW杯。各チームが何を試し・求めているのか、気になる今年の六か国対抗である。
( 参考-1 )
2022-6-3 ENG/WAL経過表
二列目:E:ENGの得点経過
三列目:W:WALの得点経過
四列目:EP:ENGのP
五列目:WP:WALのP
Pのうち「R+」はマイボールラックでのP、「R-」は相手ボールラックでのP
「G-」はPGを狙い外したもの。
前半
分 | 1 | 1 | 4 | 9 | 11 | 12 | 13 | 15 | 20 | 22 | 29 | 35 | 40 |
E | 3 | 6 | 9 | 12 | |||||||||
W | |||||||||||||
EP | F | S | M | G- | S | R+ | |||||||
WP | R+ | R+ | R+ | M | R- | R- | R+ | R- |
得点経過だけから見れば、ENG、好調と言えるかもしれない。しかし、20分のWALのPは、WALゴールライン付近のENGボールラックで手を使ったものでイエローカードが出された。このPでENGはスクラムを選択して・コラプシングのPを取られている。結局、シンビンの10分間の最後にPGを決めて3点を加点しただけに留まった。結果論かもしれないが、イエローカードが出されたPはペナルティトライが正当な気もする。そう判定されていたら、試合はワンサイドになっていたかもしれない。
後半
分 | 42 | 47 | 50 | 51 | 52 | 57 | 58 | 58 | 66 | 69 | 70 | 74 | 75 | 77 | 79 | 79 | 83 |
E | 17 | 20 | 23 | ||||||||||||||
W | 5 | 12 | 19 | ||||||||||||||
EP | S | F | O | M | R+ | R- | R- | F | |||||||||
WP | R+ | R+ | S | L | S |
後半最初のENGの得点は、WALゴール前WALボールラインアウトでのスローミス(?)からのトライ。ここでワンサイドゲームになるかと思われたが、なぜかWALが盛り返す。不思議な力を持ったチームだ。70分、23-12となって、このまま終わるのかと思っていたら、79分にWALがトライ・ゴールで4点差に。ENGのキックオフからWALはフェーズを重ね、ただし、地域的にはほとんど前進できず、時間の問題と思ったら、ENGに故意のノックオンのP。それをタッチに蹴り出してENG陣内のWALボールラインアウトで再開。そこで力尽きた。最後、守り抜いたENGも流石だし、試合を捨てずにノーサイドまで愚直にプレーするWAL、どちらもすごい。
( 参考-2 )
2022-6-3 ENG/WAL KSLPFD図
「分」は得点時間
大文字は勝者 小文字は敗者のボール支配
K:キックオフ
S:スクラム
L:ラインアウト(L*は、50:22)
P:ペナルティ (PG*はPGを狙って外したもの)
F:フリーキック
D:ドロップアウト (D*はゴールライン・ドロップアウト)
- :関連するリスタート
分 | 得点 | |
2 4 30 41 | K P p=PG k p=PG k s-f-s-P-l-P-l p-L-p-L p-PG* d L p-S-P-l S l S l p=PG k s L L* P-l p=PG | 3- 0 6- 0 9- 0 12- 0 |
42 53 60 67 71 79 | k l T k l s-P-l l p-L P-l l t K P-l-P-l tg K p=PG k S-p-L-p=PG k S-p-L P-l P-l P tg K P-l | 17- 0 17- 5 17-12 20-12 23-12 23-19 |
前後半、開始早々、ENGが得点している。今年から試験的に導入されている「50:22」、威力抜群だ。この試合では、1回。前半35分、ENG・12のキックでWALゴール前6mのラインアウトになっている。ただし、そのラインアウトからは得点に至らなかった。
この試合、というか、両チームの「意地の張り合い」が端的に出たのが、60分WALのトライゴールで5点差になった直後のシーン。テレビの時計では「61分34秒」にENGがリスタートのキックオフ。次に笛が吹かれたのは「66分17秒」。5分弱ゲームが止まらずにボールが動き続けている。このプレー中、両チーム1回ずつノックオンをしているが相手チームが瞬時に反応してプレー継続⇒アドバンテージ解消となっている。WAL、何度か22m内からタッチに蹴り出し=ゲームを切る選択があったが、すべてフィールド内に蹴り返している。時間帯、ゲームの流れ、彼我のリザーブ(=選手層の厚さの相違)などから、結果論だけれど、試合を切る選択もあったのではないか、と思われる。
平成4年3月12日
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