2019 W杯・備忘録 94
~ 第3回大会・決勝 RSA/NZ ~
多事多難の年として記憶され語り継がれる1995年、国際社会に復帰できたRSAで、第3回W杯が開催された。観客総数は、第2回大会1,007,760人を上回る1,100,000人。4年に一度のラグビーの祭典が定着した大会とも言えよう。
この大会後にラグビー界はプロ化する。その意味で、アマチュア時代最後の大会でもあった。ラグビー界におけるグローバル・カレンダーが定かでない時代。南半球での開催ということで、第1回NZ大会同様、5月26日から6月24日という南半球にとっての晩秋、北半球にとっての晩春から初夏の時期、16チーム:4予選プールで戦われた。ラグビーにふさわしい季節、やはり少し寒くなってきて落ち葉が舞うのがいいのだろうか。
JPNが最多失点145点取られてNZに敗れた大会でもあった。JPNは、第1戦:WAL:10-57、中3日、第2戦:IRE:28-50、中3日、第3戦:NZ:17-145。エレロ流に言えば「NZが145点取ったことより、NZから17点奪ったことが記憶されるべき」なのかもしれない。今から思うと、中3日でよくカジノに行けたものだ… 当時、「中3日」問題って、あまり語られていなかった気がする。アマチュア時代ということだからなのか…
決勝は、59,870人を集め、晴れた土曜日の午後、行われた。映画「インビクタス」でも描かれた通り、RSAマンデラ大統領が選手たちと握手し、国歌斉唱へ。この大会では、まだ先発メンバーだけが並んでいる。試合前のNZのハカも15人で。先導者を取り囲む形の半円で行われる。RSAの選手がセンターラインを越境しているがお咎めなし。まだまだ牧歌的な時代だった。
試合経過は次の通り。RSAの得点は「○」、失点は「●」、RSAが得点を逃したのは「×」、NZが得点を逃したのは「*」。
分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート | |
● * ○ ● ○ × ○ | 4 6 9 13 20 25 31 | 0- 3 3- 3 3- 6 6- 6 9- 6 | PG DG PG PG PG PG DG | NZのキックオフで試合開始。 RSAのP(ラック・オフサイド)。NZ・10・PG。 RSA22m内からのRSA・15のキックをキャッチしたNZ・10が遠い位置からDGを狙うもポストに届かず。 NZのP(ラック・オフサイド)。RSA・10・PG。 NZボール・ラインアウトからNZ展開し、ロムーが中央を突破、ラックでRSAのP。NZ・10・PG。 NZ22m内でのRSAボール・ラインアウトから展開。ラックが膠着しRSAボール・スクラム。スクラムサイドをついてピック&ゴーでインゴールに持ち込むもグラウンディング出来ず、NZゴール前5mのRSAボール・スクラム。NZがコラプシングのP。RSA・10・PG。 NZゴール前RSAボール・スクラムでNZのコラプシングのP。タッチライン際でRSA・10・PGを外す。 NZボール・ラインアウトがこぼれてRSAボールに。ピック&ゴーでNZ22m内に入りバックスに展開、ラックから9→10・DG。 |
* × * ● * * | 41 43 50 54 58 77 | 9- 9 | DG DG PG DG DG DG | NZボール・ラインアウトから9→10・DGを外す。 RSA・10、自陣からのDG外す。 RSAのP(ラック・倒れ込み)。NZ陣からNZ・10・PG外す。 NZボール・スクラムから展開しロムーがタッチ際を走るが押し出され、RSAボール・ラインアウト。NZがスチールし、9→10→12(ラック)9→10・DG。 RSA22m内のNZボール・ラインアウトから9→10・DG外す。 RSA22m内のRSAボール・ラインアウトをNZ・スチール。9→10→13(ラック)9→10ポスト正面からのDG・外す。 |
● ○ | 81 90 | 9-12 12-12 | PG PG | RSAのP(キッカーより前にいた選手がチェイス)。NZ・10・PG。 NZのP(ラック・倒れ込み)。RSA・10・PG。 |
○ × | 91 98 | 15-12 | DG PG | NZ22m内のRSAボール・スクラムから9→10・DG。 NZのP(ラック・ハンド)。RSA・10・PG外す。 |
(注)「→」は順目のパス。「←」は内返しのパス。
あらためて見返してみると、何度もNZの勝機はあった。後半だけで3度のDGを外している。特に、残り3分でのNZ・10・マーテンスのDGが決まっていたら、歴史は変わっていたのかもしれない、と思ってしまう。
決勝点は、RSA・10のDG。得点機会だけを書き連ねると無味乾燥になっていくが、そこに至るまでのボールとプレーヤーの動きを見ているとラグビーの面白さ・醍醐味が凝縮している気がする。トライはトライで胸がすく快感をもたらしてくれる。DGはDGで独特の深みのある味がする。
それにしても、密度の濃い試合。3点差以上に点差が開かない、ただの一瞬もセーフティー・リードがなかった。そして、延長戦。先に点を取った方が優位に立てるというのは常識だろう。その先取点を取られても戦い続けてRSAの選手たちが凄かったということに尽きるのかもしれない。
ノートライの試合だが、緊迫感が異様なまでにあって見応え満点。千両役者:怪物:ロムーがボールタッチするだけでワクワク・ドキドキする。
この試合では、前後半80分間で、S:26回(第1回決勝:38、第2回:29)、L:50回(①44・②47)、P:16回(①17回・②22)であった。これにリスタートのキックオフ:6回(①10・②5)、フリーキック:4回(①1・②1)、ドロップアウト:8回(①5・②7)を加えると、レフリーの笛が吹かれて、試合が止められたのは、110回(①115・②111)。ほぼ40秒に1回は試合が止まっている。第1回大会から大きな変化は生じていない。それでいて「ぶつ切り」感をあまり感じなかった、気のせいなのだろうか…
この大会では、ペナルティ・キックを蹴り出したチームのボールのラインアウトで試合が再開されるようになった。その意味でPの持つ意味が重くなった。今日的には、Pを奪って相手陣に深く入り、ラインアウト→モールで相手ゴールに迫る・トライを奪う、というパターンのせめぎ合いが大きな勝負所になっている。ところが、この試合ではそういうシーンは起こっていない。もちろん、たまたまかもしれないが、一つにはラインアウトの精度の低さがあげられる気がする。
この大会前から、ラインアウトのリフティングが認められるようになった。その改正を試験的に採用していたRSAに「一日の長」があるはずなのに、この試合で見る限り、RSA・ラインアウト、さほどよくない。現在のようにRSAラインアウトが完成の域に達するのは、単にルールが変わっただけでなく技術的なものが積み重なっているようだ。その意味で、プロ化による戦術・戦略の進化・深化の速度が加速化したのだろう。
もちろん、ラグビー界のプロ化だけではなく、映像技術などの進化・さまざまな局面でのグローバル化なども大きな影響を与えている。
この大会後、ラグビーはプロ化し、南半球のトライネーション・スーパーラグビーなどのテレビコンテンツが次々に出現する。その映像が瞬時に世界を駆け巡る時代に突入した。
令和3年9月11日
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