2019 W杯・備忘録 93
~ 第2回大会・決勝 AUS/ENG ~
1991年秋、第2回W杯が北半球で開催された。1991年、年初には湾岸戦争、年末にはソ連崩壊、世界の枠組みが揺らいだ年であった。そして、平成初のW杯でもあった。
第1回大会と同様、16チームが4組に分かれて予選リーグを戦い、上位8チームによる決勝トーナメントで競われた。プロ化以前の緩い時代、予選リーグは、ENG・WAL・SCO・IRE・FRAのそれぞれの地元で行われた。
JPNは、第1戦:SCOとエディンバラで(3-47・敗北)、中3日、第2戦:IREとダブリンで(16-32・敗北)、中4日、第3戦:ジンバブエとベルファストで(52-8・勝利)戦っている。この時代、強豪国も同じような間隔で試合が組まれていた。アマチュア時代で、どのチームの選手も「仕事を休んで」大会に参加していて、テレビ視聴率を考慮することもなく平日に試合が組まれ、どのチームもほぼ等間隔で試合が行われていた。だから今より公平・平等だったと言えるかは疑問だが…
開幕戦、ENGはNZに12-18で敗れ、予選リーグ2位通過ながら、FW戦+キック中心の勝ち切るラグビーで決勝に進んだ。対戦相手はNZを準決勝:16-6で破ったAUS。第1回決勝に続いて、南半球vs北半球の決勝となった。11月2日、トゥイッケナムに56,208人の観客を集めて決勝が行われた。
試合経過は次の通り。AUSの得点は「○」、失点は「●」、AUSが得点を逃したのは「×」、ENGが得点を逃したのは「*」。
分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート | |
× ○ ○ * * | 19 25 29 35 40 | 3- 0 9- 0 | PG PG T+G PG PG | AUSのキックオフで試合開始。 ENGのP(ラック・倒れ込み)。正面の簡単なPGをAUS・10が外す。 ENGのP(ラインアウト・オブストラクション)。AUS・10のPG。 ENGゴール前のAUSボール・ラインアウト。両手でキャッチしモールをずらしてAUS・3がT。10がG。 AUSのP(ラインアウト・オブストラクション)。かなり遠い位置でENG・15のPG、届かず。 AUSのP(倒れたままでプレー)。入れてもおかしくないPGをENG・15外す。 |
* ● ○ ● | 46 60 67 70 | 9- 3 12- 3 12- 6 | DG PG PG PG | AUSゴールポスト前のENGボール・スクラム。9→10がDGも外す。 AUSのP(ラインアウト・オブストラクション)。ENG・15・PG。 ENGのP(ラック・倒れ込み)。AUS・10・PG。 AUSのP(故意のノックオン)。ENG・15・PG。 |
(注)「→」は順目のパス。「←」は内返しのパス。
35分からハーフタイムをはさんで46分までに3回のPG・DGを外している。特に、3番目のDGは22m内ゴール正面、入れなければならないゴールだった。そして、いずれかが入っていれば試合経過・結果は大きく変わっていただろう。
先月末に発売されたラグビーマガジン2021年10月号「エディー・ジョーンズ[イングランド代表監督]コラム」(p153)の中に『これまでも、「華のあるラグビー」というナンセンスがメディアを中心に語られてきました。』という文章がある。(この文章に続いて、ガットランドのラグビーを書き込んでいる。)
第2回大会の決勝に至るまで、ENGは「華のないラグビー」をしていると批判され続け、決勝では、それまでの戦い方とは全く異なったバックスに展開するプレーを多用していた。この試合、センターがパスを受けてゲインするシーンがそれなりに出てくる。ENGの積極果敢なアタック、それなりに見応えがある。彼らなりに「華のあるラグビー」を実践したのであろう。だから or でも 負けた… 誰かに褒められるためにプレーするわけではない。アマチュア時代、視聴率・観客動員数を気にする必要もない。彼らの戦術の選択をどう評価すればいいのだろうか? そして、仮に準決勝までと同じように普段着の「華のないラグビー」を行っていたらどうなっていたのだろうか? それが気になった。
そして、「華のないラグビー」を批判していた人びとは、この試合をどう評価しているのかも気になった。おそらく、ENGの選手たちは、よくぞ果敢に攻撃し続けたと称賛した人たちと、たんなる「おバカ」と冷笑した人たちに二分されたのであろう。
勝利至上主義を全面的に支持する気にはなれない。かといって、勝者を差し置いて敗者の美学を語り継ぐのも違う気がする。となると、やはり勝たなければ意味がないのか。
「手の平を返せる」人びとと「結果が残る」選手たち。何を見、何を感ずるのか、人それぞれ、その立場によるということか。
それにしても「華のあるラグビー」って、ナンセンスなのだろうか? おそらく、勝利を義務付けられたHCにとってはナンセンスなのだろう。では、観客としてファンタジーを求めることはいけないこと≒ナンセンスなのだろうか…
たとえば、ラグビーの本質を ①15人対15人の同数での戦い ②一つのボールの争奪と継続 ③相手チームより多くの得点をあげること だと考えてみる。だとすれば、「華があるか否か」を評価・判断するのは、「見ている人」「第三者」であって、本質から離れている。そんなこと言ったって、観客は観客で感想を抱き、願望を語り出す。プロ化時代、観客も本質に含まれてくる。観客は「華のあるラグビー」を夢見るようになる。勝利と「華」、これからも続く論点なのであろう。
この試合では、S:29回(第1回決勝:38回)、L:47回(同:44回)、P:22回(同:17回)であった。これにリスタートのキックオフ:5回(同:10回)、フリーキック:1回(同:1回)、ドロップアウト:7回(同:5回)を加えると、レフリーの笛が吹かれて、試合が止められたのは、111回(同:115回)。ほぼ40秒に1回は試合が止まっている。
第1回大会から大きな変化は生じていない。あいかわらず「ぶつ切り」感があった。
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前大会後から、会長人事・HC人事などなど、ゴタゴタ続きのFRAは、準々決勝パリでの対ENG戦の数日前、ブランコ主将はじめ主要選手がそれなりの(休業)手当の支払いをFRA協会に求めて、「応じない場合には試合に出場しない」と通告していた。それに対してフェラス会長は「それだったら、他の選手が出場すればいい、出たい奴は国中にいくらでもいる」と取り合わず、結局、ブランコが矛を収めて当日を迎える。試合は、ENGの「華のないラグビー」+徹底したブランコ潰しが効いて19-10のENGの勝利。プロ化以前の悲喜劇の一幕… なお、「手当」は、後日、タニマチが支給したと言われている。
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マルク・デュザン『W杯でのFRAチームの裏話』の中で、カナダのU-20のバージャス・コーチがキックティーを開発して、この大会でカナダとフランスのキッカーが使用し、以後、急速に広まったとしている。
令和3年9月4日
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