2021年4月24日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 74

2019 W杯・備忘録 74

        ~ 偶有性 ~

  世の中には、ありえたかもしれないが現実には起こらなかったこと、が次から次へと出てくる。そのうちのいくつかは、ありえた「はず」のことであり、またいくつかは、ある「べき」ことであったりする。

 やがて、ありえた「はず」のことやある「べき」だったことは忘れられ、現実に起こったことだけの歴史が残されてゆく。

 ラグビーの試合は、世の中の写し絵。

  今大会前から脳震盪が重要課題となり、それに対応するためHIA適応基準・(イエロー・レッド)カード適応基準が厳格化された。大会開始前のテストマッチでは、それ以前には「流され」見過ごされてきたプレーにカードが出され、物議を醸したりしていた。

 そして、迎えた大会。開幕戦、第2戦でHIAのため一時退場を余儀なくされたプレーヤーが出た。にもかかわらず、TMOにも付されずに、誰も「お咎め」を受けずにノーサイドとなった。それに対して、おかしいじゃないか、という真っ当な指摘が出された。その指摘もあったのであろう、第2戦に関しては、試合後、Disciplinary Committee が開催され、事後的に加害者たる選手にレッドカード相当・3試合の出場停止処分が下された。ところが、開幕戦に関しては「音沙汰なし」で過ぎていった。

  あらためて問題のシーンを見返してみる。

 開幕戦:JPN/RUS31分:RUS・9番が倒れ・メディカルが駆けつけ・立ち上がり、次のセットプレー(RUS・スクラム)で再開される。その次のRUS・スクラムの時に、HIAのため件のRUS・9番は、一時退場を余儀なくされる。

 第2戦:AUS/FIJ25分:FIJ7番が倒れ・メディカルが駆けつけ・立ち上がるもHIAのため一時退場。HIAの結果、そのまま交替となった。

  いずれのケースも味方同士の衝突ではなく、対戦相手の選手との「接触」が原因である。第2戦に関しては、この備忘録・1で触れたが、後のDisciplinary Committeeでマッチオフィシャルが、このシーンをどう見たのか、ということが明らかになっており、タッチジャッジは”rugby collision”と言っていた。おそらく、ラグビーの試合でしばしば起きる偶発的な衝突とでも言うもので、「運が悪かったね」「打ち所が悪かったね」的なものと見えなくもない。

 これに対して、開幕戦のケースは、何度見ても「情状酌量」の余地がない。前半31分というのは、JPN5-7とリードされていた時間帯である。HIAで一時退出せざるを得なくなった選手が出れば、その原因を即座にきちんと精査する、そのためのTMOであるはずなのに、なぜかこのケースは何の確認作業もなされずに「お咎めなし」で流された。

  この大会の分岐点となったとも言えるレッドカード、多くの人が思い出すのが、M25ENG/ARGARG5番に出されたものと準々決勝:WAL/FRAFRA・5番に出されたものであろう。確かに、TMOでじっくりと見れば、どちらのプレーもレッドカード相当でおかしくないのであろう。ただし、この2プレーの被害者は、いずれもHIAも受けずにフルタイム・ピッチに立ってプレーしていた。

これらに比べて、第1戦・第2戦はHIAを受けなければならない明確な被害者がいたにもかかわらず、その場では「お咎めなし」だった。

 幻のレッドカードとでも言うのだろうか…

  なぜ見過ごされたのか、自問自答し続けている。

 日露戦、いずれの時も、語りつくされていないことが山ほどある、ということなのだろうか。この国のことを思うとき、日露戦は、なぜか、大切な分岐点であった気がしてきたりもする。

 あの大会はいったい何だったのだろう、とふと思い返すことがしばしばある。

                                             令和3年4月24日 

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