2019 W杯・備忘録 112
~ スクラム ~
スクラムは「ラグビーの華」だ。スクラムなしのラグビーなんて考えられない。そもそも、団体球技のプレーで、一人対一人ではなく八人対八人で一つのボールを競い合うリスタートはスクラム以外には思いつかない。野球はピッチャーが投げ・バッターが打つ。二人以上の選手が同時にボールをキャッチすることはできない。サッカーも基本は1v1だ。ところが、スクラムは1v1では成立しない。ラグビーの起源にも遡る神聖な集団行為だ。そして、組んでいる人たち以外には理解できない不思議な戦いでもある。
近年、プロ化・ビジネス化によって、スクラムも大きく変化してきた気がする。これまでも書いてきた通り、スクラムの回数は激減した。一方で、スクラムでのPが増えてきた。
まず、スクラムの回数、勝者・敗者別では次のようになる。
表-1 スクラムの勝者・敗者別回数
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
勝者 | 20 | 22 | 11 | 10 | 3 | 8 | 10 |
敗者 | 18 | 23 | 3 | 5 | 4 | 4 | 1 |
ゲームⅠは、1987年第1回W杯決勝:NZ(29-9)FRA。
ゲームⅡは、1987年12月6日:「雪の早明戦」早稲田(10-7)明治
ゲームⅢは、2019年第9回W杯決勝:RSA(32-12)ENG
ゲームⅣは、2022年1月8日:リーグワン開幕戦:Nコム(24-23)神戸
ゲームⅤは、2022年1月8日:サントリー(60-46)東芝
ゲームⅥは、2022年1月9日:大学選手権決勝:帝京(27-14)明治
ゲームⅦは、2021年12月26日:大学選手権準々決勝:明治(20-15)早稲田
「ミス」が少ない方が勝利に近い≒マイボールスクラムの数が多いチームが勝利に近づく。そこに「アドバンテージ」ルールが加わるとゲームは複雑化する。大学選手権準々決勝:帝京(76-24)同志社戦。帝京ボールスクラムは「ゼロ」。帝京のリアクションの速さが際立った試合だった。同志社ボールスクラムは6回。
スクラムが少ない試合、総じて「締まった」感じがする。
レフリーの「クラウチ」「バインド」「セット」のコールとともに「組み直し」が増えてきた気がする。組み直し、時計が止まらず時間だけが過ぎていくこともあり、出来るだけ少ない方がいい。ある意味、スクラムは相撲の「立合」を思い出させる。そうであれば、それを整理するのは、行司≒レフリーなのだろうか?
表-2 スクラムの組み直し割合 (組み直しのあったスクラム/スクラム回数 (%))
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
勝者 | 30 | 14 | 27 | 30 | - | 63 | 80 |
敗者 | - | 30 | 33 | 60 | - | 25 | - |
Pの割合も増えてきた。かつて、スクラムはリスタートの一類型であり、ボールを出してゲームを継続すること(NZ・AUS流か)が主流であった。それがPを取るための戦いの場に変化してきた。もちろん、オープンプレー志向チーム同士の戦いでは、例えばゲームⅤのようにスクラムに淡白な試合もある。
Pの原因もかつては三列目が肩を外す・スクラムハーフがオフサイドをするというのが典型的なPで、現在のようなコラプシング系のPは少なかった。
表-3 スクラムでのP(Fを含む)の割合 (P(Fを含む)のスクラム/スクラム回数(%))
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
勝者 | 5 | 5 | 55 | 50 | - | 100 | 80 |
敗者 | 6 | 9 | 33 | 60 | 25 | 50 | - |
ゲームⅠ・Ⅱでコラプシング系のPは1回のみ。
スクラムのPのうち組み直しなしで取られたものは次のようになる。
表-4 (組み直しなし(=一発)でPを取られたスクラム数/Pを取られてたスクラム数)
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
勝者 | 1/ 1 | 1/ 1 | 5/ 6 | 2/ 5 | - | 3/ 6 | 2/ 5 |
敗者 | 1/ 1 | 2/ 2 | 1/ 1 | 1/ 1 | 1/ 1 | 1/ 1 | - |
ゲームⅠ・Ⅱ・Ⅲ、レフリーが躊躇なく吹いている。
また、スクラムのFのうち組み直しなしで取られたものは次のようになる。
表-5 (組み直しなし(=一発)でFを取られたスクラム数/Fを取られたスクラム数)
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
勝者 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0/ 2 | 0/ 3 |
敗者 | 0 | 0 | 0 | 0/ 2 | 0 | 0/ 1 | 0 |
「0」:試合中にスクラムでのFがゼロ。
どうもスクラムにおけるFは、「足して二で割った」感がある。あるいは、「次やったらP
ですよ」という警告のような。それはそれで意味があるのだろう。
ですよ」という警告のような。それはそれで意味があるのだろう。
ともかく、レフリー受難のシーンでもある。いいスクラム・気持ち良いスクラムを見たいものだ(って 何が「いい」何が「気持ち良い」かは 人それぞれかもしれないが…)。少なくとも、両チームが納得する判定であってほしい。観客にとっても理解可能な笛であってほしい。それをレフリーだけに要求するのには無理がある。
W杯は、短期間に次々に試合が行われ、判定基準も一定の幅に収斂していく。日本のラグビーシーン、とりわけスクラムの判定基準は大きな幅があるままシーズンが進んでいく気がする。
かつて、1番・3番と言えば寡黙な仕事人、信頼に足る人びとだった。このところ見ていると、何となく「駆け引き上手」で「世知に長けた」フロントが増えてきた気がする。もちろん、だからと言って信頼できないわけでは決してないのだが。時代がコミュニケーションを求めているのが、こんな場面にも現れているのだろうか。
巨漢にニコニコ迫られるレフリーの心境、察するに余りある。
(参考) 上記7試合の中でもスクラムの判定に関して、強い印象に残った3試合のスクラムでのP・Fと組み直しについて表にしてみると次のようになる。
1列目:時間
2列目:ボール投入チーム
3列目:組み直し回数
4列目:PないしはF
ゲームⅢ:RSA/ENG
2 | 5 | 12 | 15 | 23 | 39 | 43 | 46 | 48 | 63 | 67 | 69 | 76 | 78 |
R | E | R | R | R | R | R | R | E | R | E | R | R | R |
0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
(P) | - | - | P | P | P | P | P | P | - | - | - | - | - |
(印象)
W杯48試合の最終戦。スクラムに関するレフリング基準も浸透している。だから、組み直しが少ない。そして、RSAはPを取るスクラムを組んだ。2分:ENG・3番のケガも影響したかもしれない。レフリーの「決然主義」も見応えがあった。FKはなく、Pのみというのにも表れている。2分の(P)は、RSAスクラムでPを取り・アドバンテージでゲームを流し・RSAが大きく地域を獲得したことからP・アドバンテージがオーバー(解消)されたもの。試合の大勢が決したあたりから、RSAも遮二無二押すことをやめたようだ。
ゲームⅥ:帝京(T)/明治(M)
9 | 18 | 20 | 29 | 31 | 58 | 60 | 62 | 68 | 72 | 75 | 77 |
T | M | M | T | T | M | T | T | T | T | T | M |
1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 |
P | F | - | F | P | - | F | P | P | P | P* | P |
(印象)
帝京ボールのスクラム8回、すべてPまたはFになっている。一度もボールが出されて試合が継続することはなかった。これがスクラム! これがラグビー? 興味深いのは、試合の大勢が決した75分のP*、帝京ボールスクラム:一発で帝京のP。何が取られたのかわからなかった。そして、77分の明治ボールスクラム、これまた一発で帝京のP。腑に落ちない笛だった。
ゲームⅦ:明治(M)/早稲田(W)
10 | 12 | 13 | 23 | 32 | 53 | 60 | 63 | 65 | 73 | 78 |
M | M | M | M | W | M | M | M | M | M | M |
1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 4 | 2 | 1 |
F | F | - | F* | - | P | P | P | - | P | P |
(印象)
組み直しが多いという印象が残った試合。その一番の原因が65分明治ボールスクラム。4度の組み直し。試合の序盤であれば、組み直しがあっても仕方ないかもしれない。しかし、佳境での組み直しの連続。レフリー、両チームいろいろ言い分はあろうが、なんとかならないものだろうか、ともかく時間だけは空費されていった。
令和4年1月22日
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