2022年1月22日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 112

                                2019 W杯・備忘録 112

  スクラム ~
 
 スクラムは「ラグビーの華」だ。スクラムなしのラグビーなんて考えられない。そもそも、団体球技のプレーで、一人対一人ではなく八人対八人で一つのボールを競い合うリスタートはスクラム以外には思いつかない。野球はピッチャーが投げ・バッターが打つ。二人以上の選手が同時にボールをキャッチすることはできない。サッカーも基本は1v1だ。ところが、スクラムは1v1では成立しない。ラグビーの起源にも遡る神聖な集団行為だ。そして、組んでいる人たち以外には理解できない不思議な戦いでもある。
 近年、プロ化・ビジネス化によって、スクラムも大きく変化してきた気がする。これまでも書いてきた通り、スクラムの回数は激減した。一方で、スクラムでのPが増えてきた。
 
 まず、スクラムの回数、勝者・敗者別では次のようになる。
-1 スクラムの勝者・敗者別回数
 
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
  20
  22
  11
  10
   3
   8
  10
敗者
  18
  23
   3
   5
   4
   4
   1
 
ゲームⅠは、1987年第1W杯決勝:NZ29-9FRA
ゲームⅡは、1987126日:「雪の早明戦」早稲田(10-7)明治
ゲームⅢは、2019年第9W杯決勝:RSA32-12ENG
ゲームⅣは、202218日:リーグワン開幕戦:Nコム(24-23)神戸
ゲームⅤは、202218日:サントリー(60-46)東芝
ゲームⅥは、202219日:大学選手権決勝:帝京(27-14)明治
ゲームⅦは、20211226日:大学選手権準々決勝:明治(20-15)早稲田
 
 「ミス」が少ない方が勝利に近い≒マイボールスクラムの数が多いチームが勝利に近づく。そこに「アドバンテージ」ルールが加わるとゲームは複雑化する。大学選手権準々決勝:帝京(76-24)同志社戦。帝京ボールスクラムは「ゼロ」。帝京のリアクションの速さが際立った試合だった。同志社ボールスクラムは6回。
スクラムが少ない試合、総じて「締まった」感じがする。
 
 レフリーの「クラウチ」「バインド」「セット」のコールとともに「組み直し」が増えてきた気がする。組み直し、時計が止まらず時間だけが過ぎていくこともあり、出来るだけ少ない方がいい。ある意味、スクラムは相撲の「立合」を思い出させる。そうであれば、それを整理するのは、行司≒レフリーなのだろうか?
 
-2 スクラムの組み直し割合  (組み直しのあったスクラム/スクラム回数 (%))
 
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
  30
  14
  27
  30
   -
  63
  80
敗者
   -
  30
  33
  60
   -
  25
   -
 
 Pの割合も増えてきた。かつて、スクラムはリスタートの一類型であり、ボールを出してゲームを継続すること(NZAUS流か)が主流であった。それがPを取るための戦いの場に変化してきた。もちろん、オープンプレー志向チーム同士の戦いでは、例えばゲームⅤのようにスクラムに淡白な試合もある。
 Pの原因もかつては三列目が肩を外す・スクラムハーフがオフサイドをするというのが典型的なPで、現在のようなコラプシング系のPは少なかった。
-3 スクラムでのPFを含む)の割合 (PFを含む)のスクラム/スクラム回数(%))
 
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
   5
   5
  55
  50
   -
100
  80
敗者
   6
   9
  33
  60
  25
  50
   -
 ゲームⅠ・Ⅱでコラプシング系のP1回のみ。
 
 スクラムのPのうち組み直しなしで取られたものは次のようになる。
-4 (組み直しなし(=一発)でPを取られたスクラム数/Pを取られてたスクラム数)
 
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
  1/ 1
  1/ 1
  5/ 6
  2/ 5
   -
  3/ 6
  2/ 5
敗者
  1/ 1
  2/ 2
  1/ 1
  1/ 1
  1/ 1
  1/ 1
   -
 ゲームⅠ・Ⅱ・Ⅲ、レフリーが躊躇なく吹いている。
 
 また、スクラムのFのうち組み直しなしで取られたものは次のようになる。
-5 (組み直しなし(=一発)でFを取られたスクラム数/Fを取られたスクラム数)
 
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
   0
   0
   0
   0
   0
  0/ 2
  0/ 3
敗者
   0
   0
   0
  0/ 2
   0
  0/ 1
   0
「0」:試合中にスクラムでのFがゼロ。
 
 どうもスクラムにおけるFは、「足して二で割った」感がある。あるいは、「次やったらP
ですよ」という警告のような。それはそれで意味があるのだろう。
 
 ともかく、レフリー受難のシーンでもある。いいスクラム・気持ち良いスクラムを見たいものだ(って 何が「いい」何が「気持ち良い」かは 人それぞれかもしれないが…)。少なくとも、両チームが納得する判定であってほしい。観客にとっても理解可能な笛であってほしい。それをレフリーだけに要求するのには無理がある。
 W杯は、短期間に次々に試合が行われ、判定基準も一定の幅に収斂していく。日本のラグビーシーン、とりわけスクラムの判定基準は大きな幅があるままシーズンが進んでいく気がする。
 
 かつて、1番・3番と言えば寡黙な仕事人、信頼に足る人びとだった。このところ見ていると、何となく「駆け引き上手」で「世知に長けた」フロントが増えてきた気がする。もちろん、だからと言って信頼できないわけでは決してないのだが。時代がコミュニケーションを求めているのが、こんな場面にも現れているのだろうか。
 巨漢にニコニコ迫られるレフリーの心境、察するに余りある。
 
 
(参考) 上記7試合の中でもスクラムの判定に関して、強い印象に残った3試合のスクラムでのPFと組み直しについて表にしてみると次のようになる。
 
1列目:時間
2列目:ボール投入チーム
3列目:組み直し回数
4列目:PないしはF
 
ゲームⅢ:RSA/ENG
  2
  5
12
15
23
39
43
46
48
63
67
69
76
78
R
E
R
R
R
R
R
R
E
R
 R
R
R
0
1
1
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
(P)
-
-
P
P
P
P
P
P
-
-
-
-
-
 
(印象)
 W48試合の最終戦。スクラムに関するレフリング基準も浸透している。だから、組み直しが少ない。そして、RSAPを取るスクラムを組んだ。2分:ENG3番のケガも影響したかもしれない。レフリーの「決然主義」も見応えがあった。FKはなく、Pのみというのにも表れている。2分の(P)は、RSAスクラムでPを取り・アドバンテージでゲームを流し・RSAが大きく地域を獲得したことからP・アドバンテージがオーバー(解消)されたもの。試合の大勢が決したあたりから、RSAも遮二無二押すことをやめたようだ。
 
ゲームⅥ:帝京(T/明治(M
  9
18
20
29
31
58
60
62
68
72
75
77
T
M
M
T
T
M
T
T
T
T
T
M
1
1
0
1
0
0
2
0
1
1
0
0
P
F
-
F
P
-
F
P
P
P
P*
P
 
(印象)
 帝京ボールのスクラム8回、すべてPまたはFになっている。一度もボールが出されて試合が継続することはなかった。これがスクラム! これがラグビー? 興味深いのは、試合の大勢が決した75分のP*、帝京ボールスクラム:一発で帝京のP。何が取られたのかわからなかった。そして、77分の明治ボールスクラム、これまた一発で帝京のP。腑に落ちない笛だった。
 
ゲームⅦ:明治(M/早稲田(W
10
12
13
23
32
53
60
63
65
73
78
M
M
M
M
W
M
M
M
M
M
M
1
1
1
1
0
0
0
1
4
2
1
F
F
-
F*
-
P
P
P
-
P
P
 
(印象)
 組み直しが多いという印象が残った試合。その一番の原因が65分明治ボールスクラム。4度の組み直し。試合の序盤であれば、組み直しがあっても仕方ないかもしれない。しかし、佳境での組み直しの連続。レフリー、両チームいろいろ言い分はあろうが、なんとかならないものだろうか、ともかく時間だけは空費されていった。
 
令和4122
 

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