2021年7月3日土曜日

岡島レポート・2019W杯・備忘録 84

2019W杯・備忘録 84
 ライオンズ(3) 

 先日のJPN戦でアラン=ウィン・ジョーンズが負傷し、遠征から離脱した。歴戦の勇士、ウェールズ代表キャップ148、過去3回のライオンズ遠征(以下、「LT」)に参加しキャップ9の不死身に思えたプレーヤーでも、一瞬のコンタクトでケガをする。あらためて、ラグビーの本質を見た気がした。あの試合では、ティプリック(WAL)も負傷・離脱した。
 今回のLTでもHCを務めるガットランド(NZ)は、自伝(以下、「GT本」)の中で、12年前のライオンズ・RSA遠征の前の3人の負傷・離脱=追加召集に触れ、「こうした混乱は、トップレベル・スポーツに付き物だ(such disruption is part and parcel of top-level sport.)」(p179)と書いている。今回、どんな感慨を持ったのやら
 GT本では、2013LTの第3テストマッチを前にして、キャプテン・ウォーバートンをケガで欠き、誰をゲームキャプテンにするかコーチ陣で議論した際、二人のコーチがそれぞれ別の選手を推し、ガットランドと他の二人のコーチがジョーンズを推し、ジョーンズ・キャプテンの下で勝利した逸話が載っている。

 キャプテン・ジョーンズの離脱で、後任のキャプテンは、ENGキャプテンのファレルか、SCOキャプテンのホッジのどちらかなのだろうなと思っていたら、IREのマレーに。マレーはIREのみならず自チームでもキャプテンを務めていない。そのことを聞かれたガットランドは「過去3回遠征に参加して、ライオンズのことをよく理解しているし、リーダーシップも備えている」(Midol)と解説している。
 GT本では、2013LTの中で「キャプテンは、テストマッチ・チームのメンバーでなければならない(the captain should be able to justify his place in the Test team.)」(p244)と書いている。これから類推すると、ファレルとホッジは、今回の遠征・テストマッチの先発メンバーには入っていない、ということなのだろうか?今回のコーチ陣には、現SCOHCのタウンゼントが入っている。彼は、どう意見したのだろうか?また、今回はコーチ陣にENGからは誰も入っていない。これが影響したのだろうか?これはこれで興味深くて、一月後のテストマッチ3試合が楽しみである。

 GT本、ライオンズの項だけではなく、ウェールズの項でも、とにかくウォーバートンのキャプテンシーを激賞している。ガットランドがHCを務めた過去2回のLTでは、何の迷いもなくウォーバートンをキャプテンに指名している。

 そのウォーバートンの自伝『OPEN SIDE』・プロローグは次のように始まる。
『 午前2時。眠れない(Can’t sleep.)。  すべて傷ついている。体が、気持ちが、心が(My body, my mind, my heart.)。ボロボロだ(I’m a wreck.)。 
 サム・ウォーバートンはキャプテンになるべきではない。
 サム・ウォーバートンはプレーすべきじゃない。
 サム・ウォーバートンは過去の人だ。
こうした言葉が繰り返し繰り返し浮かんでくる。いますぐ、飛行機に乗って本国に帰りたい。 
 明日の夕刻、オールブラックスとのテストシリーズ第2戦、ライオンズを率いなければならない。先週のオークランドでの第1戦、我々は負けた。その意味するところは、3戦で争われるテストシリーズに残る(stay in the series)ためには、勝たねばならない。これまでの人生で、いくつかのビッグゲームでプレーした ―W杯の準決勝、6か国対抗のグランドスラムのかかった試合、ライオンズでの2013・オーストラリア・テストシリーズー でも、比較にならない(nothing that comes close to this)。
 まったく比較にならない(Nothing that comes remotely close)。
 4年に一度のホームネーション4協会のベストプレーヤーがW杯・2大会連続チャンピオンと戦うのだ。オークランドでの第1テストはベンチスタートだった。しかし、明日はスターターで義務を果たさねばならない。
 キャリア最高の瞬間なのだろう。でも気分は真逆だ。(It should be the highlight of my career. It feels like anything but.
 この20年間の人生で最大の試合だ。自分の価値を決めるだろう。ゲームを愛してきた。いやゲームを愛していると思ってきた。でも今は、ゲームを嫌っている(Right now, I hate it.)。
 サポーターになって、飲んだくれて声援を送る、勝とうが負けようが次の試合で声援を送っていられれば。でも、ここにいる。答えを持ち合わせていない問いに苦しめられる。「なぜ? なぜこんなことをしてきたんだ? なぜ、苦痛やプレッシャーに苛まれたのだから、ほかの何かやることができなかったのだろうか? なぜ、今や嫌っている役割(job)を引き受けたのだろう?」
 順繰りに。体、気持ち、心。フィジカル・ストレス、メンタル・ストレス、そしてエモーショナル・ストレス。まるで潜水艦に乗り込んで、船底に穴が開き、徐々に沈んでいく、そして戻れない、ブリキ缶のように潰される(soon I’ll come to the point of no return, the moment when the pressure gets too much and crushes me like a tin can.)。』

 エヴァのシンジのようだ

 2017LTのキャプテン・ウォーバートンは、遠征中にケガをし、第1テストはベンチスタート(敗北。キャプテンはオマーニー(IRE))。第2テストはフル出場し、勝利。第3テストもフル出場し、引き分け。
 20歳で代表デビュー。22歳でガットランドHCに指名されてWALのキャプテン(ガレス・エドワーズに次いで2番目の若さ)、24歳で2013LTのキャプテン(史上最年少)。WAL74キャップ。ライオンズ:5キャップ。29歳で現役引退。WAL・キャプテンは、ウォーバートン引退後、3歳年上のアラン=ウィン・ジョーンズに引き継がれた。

 自伝を読んでいると、ゲームとケガの繰り返し。手術を伴ったものも多く、23回のケガが詳細に書かれ、最後のケガで引退を決意する。

 ケガもラグビーのうち
                   令和373 

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