2019 W杯・備忘録 43
~ 負けない… ~
WALは、派手なチームではないけれど、とにかく「負けない」。なぜ、負けないのか?そんな疑問を持って、W17 WAL/AUS戦を見返してみた。
AUSサイドから見れば、負けた気がしない試合だった(と思われる)。J-スポーツのデイリーハイライトでは、野澤が「AUSのアタックの質の高さ」を称賛し、ランメーター(AUS:550m、WAL:324m)、ラック獲得数(AUS:122回、WAL:64回)などを例示として挙げていた。このほかのスタッツを見ても、AUSが勝っておかしくない数値が並んでいる。
試合の得点経過は、次の通り。WALの得点は「〇」、失点は「●」で表示する。
| 分 | 得点 | 種類 | 起点となった(リ)スタート |
〇 〇 ● ● 〇 〇 〇 | 0 13 21 29 33 37 38 | 3- 0 10- 0 10- 5 10- 8 13- 8 16- 8 23- 8 | DG T+G T PG PG PG T+G | W・KO→カウンターラック→ラック2回 A・SでのP→W・PK・LO→W攻撃中ADあり W・ラックでのP→A・PK・LO→A攻撃中ADあり W・ラックでのP A・ラックでのP TMOでAのFoul Play A・KO→A・9番からのパスをW・9番インターセプト |
〇● ●
● 〇 | 44 46 62
68 72 | 26- 8 26-15 26-22
26-25 29-25 | DG T+G T+G
PG PG | W・Sから展開、AUSゴール前に迫る A・LOから展開 W・P→A・PK・LO→W・P→A・PK・LO→W・P→A・PK・LO→A攻撃中にADあり A・SでのWのP W・LOでのAのP |
まず驚くのは、前後半の開始のキックオフからすぐのDG。これで6点。特に前半は、36秒での得点。(おそらく)今大会最速得点。これがなければ負けている。逆に、AUSから見れば、防げたのではないか。要するに、AUSは「仕様もない・つまらない失点」が見受けられる。逆に、WALには、そういう失点がない。
強いチームは、得点(=「〇」)を重ねていく。
負けないチームは、失点(=「●」)を重ねない。
というのが通説であるが、この試合のWALは、意外と●が続いている。悪い時間帯を切り返すだけの力があるのか、ないのか。反対から見れば、AUSが逆転しそうで出来なかった試合。現に、前半29分には2点差に、後半68分には1点差に迫っている。であるのに、逆転できなかったのは、AUSの力不足なのか、WALのディフェンスの卓越性なのか。
たしかに、「取りきらなければいけない場面」で必ず取りきったWALと必ずしも取りきれなかったAUS。裏返していえば、鉄壁のディフェンスのWALと脆いディフェンスのAUSとも言い得るのだが。何を主語に置くかで、試合の見え方は変わってくる。
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今大会の3強は、大方の予想で、NZ、RSA、ENGだった。そこに、WRランキング1位経験したWAL,IRE、あるいは南半球のARG、AUSがどう絡んでくるのか、そう予想されていた。
レフリーも同じように、オーウェンス(WAL)、バーンズ(ENG)、ガルセス(FRA)の3人の安定感は抜けていて、決勝ラウンドのレフリーを務める4人目は誰か、というのも注目されていた。その有力候補者が、ガードナー(AUS)とポワト(FRA)。
この試合、WALにとっては初戦GEO戦に続く第2戦、AUSにとっては初戦FIJ戦に続く第2戦。レフリー・ポワトにとっても初戦M9 SAM/RUS戦に続く第2戦。レフリーにとっても、決勝ラウンドに進めるかどうかの正念場。ポワトの第1戦は、試合後、DCでイエローカードがレッドカードに差し替えられる屈辱的(?)な結果。そのせいか、この試合、ハイタックル関係には、異常に神経質になっていた気がする。3回のTMOで異様なぐらい細部を見つめていた。
最初のTMOは、16分、WAL・10番に対するAUS・7番のレイトタックル。これは「?」。
次のTMOは、35分、ボールを持って突進したAUS・12番の肘がWAL・22番の首に入ったシーン。レフリーが説明している時、AUS主将は「WAL・22番のタックルが高いからだ」と主張し、Midolの記事では試合後AUS・チェイカHC、AUS・12番がそれぞれ思い切り不満をぶちまけていた。AUSの主張の方が理があるように思える。このPで、WALは3点を追加している。
3度目のTMOは、50分、WAL・11番のWAL・8番へのハイタックル。これはカードが出てもおかしくない。
この観点で思いかえすと、M14 JPN/IRE戦のレフリー、ガードナーが初戦 M3 FRA/ARG戦で明白なオフサイドを見逃し(大きく試合結果に影響を与えた)ことから、オフサイドに神経質になっていたように思われる。
そして、この二人に共通するのがスクラム・マネジメントの稚拙さ。この試合の象徴的なシーンが残り5分・WAL4点差のリード、WALボール・スクラムで起きる。二度組み直して、3度目にAUSのアーリープッシュを取って、WALにFK。WALは、スクラムを選択して組んだところ、今度はWALのStanding up in the scrumでWALのP。
試合後のインタビューでチェイカHCが「一体スクラム、どうしろと言うんだ」と激していたのが判る気がする。
こういう観点から見てみると、「レフリーとの相性」が勝敗を分けたような気がする。
とにもかくにも、「負けない」WAL神話が補強され世界中に発信された試合となった。
( 参考 )
WALボール
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
KO | 1 | 2 | 1 | 2 | 6 |
S | 1/1 | - | 2/2 | 2/3 | 5/6 |
LO | 3/4 | 1/2 | 1/1 | 2/2 | 7/9 |
PK | 3 | 2 | - | 2 | 7 |
FK | - | 1 | - | 1 | 2 |
DO | - | - | - | - | - |
計 | 9 | 7 | 4 | 10 | 30 |
(注) KOのうち1回は、前半開始時のもの。
S、LOの分母は、マイボールでの投入回数。分子は、そのうちのボール獲得回数。
PKの回数は、相手チームのペナルティ(反則)によって獲得したPKの回数。
WALの得点
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
トライ(T) | 1 | 1 | - | - | 2 |
T後のG | 1 | 1 | - | - | 2 |
PG | 1(DG) | 2 | 1(DG) | 1 | 5 |
AUSボール
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
KO | 2 | 3 | 2 | 1 | 8 |
S | 1/2 | 1/1 | - | 1/1 | 3/4 |
LO | 1/1 | 3/3 | 6/6 | 2/2 | 12/12 |
PK | 1 | 1 | 4 | 2 | 8 |
FK | - | - | - | - | - |
DO | 1 | - | - | - | 1 |
計 | 7 | 8 | 12 | 6 | 33 |
AUSの得点
| 0-20min. | 20-40min. | 40-60min. | 60-80min. | 計 |
T | - | 1 | 1 | 1 | 3 |
T後のG | - | - | 1 | 1 | 2 |
PG | - | 1 | - | 1 | 2 |
スクラムは、この試合、10回。
(前半)
7分 Aボール : A・1番ヒザをついている。お咎めなし
9分 Aボール : Aが押してA・1番が落ちてPを取られる(WALは、このPKをタッチに蹴り出し、直後のLOから得点)
18分 Wボール : W押されて回されてボールを出して、この部分ではお咎めなし。直後のラックでのノットリリースのPを取られる(AUSは、このPKをタッチに蹴り出して、直後のLOから得点)
24分 Aボール : ほぼ動かないスクラム。両チーム一列目がヒザをついている。お咎めなし。
(後半)
41分 Wボール : クイックで出す
53分 Wボール : 回って崩れてやっと出す。お咎めなし。
63分 Wボール : 押されながら出す。
65分 Aボール : スクラムが回って WのWheeling the scrumのP(AUS、PGを決め25-26の1点差に詰め寄る)
73分 Wボール : 2度崩れて組み直し。3度目のスクラムでAのアーリープッシュ。
76分 Wボール : WのStanding up in the scrumのP
AUSは、失点につながりそうな重要な相手ボールLOで、2度「スチール」に成功し、未然に失点を防いでいる。AUS、バックスのランニングスキルが注目されることが多いが、FWのセットピースは、ある意味、WALを上回り、実に安定していた。
令和2年9月12日
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