2020年7月26日日曜日

岡島レポート・2019W杯・備忘録 35

2019W杯・備忘録 35
~  ラグビーの理想・意味ある試合 ~

 何度か引用したエレロ『ラグビー愛好辞典』は、AからZまで、230項目から構成されている。辞典の最初の項目は、Adversaire(対戦相手)。
 「ラグビーの理想は、「他者と戦うこと」で成長することであると断言できる。「他者」、すなわち我々・ラグビーの場合、15人の対戦相手は、競技を構成する《パートナー》である。」と始まる。そして、同等の力量の対戦相手と試合を行うことに意味がある、と続き
「しかしながら、W杯の予選リーグでは、強力チームが弱小チームと対戦することが起きる。そこにはなんの「サスペンス」もなく、これらの試合はまったく意味がない。オールブラックスが11419でジャパンを破ったとき、一体こんな試合に何の意味があるのか、と自問自答せざるをえなかった。多分、ジャパンがオールブラックスから19点取ったことに意味があるのだろう!」そして「ラグビーの美しさは対等性に宿り、対等の対戦相手を倒した勝利だけが称賛に値する。高貴な騎士道精神を血肉化したクーベルタンは言っている「誰と戦っているか言ってみろ、それを聞けばお前が何者か言ってやる」これがラグビーの理想である。」

 早明戦を思い浮かべる。あるいは、神戸製鋼/サントリー戦や東芝/パナソニック戦、時に大差の試合になることはあっても、好敵手との毎年度の戦いはラグビーの理想を具現化したものだ。

 これを読んで以来、ずっと気になってきたことがある。歴然とした「力の差」があるチームが戦う意味は何なのだろう、と。もちろん、弱小チームにとっては、意味がある。一方で、強力チームにとって、意味があるのだろうか?
 「力の差」も程度問題である。アップセットが絶無というわけではない。しかし、W杯では、毎大会、弱小チームは想定通り大敗して去っていく。こういう観点から、今大会を振り返ってみる。

 まず、得点差に着目すると、最大得点差は、M20 NZ/CAN63点差、次がM27 NZ/NAM62点差、そして M31 SCO/RUS61点差。
7点差以内の試合が 予選リーグ37試合中6試合。 以下、同様に
814点差  : 3試合
1521点差 : 5試合
2228点差 : 6試合
2935点差 : 8試合
3642点差 : 3試合
4349点差 : 1試合
50点差以上 : 5試合

 「消化試合」が集客できたのは、「4年に一度じゃない、一生に一度」だったからなのか。見る側からすれば、楽しめたと思う。でも、勝ったチームにとって、本当に意味があったのだろうか?もちろん、試合に出る機会の少ない選手を試せた、という「後付け」的な意味はあるのだが…

 次に、4トライでボーナス・ポイントということから、「4トライ以上」という観点で見てみる。
(1) 両チームとも4トライ未満の試合が、予選リーグ37試合中5試合。
M3FRA/ARGM4NZ/RSAM14JPN/IREM17WAL/AUSM28FRA/TON

(2) 負けたチームが4トライ以上取ったのは、M10FIJ/URG。この試合、得点は27-30だが、トライ数は5-3

(3) 残りの31試合は、勝ったチームが4トライ以上あげて、ボーナス・ポイントを獲得している。このうち、前半で4トライ以上取った試合は、6試合。
M8WAL/GEOM13:ARG/TONM15RSA/NAMM27NZ/NAMM29RSA/CAN
M36IRE/SAM

M13ARGが前半4トライ・4ゴールをあげ、後半は「お休み」して、最終スコアは28-12。こういうチームがあるかと思うと、NZRSAはノー天気にというか、情け容赦なく攻め続けて、大差の試合になっている。

(4) さすがに(?)、両チームとも4トライ以上、という試合はなかった。フランス・リーグを見ていると、シーズン終盤に必ず両チーム4トライ以上の「壮絶な」点を取り合う面白い試合が出現する。降格争いをしているチームにとって、勝点1の重みがのしかかることから、試合はディフェンスなしの「打ち合い」になる。
 今大会、台風で中止になったM37 CAN/NAMが両チーム4トライ以上の試合になるのでは、と密かに期待していたのだが…


エレロ的視点で言うと、ワンサイドゲームはラグビー的に意味がない。たとえば、RUS4試合で得トライ・1、失トライ・24である。NAM3試合で得トライ・3、失トライ・27CAN3試合で得トライ・2、失トライ・26
 NAMCANは、グループBで無慈悲なNZRSAと戦い、かつ、両国間の試合が台風で中止になったことも影響している。

 W杯は、誰のため、何のために開催されるのか?
 仮に、世界最強チーム決定戦であれば、参加チーム数を減らすべきだと思う。20チームを16ないしは12にすべきだ。こうすれば、例の「中三日」問題も生ぜず、各チームが同じ間隔で公平に試合に臨める。

 一方で、参加チーム20であれば、試合数が増え、多くの地域で試合が行われ、興奮を味わえる人々が増える。また、ほぼ毎日開催になって、予選リーグ期間中の盛り上がりを演出できる。

 Covid-19で、いまWRで今後の日程が協議されている。その議論を見ていると、選手の試合機会=現金化の機会を、誰が享受するか、という点が露わになった気がしてならない。  
すなわち、
① 所属クラブ・所属リーグに帰属する試合 
② 各国協会に帰属する試合 (いわゆる、テストマッチ)
③ WRに帰属する試合 (W杯。WRは、ネーションズリーグやクラブW杯を提案している)
を 
㋑ それぞれ何試合行えるようにするのか 
㋺ どの季節・時期に実施するのか
ということで 綱引きが行われている。

 プレーヤーズ・ファーストを単なる美辞麗句とせず、実のあるものにするためには、まず、各選手の最大出場試合数を年間30試合程度にすべきであろう。これは、一定のコンセンサスができている。イングランド・プレミアリーグは12チームで・フランス・トップ1414チームで構成され、ホーム・アンド・アウェイで戦われるので、これだけで22試合、26試合が行われる。これに、クラブ・ヨーロッパ選手権の試合が加わるので、これだけで、年間30試合を超えている現状にある。

 プロ化した現代、まず、踏まえておくべきなのは、選手をどの機関が育成し・プロとしての給料を誰が出しているかではないだろうか。ENGFRAでは、①所属チームである。
各国協会、WRは、「いいとこ取り」して「上前」をはねている、と思う。
誰に発言権があるかと言えば、まず、これらリーグ関係者であるべきだ、と感ずる。
そして、収益獲得機会も、①→②→③の順であっていいのではないか、と思う。

 一番いい季節・時期に、どのカテゴリーの試合を行うのか、それも問われている。
 観客目線で見ても、日ごろからラグビーを支えている人々が最適な環境で応援できるように、クラブチームの試合に、最良期間を明け渡すべきではないだろうか。
 もちろん、ラグビーの普及・拡大を目指すために、「にわか」の人々の関心をひくことが重要なこともわかる。しかし、ラグビーが文化として根付くためには、「ハレの日」の機会は少なくして、「ケの日」の充実から始めるべきだ。

 ラグビーに限らず、スポーツの国際統括機関が収益獲得策として、いろいろな大義名分を楯にさまざまな大会を創設・充実化しているのは、どこかで歯止めをかけるべきだと思う。

 こういう観点も含めて、ラグビー界としては、W杯参加チームを、16ないしは12に減らし、大会規模を縮小するとともに内容を充実させることを考えるべきではないか、とあらためて思う。

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