2021年6月19日土曜日

岡島レポート・2019W杯・備忘録 82

            2019W杯・備忘録 82

   ~ ライオンズ


 今夏、12年ぶりにライオンズがRSAに遠征する。4年に一度、W杯の中間年に結成されるライオンズ、不思議なチームである。

 ラグビーの自伝で、アングロサクソン系のそれには必ず出てきて、フランス人のそれには絶対に出てこないのが、「クリケット」に「ライオンズ」。


 ライオンズと無縁のフランス人・エレロは、『ラグビー愛好辞典』「ライオンズ」の項でこう書いている。


『 4年に一度、イングランド・スコットランド・アイルランド・ウェールズに平和が訪れる。父祖伝来の敵愾心に蓋をし、常に付き纏う遺恨を忘れる夏のひと時。英国の最優秀選手で構成されるチーム。休戦中の聖なる団結、その名は「ライオンズ」! 栄光に包まれた「十字軍」は、大英帝国下の僻遠の地、RSAAUSNZに順繰りに派遣される。この遠征は数か月にもおよび、アングロサクソン・ラグビー界のオリンピックであった。

 この伝統は、ラグビーの歴史と同じぐらい昔からあった。英国チームの初めての遠征は1888年。イングランドとスコットランドの選手がAUSNZにラグビーの普及状況の調査を目的に遠征した。この遠征は、6か月続いた。

 AUSNZRSAのラグビー協会は母国の協会と緊密な関係を築いた。各地の協会が創設されるやラグビーの普及のため、国際試合が企画された。

 この時代、英国本国ラグビーは主として大学でプレーされていた。したがって、僻遠の地への遠征は大学生主体であった。どの協会に属しているかに関わらず、遠征に参加できる選手でチームが構成されていた。しかし、ラグビーが急速に普及すると、この遠征は制度化され、定期化されるようになる。そうなると、選手選考は厳しくなり、選ばれた選手は新たなステータスを得ることとなった:英国本国の公式代表、選手の中の選手!

 1910RSA遠征で、初めて英国本国4協会の選手が集結した。この遠征では、RSA21敗とし、以後、テストマッチ・シリーズと呼ばれるようになる。

 1914-18の第一次世界大戦中は遠征が中断されたが、1924RSA遠征で初めて「ライオンズ」と呼ばれるようになる。名前の由来は定かでないが、おそらく遠征公式ネクタイの図柄に由来すると思われる。この遠征では、RSA3連勝した。

 それ以降、ライオンズの伝説は次々に書き加えられていく。英国本国の名選手たちにとっては、一度でもライオンズでプレーすることが夢となった。「ライオンズの一員」ということは、消せない栄光であり、歴史に名を遺す足掛かりとなっている。現役時代、そのチャンスは一度か二度しか訪れない。だから、選ばれることの価値がより高くなる。

 プロ化の中で、ライオンズの長期遠征という慣習は、プレー面からも財政的な面からも課題を投げかけている。

 イングランド・アイルランド・ウェールズ・スコットランドの選手たちが、長期遠征で不協和音が出ないはずがない 彼らは、6か国対抗戦では激しく戦い、数か月後には同じチームメートになる。打ち解けるためにはかなりの日数がかかる。

 その時点で強いチームから多くの選手が選出される。一方で、バランスが求められる。ライオンズの遠征では、毎回、内輪での殴り合い・陰湿な陰謀・小細工が噂され、公式には否定されてきた。ライオンズの伝説は団結の神話で成り立っている。』


 12年前のRSA遠征も、今回と同様、2年前のW杯でRSAが優勝している。W杯チャンピオンvs英国ドリームチームの戦い、となる。12年前のテストシリーズは、RSA2連勝(第1戦(620日):26-21、第2戦:28-25)の後に1敗(第3戦:9-28)している。今回は、どうなるのか、楽しみである。


 ちなみに、ライオンズは、RSAには通算481引き分け、NZには1勝10敗1引き分け、AUSには7勝2敗である。


 20132017ライオンズ遠征で2度ともキャプテンを務めたウォーバートン(ウェールズ代表74キャップ、ライオンズ5キャップ。20112015W杯のウェールズ・キャプテン。)の自伝に次の逸話が載っている。

『 ある時、ローレンス・ダラーリオ(イングランド代表85キャップ、ライオンズ3キャップ。2003W杯優勝メンバー)たちとのトークショーに出ていた。Q&Aタイムに会場から「ローレンス、貴方はW杯で優勝し、ライオンズでもテストシリーズで勝利しました。どちらが、より大切ですか?」という質問が出た。ローレンスは即答した。「ライオンズだ。考えるまでもなく(Hands down)ライオンズだ。」

 (ウォーバートンは次のように締めくくっている。)

 ライオンズ(遠征)は継続されなければならない、ワールドラグビーがどの方向に進んでいくにしても。ライオンズは、すべてのとまでは言えないかもしれないが、ラグビーの大切な価値を体現している。消え去ってはいけない貴重なものだ。』



 JPNとして、史上初めてライオンズとエディンバラで戦う626日。後々まで語り継がれる試合をしてほしいものだ。


令和3619

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