2021年5月8日土曜日

岡島レポート・ 2019 W杯・備忘録 76

                                       2019 W杯・備忘録 76

 Eligibility 

   Eligibility、手元にある電子辞書(ジーニアス英和辞典)では「名詞:(…に対する)適任(性)、適格(性);被選挙資格」となっている。

 ラグビーを含むスポーツの世界では、「代表選手資格」という意味で使われている。

ウィキペディア「ナショナルチーム」の項では、オリンピック、各種スポーツの代表チームの選手になる資格(要件)が解説されている。ラグビーは、独特の資格要件を設けている。

 ラグビー界で、この資格要件に反対している人々がいる。

  ご覧になられた方もいるだろうが、Jスポーツで「パシフィックラグビー 光と影(原題:OCEANS APART : Greed, Betrayal and Pacific Rugby)」というドキュメンタリーが放送された。太平洋諸島選手会(Pacific Rugby Player Welfare)を立ち上げた元サモア代表のダニエル・レオが2年余をかけて関係者を取材し、パシフィックラグビー(具体的には、サモア・トンガ・フィジー)の現状を分析し、世界のラグビー界のGreed(貪欲さ=ワールドラグビーとティア1協会が利益を独占している)、Betrayal(背信)を告発する内容となっている。

 そして、Betrayalの象徴としてeligibilityを取り上げている。

  15人制ラグビーの世界でも、2001年以前は、一度ある協会の代表選手になったとしても後に他の協会の代表選手になることができた。オールブラックの選手が母国パシフィックラグビーの選手となることでパシフィックの強さを支えていた。

 ところが、2001年以降、一度ある協会の代表選手になったら他の協会の代表選手になれない規定となった。(13人制ラグビーでは、最近、この規定が改正され、複数協会の代表選手になることが可能になり、トンガがワールドカップで躍進した。)

  この状況について、オールブラック・55キャップ:サモア代表・4キャップのFrank BUNCEは次のように解説している。

「“強豪国”と呼ばれるチームは、資金も人材も豊富で常に成功し続けトップを守ろうと必死だ。でも、世界的にラグビーを発展させるなら、目を開けて他の選択肢も見つめるべきだ。」

  トンガのキャプテン・チームマネージャーだったInoke AFEAKIはこう語っている。

「かつてトンガは大差で日本に勝っていた。でも今は逆だ。トンガの選手が日本にいる。彼らは海外で経験を積んでいる。例えばある国で学校に行ったからといって他の国で働くなとは言えない。学んだ国でしか働けないのはおかしい。その考えは奴隷制と同じだよ。人間は所有物じゃない。」

  The TimesのジャーナリストStephen JONESはこう語っている。

「他国の選手を引き抜いてきて価値があると言えるのか? どのチームにも平等にチャンスが与えられるべきだ。価値を満たさなければ、ラグビーはただの恥さらしだよ。」

  このドキュメンタリーの終盤に、ワールドラグビーのGOSPERCEOとの対談が撮影されている。

レオ:パシフィックでよく聞いたのは、Eligibilityをもう少し好意的にしてほしいという点です。

GOSPER:これはWRの評議会で何度も話し合っている。賛成する協会もあるし、そうでない協会もあるんだ。だが、選手たちにはよく思われていないようだ。一国しか選べないというのは整然としていて、協会全体が賛成しているわけではない。もっと広い目で見てほしいんだ。視野を狭めず他の協会も考慮してほしい。

レオ:その価値観で救われている国もあると? それとも単なる保護政策ですか?

GOSPER:判断が難しいところだと思う。協会が守ろうとするのは当然でそれが彼らの使命だ。ラグビーの一般的な価値観は、ピッチの中でも外でも保証されるべきだ。皆のための議論が通らず残念に思っている。

  その後、レオは独白で次のように語っている。

CEOと話して、私も失望した。WRは現状には責任を負わないが、ティア1協会にはお金を払う。 … 表面的には高貴な価値観を示すラグビー。平等、公平、スポーツマンシップ。しかし、その実態は植民地時代と何も変わらない。太平洋諸島の選手を商品として扱い、利益を出すために利用している。」

  あらためて、国籍のあり方と比較してみると、①二重・多重を認めるか否か ②血統か属地か ③変更(「帰化」など)を認めるか否か が論点となる。

 まず、①に関しては、競技スポーツで「二重・多重」を認めることはない(だろう)。②に関しては、血統を認めるとともに、「3年居住」(まもなく、「5年」に変更される)という要件で認めている。問題なのは、1度ある国の代表になったら、他の国の代表になれないことにある。

 いずれの「ルール」にも、利益を受ける者と不利益を受ける者が生ずる。これ自体は避けがたい。問題にすべきなのは、それが「ラグビー的価値」に適合しているか否かであろう。

  思い返してみると、2001年の規定改定の「引き金」になったのは、JPNである。1999年・W杯第4回大会に、元オールブラックのジェイミー・ジョセフとグレアム・バショップがJPNの一員として戦った(この大会は、予選プール3試合。両人は、ほぼフルタイム出場している)。世界中の多くの人が「おかしい」と感じた(と思う)。そこで導入されたのが、現在の要件である。これによって、少なくとも、サモア・フィジー・トンガは大きな不利益を被っている。ちなみに、1999年大会でもJPN/SAM戦があり、439SAMが大勝していた。

  トニー・コリンズ 北代美和子訳『ラグビーの世界史』(白水社 2019年)に次の一節がある。

『ヨーロッパのサッカークラブがアフリカ人選手を集める場合と同様に、トンガその他の島国に共感する多くの解説者は、ニュージーランドのラグビーユニオンが、とくに最高の才能を入念に選んで、祖国ではなくニュージーランドに縛りつける点を非難する。一部は、スカウトの戦術を、太平洋諸島の島民をだまして年季契約労働者とし、フィジーのサトウキビ畑やオーストラリアのクイーンズランドでむりやり働かせた19世紀の慣行、「奴隷貿易」とくらべる。』(p316

  ラグビーの価値とは何なのだろうか? それを誰が考え、誰が議論し、誰がルール化するべきなのだろうか?

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  先日(412日)日本代表候補52名が発表された。初めて候補に入ったのは、21名。そのうち、カタカナ表記の選手が11名。漢字表記の選手10名のうち、2名がフッカー・3名がスクラムハーフ。日本代表チーム、これからどういう構成になっていくのだろうか。

                                                                             令和358

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