2020年6月11日木曜日

岡島レポート・2019W杯・備忘録 29

2019W杯・備忘録29
~  クリスチャン・ロアマヌ ~
                                   久しぶりに懐かしい名前に出会った。

 ラグビーマガジン20203月号「解体心書」でサンウルブズ/パナソニック ワイルドナイツの森谷圭介は、ラグビーを始めた頃の憧れの選手として、ロアマヌ・クリスチャンを挙げていた。
 覚えている人は、どれぐらいいるだろうか?
   M40 JPN/SCO戦、ノーサイドを告げる「銅鑼の音」の後、JPN・勝利のボールを23番・山中がスタンドに蹴り出す。大歓声・最高視聴率の瞬間。山中でよかったな!心底そう思えた。ドーピング検査での陽性・WRからの2年間の出場停止処分を経て、不屈の精神で代表に復帰した早熟天才ラガー。神様は見ていてくれたな、そう痛感したラグビーファンも多かったのではないだろうか。

    今大会、AUSの“バッド・ボーイ”オコナーの代表復帰は、好意的に紹介されていた。
1990年生まれの彼は、2008年・18126日で代表デビュー(AUSラグビー史上、二番目の若さだそうだ)、2011W杯に出場するも、2013年・グランド外の不行跡でAUS協会の契約を破棄されFRA・トゥーロンへ。2015年・スーパーラグビー・レッズで活躍するもAUSチェイカHCの構想外でW杯出場ならず。2017年・パリにおいてコカイン所持で逮捕・尿検査陽性。所属チーム・トゥーロンを首に。フランス・プロリーグから罰金と15日の社会奉仕活動を課せられる。翌シーズンからイングランド・プレミアリーグでプレー。そして、今大会、チェイカHCの下、ワラビーズに復帰し、4試合に出場した。

     クリスチャン・ロアマヌ、1986年トンガ生まれ。
2005416日・対ウルグアイ戦、18113日で初キャップ。73年ぶりに日本代表最年少出場記録を更新。日本協会の日本代表キャップ保持者一覧ではNo.465(代表キャップ数・16)。ちなみに、No.445に大野均(同・98)が、No.466・後藤翔太(同・8)、No.467・五郎丸歩(同・57)と続く。なお、最年少出場記録は、201255日・対UAE戦、18727日で初キャップの藤田慶和に破られる。
20055月、路上の喧嘩(?)で一時謹慎処分。
2007年・W杯日本代表。3試合(FIJ戦、WAL戦、CAN戦)にフルタイム出場。
2009年・ドーピング検査で陽性。日本協会から無期限の出場停止処分が下される。
その後、FRA・トゥーロンで3シーズン、ベネトンで2シーズンなどプレーする。
201410月 日本協会、無期限出場停止処分を解除。
    似て非なる経歴。
 過ちに対して、適正・適切な罰則を課して、再起の機会も与えるのが「世界の常識」
 過ちに対して、「世間をお騒がせして申し訳ありません」と謝罪し、「厄介払い」して「水に流して」なかったことにするのが「日本の常識」
 体面・世間体を気にした薄情な日本協会が、クリスチャン・ロアマヌのW杯で躍動する機会を奪った気がして仕方がない。2011年・W杯時は、ロアマヌ25歳、旬の時だった。
 どうなのだろうか?
     海外出身選手の代表資格条件について、日本国内でもたまに報道される。どのような変更が加えられるか、というような観測記事を目にすることもある。でも、残念ながら、終ぞ「代表資格条件は、かくあるべきだ」という類の主張を見たことがない。
 「ルールを守ること」に長けているが、「ルールを創造する」経験がないニッポン。
     素朴に、トンガ・フィジー・サモアの南太平洋3カ国が「強くあり続ける」「独特の輝きを放ち続ける」ことは、ワールド・ラグビー・シーンに不可欠だ、と思う。過去、第1回大会はフィジーが、第2回大会・第3回大会は西サモアが、第6回大会はフィジーがベスト8に進出した。残念なことに、W杯での三カ国のパフォーマンスは落ちてきている。もちろん、今大会のジャパンのように新たにベスト8に割って入る国が次々に出てくるのも待ち望まれる。一方で、南太平洋・三カ国が再びベスト8に登場することも見てみたい。問題は、南太平洋・三カ国の人材の海外流失をいかに止めるか、にある。それは、ジャパンの強化に直結するセンシティブな問題でもある。でも、あえて、ワールド・ラグビーの理想像を追い求めてみたい、と書生っぽく思う。
     近年、サッカーの世界では、アフリカ諸国などからの18歳未満の「青田買い」を禁止するため、全世界で高校年代以下の「留学」が認められなくなった。バルサに所属した久保建英も日本に帰国せざるを得なかった。いずれ、ラグビー界でも同様の措置が採られる日が来るかもしれない。
     企業が国を選ぶ時代、個人が国を選ぶ自由は尊重されるべきだ。それは、立派な建て前であり、理想でもある。
    では、どうすべきか?少なくとも上位ランキング国が下位ランキング国出身の選手を代表にするのは禁止すべきではないだろうか。最低限、「縁もゆかりもない」選手の代表入りは、その選手の母国協会の了解を得ることを条件にすべきではないだろうか。
    今や、ベスト8になったジャパン。もちろん、高校・大学・トップリーグと日本でプレーしてもらうのは歓迎すべきだ。しかし、日本代表ではなく、最大限、母国代表になるように尽力すべきではないだろうか。そんなジャパン・スタンダードを創り・守り、世界に発信して世界標準にすべきではないだろうか。
 より豊饒なワールド・ラグビーのために。

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