2019 W杯・備忘録 192
~ 欧州各協会 ~
ラグビーの古豪と聞かれて、ルーマニアを連想する人はどれぐらいいるだろうか?
前回紹介したダニエル・エレロ『プレー精神・人びとの魂(L’esprit du jeu l’ame des peoples)』は、2000年に出版された。「私の楕円球紀行」の章で紹介されているラグビー主要各国は、順に、FRA・ENG・SCO・WAL・IRE・ルーマニア・RSA・AUS・南太平洋三か国・NZである。
1980年8月、ボルドーに住みつき、10月の日本代表フランス遠征:14日のバイヨンヌでの「地区選抜(57-3)日本代表」、19日トゥールーズでの「FRA(23-3)JPN」を観戦した。その後、テレビでフランスの南アフリカ遠征:11月9日「RSA(37-15)FRA」(於・プレトリア)を見、ほぼ同じメンバーで戦った11月23日「ルーマニア(15-0)FRA」(於・ブカレスト)の敗戦も見る。驚きだった、ルーマニアラグビーの強さに。
ちなみに、FRA:9番・エリサルド、15番・ブランコはRSA戦が初キャップ、二人ともルーマニア戦も先発出場。後年、エリサルドと親しく話すようになるとは想像もしていなかった。人生、楕円球が転がるが如し…
エレロによれば、ルーマニアは①東(オリエント)と西 ②北と南 ③ラテン(民族)とスラブ(民族)の境に位置し、ラテン・イタリア・フランス贔屓で、冷戦下、他の東側諸国がサッカーに傾注したのに対してラグビーを嗜好したと解説している。
小(國)が、その承認欲求を満たすものとして、①個人競技でなくチーム・団体競技であること ②格闘技的要素があること ③ボールゲーム的要素のあること(=得失点で勝敗が決まる) という条件を想定してみると、ラグビーは適している。
先日、フランスラグビー協会長が、W杯開幕を前にして、「ラグビーには、「Pays(=Country、地域)」を「Nation」に団結させる力がある」と発言していた。
2023大会には、欧州の小国も参加する。その指標は次の通り。
(表-1)欧州五か国対抗以外の各国の各種指標
イタリア | ジョージア | ルーマニア | ポルトガル | |
面積(km²) | 302,068 | 69,700 | 238,397 | 92,230 |
人口(人) | 59,109,670 | 3,708,610 | 19,038,098 | 10,325,150 |
一人当たりGDP(€) | 32,390 | 4,221 | 14,825 | 20,772 |
登録数(人) | 47,982 | 8,018 | 8,788 | 7,071 |
人口比(%) | 0.08 | 0.22 | 0.05 | 0.07 |
宗教 | カトリック(85%) | 正教(84%) | 正教(85%) | カトリック(85%) |
(注)「登録数」は当該国ラグビー協会に登録している人数。「人口比」は、登録数/人口。
冷戦下のルーマニア、「壁」崩壊後のジョージア、承認欲求が満たされる至福の時も経験している。さて、今大会では?
(表-2)欧州五か国の各種指標
FRA | ENG | SCO | WAL | IRE | |
面積 | 549,087 | 130,279 | 77,910 | 20,779 | 70,280 |
人口 | 67,749,630 | 56,550,138 | 5,463,300 | 3,063,456 | 5,033,160 |
一人当たりGDP | 38,550 | 39,326 | 38,360 | 27,903 | 10,301 |
登録数 | 281,554 | ? | 42,474 | 46,879 | 44,257 |
人口比 | 0.42 | 0.78 | 1.53 | 0.88 | |
宗教 | カトリック(66%) イスラム教(7%) | 太宗は国教会 | キリスト教(54%) | カトリック(60%)無宗教(32%) | アイルランドはカトリック、北はプロテスタント |
(注)ENGの登録者数は、Midolムックで「1,925,000」と記されており、信憑性に欠けるので記載せず。
憎っくきENGを倒す快感を求めて、SCO・WALは燃える。支配者・イギリスへの抵抗の証をファイティングスピリットに籠めるIRE。偽善者アングロサクソンをぶちのめしたいFRA…
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8月12日のENG/WAL戦で、ENG・10番ファレルは ①イエローカードで退出 ②直後のバンカーで「レッド」に ③(前例から見て4~5試合の出場停止が見込まれていたが)15日のサマー・ネーションズ・シリーズ2023を主催する6か国対抗団体下のアドホックの独立規律委員会(オーストラリア人3人で構成)でファレル側の主張が認められてレッドは取り消される、という展開があった。この件に関しては、国内のメディアでも取り上げられている(リーチ、ラブスカフニのケースとの比較を含めて)が、Midol上での論調は次のようなものである。
1. 「ファレルが白って、なぜ」というタイトルで、Top14・トゥールーズ所属のアキ(現トンガ代表、元NZ)が、トンガ/カナダ戦でのスピアータックルでトンガ代表のモアラ(クレルモン所属、元NZ)が10試合出場停止になったことの不当性をSNS上で発信(ファレルは前科があり、モアラは前科なし)。これにクレルモン所属・トンガ代表のリーも同調。ファレルとモアラの扱われ方の違いを嘆いた。フランス内では、これが拡散している。これが効いたのか(?)、WRはモアラの出場停止を10試合を5試合に軽減した(しかし、W杯プール戦には出場できないことに変わりはない。)
→ これらに対しての人々の投稿を見ていると、①モアラのタックルを受けたカナダの選手は肩から落ちており(スピアータックルによって、頭又は背中から落ちることが危険だと認定されている)、そもそもレッド相当が不当という意見や ②ファレル然り、セクストン然り(投稿者からすれば、審判団への暴言への懲罰の相場は、10試合なのに、なぜか、3試合に軽減された)という意見が見られ、アングロサクソン(IREは必ずしもそうではないのだが…)に牛耳られているワールドラグビーの偽善を非難するものが多い。(こういう時は、FRAでは、非アングロサクソン=「除け者」にされているという被害者意識が前面に出た「自虐的」な論調が目立つ。)
2. 現FRA代表ディフェンスコーチ:ショーン・エドワーズがロンドンの新聞紙上でファレルを擁護する論調を発表した。エドワーズ、前WALディフェンスコーチであり、元々ENGのリーグ出身、ファレルの父(現IRE・HC)と同根ということも影響しているような…
3. 17日、騒ぎが大きくなったこともあり、ワールドラグビーはファレルの無罪に関する再審理を行うというプレスリリースを出した。(近日中に実施される見込み)
4. 19日のIRE/ENG戦の前の記者会見で、IRE・HCファレル父は「(もちろん、息子を擁護し)こんなバカ騒ぎにはうんざりだ。」と。ENG・HCもファレルを擁護したようだ。
これだけ「騒ぎ」が大きくなってしまうと(Midolでは、途中から「ファレル事件」と記載されるようになっている)、いろいろな意味でW杯本番にも影響してくるのは間違いなく、どんな面での影響になるのか気になるところである。
現在の状況では、親ファレルとアンチ・ファレルで二分されている感じがする。こんなことで騒ぎになるのは、残念なことではある。しかし、ある意味、これまでも公然と行われてきた偽善を白日の下に晒した、という点ではよかったのかもしれない。特に、W杯開幕前のこの時期に「膿」が摘出できればさいわいである。
残念なのは、ファレルの件は「事件」になっているが、モアラの件は「騒ぎ」にならない。2019大会でサモアの2選手が、試合後、「イエロー」が「レッド」に変わり、出場停止処分を受けたことが思い出される。偽善は、いたるところに蔓延っている…
ラグビーが始まったころ、レフリーは存在せず、疑わしきは両チームキャプテンの話し合いで解決した。それが、審判団を置くようになり、アシスタントレフリーの役割も増してきた。それでも事態に対応できなくなって、レフリーのアシスタントとしてTMOを置くようになった。それでも事態に対応できなくなって、「バンカー」を置くようになった。こう書いてみると、「いやはや」「やれやれ」としか言いようがない。
それでも、レフリーが得失点・勝敗の最終決定者であることに変わりはない。そう考えると、本質は守られている、のかもしれない。
しかし、レッドには「おまけ」の事後の試合の出場停止がついてくる。これを誰が決めるのか、今回の場合、新たに設置された「バンカー」の結論を独立規律委員会が覆した(=「バンカー」の権威を損ねた)ことが、今回の事案を「事件」にしている。
ファレル事件がどう決着するのか、その余波がW杯にどう影響するか、興味深い。
令和5年8月19日
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