2023年8月19日土曜日

   岡島レポート・2019 W杯・備忘録 192

             2019 W杯・備忘録 192

~ 欧州各協会 ~
 
ラグビーの古豪と聞かれて、ルーマニアを連想する人はどれぐらいいるだろうか?
 
前回紹介したダニエル・エレロ『プレー精神・人びとの魂(Lesprit du jeu lame des peoples)』は、2000年に出版された。「私の楕円球紀行」の章で紹介されているラグビー主要各国は、順に、FRAENGSCOWALIRE・ルーマニア・RSAAUS・南太平洋三か国・NZである。
 
19808月、ボルドーに住みつき、10月の日本代表フランス遠征:14日のバイヨンヌでの「地区選抜(57-3)日本代表」、19日トゥールーズでの「FRA23-3JPN」を観戦した。その後、テレビでフランスの南アフリカ遠征:119日「RSA37-15FRA」(於・プレトリア)を見、ほぼ同じメンバーで戦った1123日「ルーマニア(15-0FRA」(於・ブカレスト)の敗戦も見る。驚きだった、ルーマニアラグビーの強さに。
ちなみに、FRA9番・エリサルド、15番・ブランコはRSA戦が初キャップ、二人ともルーマニア戦も先発出場。後年、エリサルドと親しく話すようになるとは想像もしていなかった。人生、楕円球が転がるが如し…
 
エレロによれば、ルーマニアは①東(オリエント)と西 ②北と南 ③ラテン(民族)とスラブ(民族)の境に位置し、ラテン・イタリア・フランス贔屓で、冷戦下、他の東側諸国がサッカーに傾注したのに対してラグビーを嗜好したと解説している。
 
小(國)が、その承認欲求を満たすものとして、①個人競技でなくチーム・団体競技であること ②格闘技的要素があること ③ボールゲーム的要素のあること(=得失点で勝敗が決まる) という条件を想定してみると、ラグビーは適している。
先日、フランスラグビー協会長が、W杯開幕を前にして、「ラグビーには、「Pays(=Country、地域)」を「Nation」に団結させる力がある」と発言していた。
 
2023大会には、欧州の小国も参加する。その指標は次の通り。
 
(表-1)欧州五か国対抗以外の各国の各種指標
 
イタリア
ジョージア
ルーマニア
ポルトガル
面積(km²)
    302,068
     69,700
    238,397
     92,230
人口(人)
  59,109,670
   3,708,610
  19,038,098
  10,325,150
一人当たりGDP(€)
      32,390
       4,221
      14,825
20,772
登録数(人)
47,982
8,018
   8,788
7,071
人口比(%
0.08
0.22
0.05
0.07
宗教
カトリック(85%
正教(84%
正教(85%
カトリック(85%
(注)「登録数」は当該国ラグビー協会に登録している人数。「人口比」は、登録数/人口。
 
冷戦下のルーマニア、「壁」崩壊後のジョージア、承認欲求が満たされる至福の時も経験している。さて、今大会では?
 
(表-2)欧州五か国の各種指標
 
FRA
ENG
SCO
WAL
IRE
面積
   549,087
   130,279
    77,910
    20,779
   70,280
人口
67,749,630
56,550,138
  5,463,300
  3,063,456
5,033,160
一人当たりGDP
     38,550
     39,326
     38,360
     27,903
    10,301
登録数
   281,554
        ?
     42,474
     46,879
    44,257
人口比
       0.42
        
       0.78
       1.53
       0.88
宗教
カトリック(66%
イスラム教(7%
太宗は国教会
キリスト教(54%
カトリック(60%)無宗教(32%
アイルランドはカトリック、北はプロテスタント
(注)ENGの登録者数は、Midolムックで「1,925,000」と記されており、信憑性に欠けるので記載せず。
 
憎っくきENGを倒す快感を求めて、SCOWALは燃える。支配者・イギリスへの抵抗の証をファイティングスピリットに籠めるIRE。偽善者アングロサクソンをぶちのめしたいFRA
 
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812日のENG/WAL戦で、ENG10番ファレルは ①イエローカードで退出 ②直後のバンカーで「レッド」に ③(前例から見て45試合の出場停止が見込まれていたが)15日のサマー・ネーションズ・シリーズ2023を主催する6か国対抗団体下のアドホックの独立規律委員会(オーストラリア人3人で構成)でファレル側の主張が認められてレッドは取り消される、という展開があった。この件に関しては、国内のメディアでも取り上げられている(リーチ、ラブスカフニのケースとの比較を含めて)が、Midol上での論調は次のようなものである。
 
1. 「ファレルが白って、なぜ」というタイトルで、Top14・トゥールーズ所属のアキ(現トンガ代表、元NZ)が、トンガ/カナダ戦でのスピアータックルでトンガ代表のモアラ(クレルモン所属、元NZ)が10試合出場停止になったことの不当性をSNS上で発信(ファレルは前科があり、モアラは前科なし)。これにクレルモン所属・トンガ代表のリーも同調。ファレルとモアラの扱われ方の違いを嘆いた。フランス内では、これが拡散している。これが効いたのか(?)WRはモアラの出場停止を10試合を5試合に軽減した(しかし、W杯プール戦には出場できないことに変わりはない。)
→ これらに対しての人々の投稿を見ていると、①モアラのタックルを受けたカナダの選手は肩から落ちており(スピアータックルによって、頭又は背中から落ちることが危険だと認定されている)、そもそもレッド相当が不当という意見や ②ファレル然り、セクストン然り(投稿者からすれば、審判団への暴言への懲罰の相場は、10試合なのに、なぜか、3試合に軽減された)という意見が見られ、アングロサクソン(IREは必ずしもそうではないのだが…)に牛耳られているワールドラグビーの偽善を非難するものが多い。(こういう時は、FRAでは、非アングロサクソン=「除け者」にされているという被害者意識が前面に出た「自虐的」な論調が目立つ。)
 
2. 現FRA代表ディフェンスコーチ:ショーン・エドワーズがロンドンの新聞紙上でファレルを擁護する論調を発表した。エドワーズ、前WALディフェンスコーチであり、元々ENGのリーグ出身、ファレルの父(現IREHC)と同根ということも影響しているような…
 
3. 17日、騒ぎが大きくなったこともあり、ワールドラグビーはファレルの無罪に関する再審理を行うというプレスリリースを出した。(近日中に実施される見込み)
 
4. 19日のIRE/ENG戦の前の記者会見で、IREHCファレル父は「(もちろん、息子を擁護し)こんなバカ騒ぎにはうんざりだ。」と。ENGHCもファレルを擁護したようだ。
 
これだけ「騒ぎ」が大きくなってしまうと(Midolでは、途中から「ファレル事件」と記載されるようになっている)、いろいろな意味でW杯本番にも影響してくるのは間違いなく、どんな面での影響になるのか気になるところである。
現在の状況では、親ファレルとアンチ・ファレルで二分されている感じがする。こんなことで騒ぎになるのは、残念なことではある。しかし、ある意味、これまでも公然と行われてきた偽善を白日の下に晒した、という点ではよかったのかもしれない。特に、W杯開幕前のこの時期に「膿」が摘出できればさいわいである。
残念なのは、ファレルの件は「事件」になっているが、モアラの件は「騒ぎ」にならない。2019大会でサモアの2選手が、試合後、「イエロー」が「レッド」に変わり、出場停止処分を受けたことが思い出される。偽善は、いたるところに蔓延っている…
 
ラグビーが始まったころ、レフリーは存在せず、疑わしきは両チームキャプテンの話し合いで解決した。それが、審判団を置くようになり、アシスタントレフリーの役割も増してきた。それでも事態に対応できなくなって、レフリーのアシスタントとしてTMOを置くようになった。それでも事態に対応できなくなって、「バンカー」を置くようになった。こう書いてみると、「いやはや」「やれやれ」としか言いようがない。
それでも、レフリーが得失点・勝敗の最終決定者であることに変わりはない。そう考えると、本質は守られている、のかもしれない。
しかし、レッドには「おまけ」の事後の試合の出場停止がついてくる。これを誰が決めるのか、今回の場合、新たに設置された「バンカー」の結論を独立規律委員会が覆した(=「バンカー」の権威を損ねた)ことが、今回の事案を「事件」にしている。
ファレル事件がどう決着するのか、その余波がW杯にどう影響するか、興味深い。
 
令和5819
 

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