2022年12月16日金曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 159

2019 W杯・備忘録 159
〜  規律 〜
 
世間一般で、いつの頃からか、ガバナンス・コンプライアンスという聞き慣れなかった英単語(『試験に出る英単語』に収録されていたのだろうか…)が語られるようになってきた。
ラグビー界においては、軌を一にするかのように「規律」が声高に叫ばれるようになってきた。
およそボールゲーム・チームスポーツにおける必勝法は、攻め方・守り方に宿っている。であるにも拘わらず、ラグビー(解説)においては、近年、洋の東西を問わず、熱い時間帯に語られるのは、いかに攻めるかでも、いかに守るかでもなく、陳腐な「反則を犯すのを避けましょう!」が連呼される。実に奇妙なスポーツになったものである。
 
ANS202221試合について、「P」の数と勝敗を表にしてみた。
-1 勝者・敗者の「P」の数の差と得点差の関係
Pの差
   7点差未満
 714点差未満
  14点差以上
-8
ITA 28-27 AUS
 
 
-7
 
 
SCO 28-12 FIJ
-4
 
 
IRE 35-17 FIJ
ENG 52-13 JPN
-2
IRE 19-16 RSA
 
 
-1
FRA 30-29 AUS
 
FRA 35-17 JPN
SCO 52-29 ARG
RSA 27-13 ENG
±0
IRE 13-10 AUS
ARG 30-29 ENG
GEO 13-12 WAL
NZ  31-28 SCO
 
NZ  55-23 WAL
+1
AUS 16-15 SCO
 
ITA 49-17 SAM
RSA 63-21 ITA
+2
FRA 30-26 RSA
AUS 39-34 WAL
 
 
+7
WAL 20-13 ARG
 
 
(注) ENG/NZ25-25の引き分け。両チームの「P」は、ENG15NZ14
 
表を作ってみようと思って、得点差を3分類してみた。作成して驚いたのは、僅差(7点差未満)と大差(14点差以上)の試合はあったのだが、その中間の競り合った試合(714点差未満)が1試合もなかったこと。「負ければ終わり」でない試合は、どちらかのチームが「負けが決まった」と観念した瞬間から試合が「だれる」のかもしれない。
 
ともかく、「P」の多寡と勝敗は、あまり関係ないように思われるがどうだろうか。
 
重要なのは「P」の質なのかもしれない。次に、カードとの関係を見てみる。
対戦者の前者が勝者、後者が敗者。()内は、P、イエロー、レッドの数。
21試合中、カードが出なかった試合は、5試合:FRA10,0,0/AUS11,0,0)、
FRA7,0,0/JPN8,0,0)、ARG10,0,0/ENG10,0,0)、NZ10,0,0/WAL10,0,0)、RSA11,0,0/ITA10,0,0)。
 
レッドカードが出された試合が4試合:IRE10,0,0/FIJ14,2,1)、
FRA12,0,1/RSA10,1,1)、RSA12,0,1/ENG13,1,0)、SCO11,2,0/ARG12,3,1)。
 
レッドなし・イエローありの試合が12試合。
このうち、両者イエロー同数が3試合。
ENG6,1,0/JPN10,1,0)、NZ13,1,0/SCO13,1,0)、AUS13,2,0/WAL11,2,0)。
勝者にイエロー1の試合:1試合。WAL14,1,0/ARG7,0,0)。
敗者にイエロー1の試合:6試合。IRE10,0,0/RSA12,1,0)、IRE12,0,0/AUS12,0,1)、
AUS15,0,0/SCO14,1,0)、GEO10,0,0/WAL10,1,0)、ITA9,0,0/SAM8,1,0)、
ITA9,0,0/AUS10,1,0)。
引き分け:1試合。ENG15,0,0/NZ14,1,0)。
複数のイエローが出た試合:1試合。SCO11,2,0/FIJ18,3,0)。
 
少なくとも言えることは、レッドなりイエローなりが決定的・致命的ではないことが大多数だということではないだろうか。もちろん、勝敗を分ける重要な要因の一つになることが多いことも事実であろうが。
 
-2 各チーム、1試合平均のP、イエロー、レッドの数
 
IRE
FRA
ENG
SCO
WAL
ITA
NZ
RSA
AUS
ARG
JPN
FIJ
P
10.7
9.7
11
12.3
11.3
9.3
13
11.3
13.4
9.7
9
16
Y
0
0
0.5
1.3
1
0
0.7
0.5
0.8
1
0.5
2.5
R
0
0.3
0
0
0
0
0
0.5
0
0.3
0
0.5
 
予想通り、「P」の数はJPNが一番少ない(≒アグレッシブさに欠けている!?)。規律合戦であれば、優勝できそうだ。
興味深いのは、㈰どちらかというとこれまで「荒い試合」を行うイメージが定着していたFRAARGが少ない「P」であること。㈪この2か国に比べて、これまでも少ないと思われていたIRERSAが意外と多いこと(レフリーの笛の傾向・レフリーとの相性などが影響している気がする)。㈫WALが多くなって負けが込んでいること。㈬NZだけが昔ながらの攻撃中心のプレースタイルで「P」が多いこと。などである。
 
ガバナンスにしろ、コンプライアンスにしろ、ラグビー界の「規律」にしろ、言わずもがなのことではないだろうか。そんな当たり前のことを、さも大切そうに語る、現代社会の病理を象徴している気がしている。ラグビーは社会の写し絵でもありそうだ。
 
***********************************
 
1213日(火)フランスの裁判所は、ラポルト仏ラグビー協会会長・ワールドラグビー(以下「WR」)副会長及びALTRAD氏(仏ラグビー&NZラグビースポンサー)らに対して、5年前の案件(仏国内ラグビー関連の便宜供与を巡るもの)での不法行為を認定し・執行猶予付き禁固刑・今後2年間ラグビー関係職務に就くことを禁止するなどの有罪判決を下した。その後、ラポルトらは、控訴している。
 
同日夜には、WRのホームページに以下のリリースがなされている。
WR notes the decision by WR Vice-Chairman Bernard Laporte to self-suspend from all positions held within its governance structures with immediate effect following his conviction by French court in relation to domestic matters, and pending his appeal.
 
15日付けMidolでは、WRボーモン会長ら執行部がラポルトに「詰め腹」を切らせたとしている。フランスでは、上級審での最終判断が下されるまでは「疑わしきは罰せず」で現職に「居座る」ことも多々あり、現時点までは、ラポルトが仏ラグビー協会の会長職を辞任するとは報じられていない。ただし、2020年に行われた会長選挙では、対抗馬と僅差で勝利したことから今後の展開は予断を許さないようだ。そして、ラポルトの全面的なサポートを得てきたガルティエHC2020会長選ではラポルト支持の発言をしている)の立場にも影が差してくる可能性もありそうだ。思わぬところで「ガバナンス」という妖刀が切れ味を出した気がする。
 

令和41217 

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