2022年2月5日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 114

                                               2019 W杯・備忘録 114

  ラインアウト、なぜか熱く語られない。いや、語れないのか。ただ単に「背の高い」者勝ちだから!?
スクラムとラインアウト、ラグビーがラグビーたる由縁の二つのリスタート、どちらもラグビー固有の他に類例のない不可思議な再開儀式であるにもかかわらずスクラムほど語られてこない。ほとんどの試合でスクラムよりもラインアウトの機会の方が多いのにもかかわらず…
 
たとえば、2019W杯:JPN/IRE戦、9-12とリードされていた後半10分、IREボールラインアウトをトンプソンがスチールした! 当に「値千金」!! でも、当時もあまり語られていなかった。記憶に焼き付いている人は多くないだろう。ラインアウトは「絵にならない」、だからダイジェスト版のニュースではカットされる、だからか記憶に残らない…
 
 ラインアウトとは何なのだろうか?
現行競技規則の「定義」では、
「ラインアウト:ラインアウトとは、各チームから最少2名ずつのプレーヤーがラインを形成し、タッチから投入されるボールをキャッチしようと構えるセットピースのこと。」
「スクラム:通常、各チーム8名のプレーヤーがフォーメーションを組んで互いにバインドして形成するセットピース。」となっている。
 
かつての競技規則(20032004)では、各条の冒頭に定義が四角囲いで記されていた。
ラインアウトは「第19条タッチおよびラインアウト:定義:ラインアウトの目的は、ボールがタッチになった後、2列に並んだプレーヤーの間にボールを投入することによって、早く、安全に、公平に試合を再開することである。」
スクラムは「第20条スクラム:定義:スクラムの目的は、軽度の反則あるいは競技の停止があった後、早く、安全に、公平に試合を再開することである。」
 ラインアウトもスクラムも「早く」「安全に」「公平に」試合を再開する「セットピース」と規定されていた。
 
 このところ取り上げている7試合で見てみるとラインアウトの勝者・敗者別の回数は次のようになる。
-1 勝者と敗者のラインアウト数
ゲーム
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
  15
  25
   8
  17
  11
  12
  10
敗者
  29
  22
   6
  15
  12
  20
  10
 
 自陣22m内からタッチに蹴り出すのか、それともロングキックを相手陣に蹴って地域を獲得する代わりに相手にボール支配権を渡すのか、チーム戦術の分かれ目である。近年、キック距離・精度が向上するとともに、安直にタッチに蹴り出すことが忌避されるようになってきた感じがする。
 
7試合において、ペナルティキックを蹴り出してラインアウトになった回数は次のとおり。
-2 PK由来のラインアウト数
ゲーム
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
   5
   3
   1
   6
   7
   9
   5
敗者
   3
   3
   2
   9
  10
  10
   0
 
 ラインアウトのうちPK由来の割合は次のようになる。
-3 ラインアウトのうちPK由来の割合            (単位:%)
ゲーム
 Ⅰ
 Ⅱ
 Ⅲ
 Ⅳ
 Ⅴ
 Ⅵ
 Ⅶ
勝者
  33
  12
  13
  35
  64
  75
  50
敗者
  10
  14
  33
  60
  83
  50
   -
 
 ゲームⅠ・Ⅱは1987年の試合であり、当時はPKを蹴り出すと相手ボールのラインアウトで再開されていた。それが現在のようにPKを蹴り出したチームのラインアウトで再開されるようになると、PKをタッチに蹴り出す傾向が強まる。また、得点状況にも左右されるが、PGを狙える位置でも蹴り出してラインアウトで再開し・トライを狙うケースが増えてくる。そして、安易にタッチに蹴り出さなくなったこともあり、PK由来のラインアウトの比率が高まっている。
 
 ところで、JPN/IRE戦、トンプソンのビッグプレーの前を少し遡ると、
・ IRE陣内でJPNがフェーズを重ねて・JPN13・ノックオン ⇒ IRE・スクラム
・ スクラムから出たボールをIRE9・ボックスキック→JPE15・ノックオン ⇒IRE・スクラム
・ IRE・スクラム、落ちて組み直し後JPNStanding up in the scrumP ⇒IREPKを蹴り出し・JPNゴール前15mのラインアウト
と JPNのミスの連鎖で、IRE必殺のラインアウト・モールかと絶望感に襲われたリスタートでの起死回生の「スチール」。試合が大きく動くワンプレーだった。
 
 ラインアウト、スクラムに比べて ①バックスのオフサイドラインが遠い(ラインアウト・10m、スクラム・5m) ②並ぶ人数の自由度が高い など攻撃の起点として実に興味深い。近年、次々と新しい試みがなされるリスタートとなってきている。
 2019W杯、RSAのセットプレーの安定度は群を抜いていた。ラグビーの原点であるスクラムとラインアウトで優位に立てれば勝利に近づく。
 今後、50:22の試験的ルールが正式に採用されると、さらにラインアウトの重みが増す気がしている。2023W杯、どんなラインアウトシーンが見られるのだろうか。優勝チームのラインアウトはどのようなものなのだろうか?
 
 スクラムのPは、なぜ取られたのか、不可解なシーンがしばしばある。それに比べると、ラインアウトは白日の下のプレーで可視化されている。ある意味、わかりやすい。
近年、多くのラインアウト機会で攻撃側がハドルを組んでサインを確認している。そこで「間」が生まれる。観客目線では、攻撃側の①何人で並び ②どこに投げ入れ ③モールを組むのか否か ④展開して誰が縦をつくのか、などの意図を、防御側がそれをどう読んで・どう対処するか、予想する「間」にもなる。
 
 ラインアウトについて、スクラムのように熱く語られる日がいつか来るのだろうか。
 
令和425

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