2019 W杯・備忘録 62
~ TMO ~
極上の小説は、結末はわかっていても読むたびに新たな発見がある。いい試合も同様である。
「作品鑑賞」があるように「試合鑑賞」もあるのだろう。
小説は、作者の脳内・体内で創られ文字化され、一つの「作品」として独立し、作者の意図とは異なったいくつかの解釈が生まれる。
ラグビーの試合という「作品」は、両チームの意志のぶつかり合いで創られるが、そこにいくつかの予測不可能な要素が潜んでいる。
筋書きのないドラマの「流れ」が変わるきっかけの一つにTMOがある。目視とは違い、スローで見返すとまったく違って見えてくることがある。
TMOは、①トライ ②不正なプレーを確認するために(だけ)使われる。
TMOによる見直しは、多くの場合、①トライの場合は、グランド上の主審からの提案によって、②ファールプレーの場合は、第4審判のテレビジョンマッチオフィシャルからの提案によってはじまる。
今大会、決勝ラウンドでのTMOは以下の通り。
| QF1 | QF2 | QF3 | QF4 | SF1 | SF2 | F |
回数 | 2 | 3 | 3 | - | 4 | - | 1 |
分:内容 | 62:T× 77:T× | 30:T○ 40:F 76:F | 28:F 48:F 73:T○ |
| 24:T× 44:T× 55:F 66:F |
| 65:T○ |
(注)T○は、トライが認められたケース
T×は、トライが認められなかったケース
Fは、不正なプレー
試合内容に大きく影響した例としては、QF3:WAL/FRAの48分:TMOで確認された肘打ちでのレッドカードが思い出される。
試合の「流れ」との関係で興味深いのが、SF1:ENG/NZの4回のTMO。試合内容自体を一言で言えば、「ENGがMomentumを80分間保ち続け完勝した」である。が、What ifsの中で、この4回のTMOを考えたくもなる。
TMO1は、7-0とENGリードの24分、ENGのトライの笛。テレビジョンマッチオフィシャルからの提案でTMOの結果、トライの前にENGのオブストラクションがあり、トライが取り消され、NZのPKで再開。
TMO2は、10-0とENGリードの44分、ENGのトライの笛。テレビジョンマッチオフィシャルからの提案でTMOの結果、トライの前のモールでのノックオンが確認され、トライが取り消され、NZボールスクラムで再開。
TMO3は、13-0とENGリードの55分、テレビジョンマッチオフィシャルからENGのファールプレー(ショルダーチャージ)のアピール。TMOの結果、レフリーは、ENGのファールプレーを認めず、ENGボールのラインアウトで再開。
TMO4は、16-7とENGリードの66分、ENGのラックでのOff FeetでENGのPの笛。テレビジョンマッチオフィシャルからのアピールでTMOの結果、ENGのPの後にNZのファールプレーがあり、Pの差し替え:ENGのPKで再開。
何度も見返していて、まず、TMO1は不可解である。というのは、なぜ、レフリーが目の前で起こったオブストラクションを即座に取らなかったのか。これは謎である。当たり前にそのPを取っていれば、TMOで見直す必要はなかった。
次のTMO2は、TMOでしか見つけられないミスだと思われる。
そして、TOM3は、あの映像自体だけであれば、過半数の人が「ショルダーチャージ」=ファールプレーだと認めると思われる。チャージに入った選手の左肩は全然パックしようとしてない。典型的な「ショルダーチャージ」に映る。しかし、この前2回のTMOでいずれもENGに不利な判断が下されたことが影響して、これは「お咎めなし」となった気がしてならない。今大会で、TMOからのアピールでスタジアム内に映像が流されたファールプレーで「お咎めなし」になったケースは思い浮かばない。決勝ラウンドの他の5回のケースは、いずれもテレビジョンマッチオフィシャルのアピール通りとなっている。
最後のTMO4は、いろいろな意味で考えさせられる。ENGのラックでの反則に対して笛が吹かれた後に、ENGのファレルが現場に近寄って、NZ選手に顔を払いのけられてピッチ上に大げさに倒れ、それがTMOで確認されて、Pの差し替えが起こった。そもそも、ファレルが、なぜ、笛が吹かれたあとにラックに近寄ったのか?Pが吹かれたならば、即座に10m退いてディフェンスの位置につかなければならないのに…。そして、グランドに横たわっているENGの選手は笛が吹かれた後もボールを抱えて離していない。あれこれ考えたが、ファレルは相手選手を挑発してPを取りに行ったとしか思いつかない。すごいことだ! 後半の後半、ただでさえ、心身ともに疲労の限界であり、ましてこの試合の前半で足を痛めていて十分に走れていないファレルのラグビー脳が全開して近寄ったとしか思いつかない。 TMO時代の申し子、やはり、ファレルは「天才」だ。
TMOひとつひとつを見ていても、いろいろな思いが浮かんでくる。
もちろん、TMOがない方がいい気もする。
今大会終了後に出版されたアイルランドHC・シュミットの自伝は、ラグビー教則本としても優れている。学究肌のシュミットの一面が窺える。実に「フェア」な視点で書かれているのが印象的である。
この本の中で、M17:WAL/AUS戦でのTMOによるAUSのファールプレーに関して、こう書いている。
There is a danger that this sort of TMO intervention – calling the referee’s attention to an infringement that is marginal or non-existent – causes the game to become disjointed.
これは多くの人が同じように感じていたと思う。
そして、IRE/JPN戦についての回想では、JPNの優れていた点をきちんと評価した上で、
In our game, by contrast, all four officials missed Jack Carty being taken out in the air and Rob Kearney getting hit in the face by swinging arm that forced him from the field. (p308)
と書かれている。
今大会、JPNに忖度した笛が目に余った。QF4:RSA/JPN戦でも、41分、45分、63分のJPNのプレーは、通常であればファールプレーを取られるべきプレーだと思う。そういう大会でもあったということを記憶の片隅に留めておきたい。
令和3年1月30日
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