2021年1月24日日曜日

岡島 レポート・2019 W杯・備忘録 61

               2019 W杯・備忘録 61

               ~  Momentum 

  前回取り上げたエディー・ジョーンズの自伝(以下、「EJ本」)や、これまた今大会後に出版されたウォーレン・ガットランドWALHCの自伝「PRIDE AND PASSION」(以下「WG本」)を読んでいると、しばしばMomentumという単語が目に入ってくる。
 
 今大会、Jスポーツの解説の沢木からは、「モーメンタム」という言葉が耳に入ってきた。
  そもそも、Momentumとは、何を意味しているのだろうか?
 

 たとえば、EJ本では、準々決勝M41ENG/AUS戦について書かれた中で、

 Our finishers are on and the momentum keeps building. (p397)と解説されている。

 

 WG本では、準々決勝M43WAL/FRA戦について書かれた中で、前半のWAL6番・Aaron Wainwrightのトライの後の感想を

 With Aaron at the forefront of things, I felt we were generating momentum in the second quarter. (p373)と記している。

  EJ本では、前回大会(2015年)JPNHCの時の中に次のような文が出てくる。あの歓喜のJPN/RSA戦の前半30分過ぎの文では、

 Eleven minutes later, Leitch transforms the game. It starts with a rolling ten-man Japanese maul that oozes resolve and menace. The South Africans are driven back and we keep going. The ball is somewhere deep inside my red-and-white mauling machine and the Springboks are trying grimly to stop our momentum. (p259)

 そして、RSA戦勝利の後、次戦:SCO戦の前には、

 If we could sustain our momentum, and defeat another tier-one nation, our quarter-final place would have been virtually assured as group winners. (p267)と書いている。

 

 チームにとって、Momentumが重要である。そして、多くの場合、Momentumは「勢い」という日本語と等価であるのだろう。

  一方で、EJ本では、Momentumはこんな使われ方もしている。

 2007年大会の準々決勝:RSA/FIJ戦の後半の1シーン。この大会、EJは、RSAHC補佐としてRSAの二度目の優勝に貢献している。

 The momentum had swung horribly in just a few minutes. (p213)

 このMomentumは、日本語に置き換えると「勢い」よりは「流れ」の方がふさわしい気がする。

  「勢い」と「流れ」、似て非なるもののような気がしてならない。あえて言えば、主体的な「勢い」と鳥瞰的・第三者的な「流れ」。いずれもが、試合の勝敗の決定要因である。むしろ、勝敗の決定要因を表す言葉として、二つの言葉が日本語には存在し、英語では、いずれもがMomentumなのだろうか。

あるいは、「勢い」で解析することを優先するチームスタッフと「流れ」を読むことを優先する解説者・観客の目線の違いに由来するのだろうか。

  「孫子」第五 勢篇には「善く戦う者は、これを勢に求めて人に責(もと)めず」とある。
 
  EJは、こんなことも書いている。

 I have always believed that the only way a coach can change the momentum once a game has started is to switch personnel. (p306)

  勢いがあれば、優勢になり、勝利に近づく。また、流れを掴めば、勝利に近づく。

 Momentumは、含蓄のある言葉であるようだ。その真意を求めて、HCたちは格闘しているのだろう。

  「勢」というと、丸山眞男が『歴史意識の「古層」』で、「つぎつぎになりゆくいきほひ」を日本の歴史意識の思惟様式の三つの原基的な範疇として抽出したことを思い出す。ラグビーの試合も「勢」があるものが制するのだろうか。
                    令和3123

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