2019 W杯・備忘録 57
~ 失・T / PG比 ~
点を取られなければ負けない。点数を競うゲームの永遠の真理である。
野球では、しばしば完封試合を見かけるが、ラグビーではあまり見かけない。もちろん、実力差が大きいチーム間での試合ではたまにあるが、実力が拮抗している試合では稀である。
今大会、予選リーグでは、全37試合中4試合(SCO/SAM、NZ/CAN、IRE/RUS、SCO/RUS)で完封劇があったが、決勝ラウンド7試合ではなかった。
過去8回のW杯でも、決勝ラウンドでの完封劇はない。「点を取られない」ことを究極の目的にするものの、次善の策としての「点の取られ方」が問題となる。
野球では、打撃部門では打率・打点・ホームランを、投手部門では勝ち星・勝率・防御率を競い合う。よりチーム力が求められるラグビーでは、個人表彰は馴染まないと思えるが、チーム全体での攻撃力・防御力を数値で見ていくと興味深いものが浮かび上がる。
前回の備忘録では攻撃力の数値を見たが、防御力の数値はどうなっているのか?
失点のなかでのトライとPGの比率で見てみることにする。
2019W杯・決勝ラウンドでの各チームの失トライ・失PG数は、次の通りである。
| RSA | ENG | NZ | WAL | AUS | IRE | FRA | JPN |
試合数 | 3 | 3 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 |
T | 1 | 4 | 3 | 4 | 4 | 7 | 2 | 3 |
PG | 8 | 9 | 4 | 4 | 4 | 1 | 2 | 3 |
T/PG | 0.125 | 0.44 | 0.75 | 1 | 1 | 7 | 1 | 1 |
これだけを見ると、勝つためには、① トライを取られない方がいい ② 点を取られるにしても、トライではなくPGで取られた方がましだ、という常識的な原則めいたものが反映しているようだ。
RSAの強さは、さまざまに語られているが、やはりトライを取られないことなのだろう。それを常に続けていることで、Pを取られても、そのPKで相手チームはトライを取りに行くことを諦め、無難にPGを選択してしまうのかもしれない。
今大会、RSAは全7試合で失ったトライ数は4(予選ラウンドのNZ:2、CAN:1、準決勝のWAL:1)。CANは、66-7と大敗したが、1トライを奪っているのは凄いことなのかもしれない。
前回の備忘録(T/PG比)と併せて見ると、トライを取る横綱がNZなら、トライを取られない横綱がRSAということか。
北半球6か国対抗の今大会前の2019年と今大会後の2020年の数値を比較してみた。イタリアサポーターには申し訳ないが、イタリア戦を除外した全10試合での数値を 失トライ数の少ない方から順位付けすると、
順位 | 2019年(2月2日~3月16日) | 2020年(2月1日~11月1日) |
1 | WAL ( 5T : 2G : 7 PG) | SCO ( 5T : 5G : 8PG ) |
2 | IRE ( 8T : 7G : 9PG) | ENG ( 8T : 7G : 6PG) |
3 | ENG ( 11T : 7G : 6PG) | IRE ( 9T : 8G : 8PG) |
4 | FRA ( 14T: 11G : 4PG) | FRA ( 10T: 9G : 9PG) |
5 | SCO ( 14T: 10G : 5PG) | WAL ( 11T: 8G : 9PG) |
2019年は、WAL,IREが上位に位置し、この大会後も勝ち星を重ね、防御力の力で、ワールド・ランキング1位に到達している。しかし、W杯本番では、決勝戦に届かなかった。
W杯後、WAL、IREのヘッドコーチが代わって迎えた2020年、WALの「凋落」が目を引く。前体制のディフェンス・コーチがフランスに移籍し、大会中に新しいディフェンス・コーチが解任されるなど、混乱が続いている。そして、ワールド・ランキングは、W杯直後の4位(85.02ポイント)から現時点では9位(79.36ポイント)に急降下している。
一方、SCOの強化は順調に進んでいるように見える。失トライ数が急減したのは素晴らしい。ワールド・ランキングは9位(79.23ポイント)から7位(80.82ポイント)に上昇している。
次のW杯においても、おそらく、NZとRSAのプレースタイルに大きな変化は起こらない・起こりようがない気がする。その二カ国に対して、他の国々がどのようにチームを強化してゆくのか、4分の1の期間は過ぎて行った。
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先週の日曜日(12月13日)、大学選手権3回戦・3試合が行われた。3試合でPGによる得点はゼロ。1試合が完封試合。
流経大対筑波大は、19-19の同点で、抽選の結果、流経大が準々決勝へ。その流経大の監督が「抽選よりも延長戦を」と語っている。トーナメントの試合での同点の場合、どう優劣をつけるのか、悩ましい問題である。
この秋のオータム・ネーションズ・カップの1位決定戦、ENG/FRAも同点で延長戦に。こちらは、サドンデスの延長戦(先に点を取った方が、その時点で勝利をものにする)。どんな戦い方をするのか、見物だったが、なんのことはない・相手陣に入って・ペナルティを得ることに終始していた。これはこれで現代ラグビー・北半球ラグビーを如実に表している気がしたが、結果としてFRAが負けたこともあり、なんとなく「しっくり」こなかった。抽選も今一つだが、サドンデスの延長戦もいかがなものか。では、前後半の延長戦で決着をつける、というのが、ある意味、一番まっとうな気もするが、TV放映権料で成立している今日、TV側がそんな「呑気なこと」を許容してくれるのか。柔道五輪代表決定ワンマッチのTV中継途中終了の経緯を見ていると、それも難しいのかな、という気もした。
万人が納得する決め方はないのかもしれないが、そろそろ「抽選」以外の方法で決める時代なのかもしれない。
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2023W杯の組み合わせ抽選が12月14日(月)に行われた。
直前に発行されたミディオリンピックでは、FRAにとっての
① 死の組(最悪の組み分け):NZ+ARG+Oceania1+America2
② 理想的な組み合わせ :WAL+ITA+Europe1+最終予選勝者
と書かれていた。
そして、抽選の結果、FRAは、②の理想的な組み合わせに近く、バンド1のWALがNZに入れ替わっただけの結果となった。NZと同じ組ということは、予選プールを勝ち上がれば、決勝ラウンドではNZと決勝までは当たらない。FRAにとっては、ほぼ理想的な組み合わせになった。
一方、JPNの組み合わせは、①のNZがENGに入れ替わったもの。これから3年間、どんな強化をして大会を迎えるのか、楽しみである。
令和2年12月19日
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