後知恵・後付け・結果論…(決勝篇)
決勝ラウンドは「一発勝負」。強い弱いが決まるわけではない…
勝負は水物・時の運、次やればどうなるか、わからない。
負けるが勝ち、なのか… いくつかの気になった点
【 イングランドの入り 】
試合開始20分前、場内に「コイントスの結果、イングランドが勝ち、南アのキックオフ」との放送。なぜ?イングランドは、準決勝対NZ戦で①コイントスに勝ち②キックオフを取り③キックオフの笛の後、ボールを10番・フォードから12番・ファレルにパスして、蹴る方向を逆にする工夫を見せた。その結果、と短絡的にとらえることはできないかもしれないが、NZはラックから9番がタッチに蹴り出し、そのマイボール・ラインアウトを取り、展開して、トライを取っている。
推測であるが、NZに対しては練りに練った戦略を80分間張り巡らしていたのに対して、受けて立つ南アという思い込みから、この試合では、前半の入りよりも後半の入りの方が重要だと考えていたのではないか。
(エディーさんの南ア・ラグビー観は興味深い。(生島淳『エディー・ジョーンズとの対話』文藝春秋 2015年 p169~参照))
なお、この日、イングランドのバスが予定よりも遅くスタジアムに着いたとのこと。それも微妙に影響したのか?
スタンドで見ていると、キックオフ2時間前あたりから、南アの選手が三々五々グランドに出てきて、まるで少年が無心でボールと戯れているかのようにボール回しを愉しんでいた。いい光景だった…
【 南アの展開ラグビー 】
キックオフからこれだけアグレッシブな南アをはじめて見た気がした。そして、1991年第2回大会決勝でのイングランドを思い出してしまった。(イングランドは、決勝まで「つまらない内容」で勝ち上がってきたとメディアに叩かれ、その反動か、決勝では見事な展開ラグビーを見せるもオーストラリアに負けた。)
この試合、確かに、スクラム、ラインアウトをはじめとするフォワードのフィジカルが驚異的で、その印象が強いが、バックスのランも見ごたえがあった。
スタッツで見ると、南アの総ランメーター、QF(対JPN)295m、SF(対WAL)296m、F(対ENG)369m。
特に、決勝では、10番・67m、11番・45m、12番・56m、13番・56m、14番・50mとチーム全体の74%を走っている。まさに、古典的なバックスの展開を見るかのように…
決勝だけで、バックスのポジション別のランメーターを比較すると、
(単位:m)
9番
|
10番
|
11番
|
12番
|
13番
|
14番
|
15番
| |
RSA
|
-
|
67
|
45
|
56
|
56
|
50
|
8
|
ENG
|
14
|
12
|
43
|
17
|
13
|
30
|
7
|
この試合、南ア・バックスが「のびのび」と走っていたのに対して、イングランドは南ア・ディフェンスの前でなすすべもないかのようだった。特に、準決勝で当たっていたENG10番・フォードは完璧に抑え込まれていて、後半9分交代するまでランメーター・ゼロである。なお、タックル成功率も60%で、交代やむなし、ということか…
【 ケガ 】
前半20分までに両チーム3人がケガで交代。しかも二人は味方選手との衝突による脳震盪。
決勝ラウンドで、これだけ早い時間帯に、かつ、両チームにケガでの交代が出たのは初めて。
特に、ENG・3番のシンクラーが2分で交代したのは、大きかった。
一週間前、フランスのミディオリンピック紙で「129」をいう見出しで、NZのスクラムの連続獲得数を挙げていて、今大会は勿論のこと、過去を遡っても、NZがマイボールスクラムを取られたのは、2018年夏まで遡らなければならない、それぐらいNZのスクラムは強い、と紹介されていた。そのNZから準決勝でスクラムでのペナルティを獲得したENG。その核のシンクラーを欠いたのは、後の試合展開に大きく影響した。
なお、脳震盪で検査するようになったのは、最近のことであり、昔であれば、彼も試合に再出場出来ていたのでは(?)。とか、あのシーン、ダブルタックルの入りだったように見えたけど、そもそも二人がかりでタックルするというのも今日的。様々な面で「変わってきている」。
一方、南アも二人ケガで欠いたにもかかわらず、その影響を感じさせなかった。23人の充実度なのか。
【 ペナルティ 】
自陣でのペナルティは痛い!PGで得点されてしまう。
この試合、ENGは10、RSAは8 ペナルティを取られている。
ENGの10のうち、6回PGを決められていて、さらに2回狙ったものの外れている。すなわち、8回も痛いペナルティを取られている。これもRSAの圧力を示す一つか。
ちなみに、RSA8回のうち、4回決められ、1回外れている。
【 NZに勝った次の試合 】
ラグビーがプロ化して以降の大会で、
第4回・準決勝でNZを破ったFRAは、決勝で敗退。
第5回・準決勝でNZを破ったAUSは、決勝で敗退。
第6回・準々決勝でNZを破ったFRAは、準決勝で敗退。
第7回・第8回は、NZは一度も負けずに優勝。
つまり、NZに勝ったチームは次の試合で必ず負けていた。
一種のジンクスなのか?
これを打ち破る策があるだろうと思わせたのが、第5回AUSのHCだったエディーさん。
それでも、このジンクスを破れなかった。
一つの視点として、NZ(だけ)を強く捉えすぎている、というのがあるのではないだろうか。だから、一種「燃え尽き症候群」的に次の試合を戦う羽目に…
この点で、日本のメディアのNZ信仰、エディーさん信仰は偏り過ぎている気がしてならない。
【 傲慢なイングランドは強くなくてはならない! 】
ラグビー・テストマッチ史を俯瞰すると、
1 イングランドに併合されたスコットランド・ウェールズ・アイルランドの「恨み」+覇権を大英帝国に奪われたフランスの「無念さ」が、代理戦争としてのラグビー・テストマッチの熱狂をもたらした。
2 大帝国内の地域、ニュージーランド・オーストラリア・南アフリカが、本国の人びとに「承認」してもらう場としてのラグビー・テストマッチへの精力傾注をもたらした。
と 大胆に言い切ってしまうと、「悪役」イングランドは強くなければならない、面白くない。
その意味で、エディー・イングランドは素晴らしい!
今大会、ノーサイド後、「スタンドに向かって整列・一同お辞儀」というのが定番化して、各チーム行っていた。もちろん、RSAも行って大歓声を受けた。ところが、ENGはこれを行わずにグランドを立ち去った。
【 ティア1・ティア2 or 北半球・南半球 】
ティア1・ティア2というざっくりした大別は意味をなさなくなってきた感がある。特に、ここまで本当に頑張り、一時はランキング1位になったIRE、WALはHC・キャプテン共に交代するという大変革に入り、おそらくこれまでのパフォーマンスを維持するのは苦しいのではないか、と思われる。一方、日本の真の(?)実力もどう測ればいいのか?
また、これからの日本ラグビーを考える上で、きちんと整理しておいた方がいいのが、北半球型の協会運営をするのか、それとも南半球型の協会運営をするのか?一つの具体的な事例は、国内の決勝戦を何月に行うか、という年間スケジュール。これは些細なことのようで、実は、ラグビー界全体に大きな影響を及ぼす。自らのアイデンティティをどこに求めるのか、ということでもある。
これまでの考え方の基礎には、部活(高校・大学)があり、一学年が4月に始まり3月に終わるということを前提に12月・遅くとも1月に決勝を行ってきた。これはこれで十分踏まえなければならないのだが、世界的には特異な時期であることも事実。
北半球・欧州は、5~6月が決勝戦(6か国対抗は、1~3月)。南半球もスーパーラグビーが7月、ザ・ラグビー・チャンピオン・シップが7~8月となっている。
これについては、いくつかの切り口があるが、まず、① プレーヤーズ・ファーストで考えるのか、それとも②観客ファースト(暖かな季節にラグビー観戦するのは極めて心地よい!)で考えるのか?
さらには、プレーヤーズといっても代表選手を軸に考えるのか、部活生を軸に考えるのか?
こうしたことは、協会がきちんと今の時点で仕切っておくべきである。日本ラグビーかくあるべき、という姿を描いて、協会が決め、その上で、世界と協議すべきでは。
さらに、4年に一度のワールドカップで最高のパフォーマンスを得るために、というのも重要な視点。今回のハイパフォーマンスは、少人数の合宿を行うことで得られた。すなわち、国内リーグは、ほぼ休止。サンウルブズは多国籍軍化。これをどう評価するのか?
→ 「協会がなすべきこと」については、後日。
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