2019 W杯・備忘録 3
~M14 JPN/IRE戦~
日本チームの勝因は、さまざまに語り継がれていくだろう。怯まず攻め続けた選手を誇りに思う。19対12、日本の勝利。その事実は揺るがない。
一方で、「負けに不思議の負けなし」、IREの敗因は何だったのだろうか?
【 スタッツから】
まず、スタッツで検証してみる。
IREは、安定したセットプレーからラックを連取し、パスとキック、そしてサインプレーを織り交ぜて得点を取る。また、安定した守りで最少失点に抑える。こうして数年間、勝利を積み重ねて、WRランキング1位に上り詰めた。
* 今大会の5試合の特徴的なスタッツを見てみる。
1 ラック獲得数
第Ⅰ戦
|
第Ⅱ戦
|
第Ⅲ戦
|
第Ⅳ戦
|
第Ⅴ戦
| |
IRE
|
96
|
107
|
107
|
118
|
98
|
対戦チーム
|
SCO
94
|
JPN
115
|
RUS
53
|
SAM
37
|
NZ
100
|
毎試合、ほぼ100前後のラックを獲得している。なお、第Ⅳ戦・SAM戦は、アキが29分・レッドカードで退場(この時点で21対5でリード)、以降14人で戦っている(最終スコアは、47対5。
参考として、JPNは次の通り。
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
JPN
|
96
|
115
|
65
|
114
|
87
|
対戦チーム
|
RUS
89
|
IRE
107
|
SAM
72
|
SCO
87
|
RSA
68
|
日本の場合、相手チームに応じて、かなり戦法を変えたのがうかがわれる。
2 スクラムハーフのパス/キック比
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
パス/キック
比率
|
63/19
3,3
|
98/2
49
|
85/7
12,1
|
87/8
10,9
|
81/8
10,1
|
日本戦だけ、なぜか、スクラムハーフからほとんど蹴っていない。(第1戦・SCO戦では、19回蹴っている。)これが、この日の「ゲームプラン」だったのか?
参考として、JPNは次の通り。
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
パス/キック
比率
|
92/7
13,1
|
105/4
26,3
|
63/5
12,6
|
113/1
113
|
94/2
47
|
3 スタンドオフのパス/キック比
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
パス/キック
比率
|
6/11
0,5
|
23/10
2,3
|
28/8
3,5
|
26/8
3,3
|
24/9
2,7
|
この数字だけから見ると、第1戦SCO戦だけ、違う戦いをしていた感がある。一見したところ、数値の上では、セクストンと控えのスタンドオフの間にさほど差異はみられない。
参考として、JPNは次の通り。
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
パス/キック
比率
|
28/15
1,9
|
31/5
6,2
|
22/11
2
|
44/5
8,8
|
36/14
2,6
|
4 タックル数(上段)・成功率(下段)
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
タックル数
成功率
|
135
94%
|
171
90%
|
95
90%
|
63
83%
|
147
82%
|
対戦チーム
|
163
91%
|
176
93%
|
188
89%
|
190
87%
|
145
92%
|
IPN/IRE戦に関して、スタンドオフ・セクストンの不在に言及されることが多い。この試合、セクストンと共にメンバーに名を連ねなかったのがセンター・(バンディ―)アキ。アキが不在の試合は、スリー・クオーター・バックスのタックル成功率が低下する。
第2戦・JPN戦 (タックル数33 成功率80%)
第5戦・NZ戦 (タックル数30 成功率71%)
アキの不在は、第2戦はおそらくローテーション。第4戦SAM戦でレッドカードを受け、第5戦は出場停止処分中。
参考として、JPNは次の通り。
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
タックル数
成功率
|
134
86%
|
176
93%
|
127
90%
|
148
84%
|
103
87%
|
対戦チーム
|
144
75%
|
171
90%
|
113
84%
|
199
86%
|
148
88%
|
両チームのタックル数・成功率をみて、あらためて、JPN/IRE戦の密度の濃さを思い知る。
5 ペナルティを取られた数(上段)
そのうち、○:対戦チームのPG成功、×:PG失敗(下段)
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
取られた数
敵のPG
|
8(Y-1)
○1
|
9
○4 ×2
|
6
-
|
5(R-1)
-
|
6
○1
|
敵のP
IREのPG
|
6
○1 ×1
|
6
-
|
10(Y-2)
-
|
17(Y-2)
-
|
13(Y-1)
-
|
参考として、JPNは次の通り。
Ⅰ
|
Ⅱ
|
Ⅲ
|
Ⅳ
|
Ⅴ
| |
取られた数
敵のPG
|
5
○1
|
6
-
|
10
○4 ×1
|
7
-
|
8
○3 ×1
|
敵のP
JPNのPG
|
5
○2
|
9
○4 ×2
|
10(Y-1)
○4 ×1
|
4
×2
|
8(Y-1)
○1
|
得点で勝敗を決する競技では、各チーム、得点の最大化と失点の最小化をめざす。
ラグビーの得点源は、トライ(その後のコンバージョン)、PG、そしてDGに大別できる。
予選プール、1トライで勝利したのは、この試合のJPNのみ(他の勝利チームは、2トライ以上している。)。決勝ラウンドでは、準決勝2試合とも1トライ。
また、トライ数が敗者よりも少ないのは、この試合の他に、① M10 URG(3T)30-27FIJ(5T)② M17 WAL(2T)29-25AUS(3T) ③ M28 FRA(2T)23-21TON(3T)の3試合。
この試合を決したのは、ペナルティの質(?)ということなのか?
【 フランスのラグビー週刊紙・ミディ―オリンピックの戦評 】
試合終了から数時間後、ミディ―オリンピックのサイトに戦評が掲載された。
『ターニングポイントは、後半12分、JPNのハイパントをキャッチしようとしたIREの選手がJPNの選手に躓いてキャッチできなったプレーに対して笛が吹かれなかったこと』とあった。
その後、このシーンを何度となくスローで見ている。時系列で書いていくと次の通り。
① ラックから出たボールをJPN・9がハイパント(ボックスキック)
② JPNの9より後方にいたJPN4選手がキック・チェイス
③ IRE・10がキャッチしようとジャンプする
④ JPNの4選手のうちの先頭を走っていた1選手が、ボールは見ずに、IRE・10の前で立ち止まる
⑤ ハイジャンプしたIRE・10はボールキャッチに入り、空中で④の選手に躓く
⑥ IRE・10、ボールを前に落とす
⑦ レフリーは「ノック・オン」のコール・ジェスチャーを示す
⑧ ノック・オンされたボールをJPNの選手が拾い上げ前進
⑨ ⑧の選手にIRE選手がタックルする
⑩ ラックが形成され、レフリーは「(IREの)ノット・ロール・アウェー」を宣告、ジェスチャーで示す
⑪ JPN、⑩のラックから出たボールを展開するも継続できず
⑫ レフリーが笛を吹き、IREのペナルティを宣告する
未だに理解できないのは、
一 レフリーの眼前で生じた④⑤に対して笛を吹かないこと
二 タッチジャッジも見ていたはずなのに、主審に対し何らのアピールもしなかったこと
三 TMOで見れば、明らかなのに、主審に対し何らのアピールもしなかったこと
四 WR編集のテレビ画面において、このシーンはリプレーで流されなかったこと
④⑤のプレーが野放しにされれば、ラグビーはラグビーでなくなる。
是非 この一連のシーンをスローで見ていただきたい。
【 I≠W と HC 】
数日後、IREのシュミットHCが発言したようだ。
BBC日本語ページでは、『日本戦でアイルランドに不利な誤審。「統括団体が認めた」と監督』という見出しで紹介している。(bbc.com/Japanese/49903487)
別のサイトでは、According to Schmidt himself, Ireland have received confirmation from World Rugby that Gardner got three of his key penalty decision wrong during the tie in Fukuroi. とある。
シュミットさんは ARGのレデスマHCに比べれば スマートにメディア対応したように思われる。
【 ガードナーさん 】
この試合の主審はガードナーさん(AUS))。この大会では、FRA/ARG戦に続いて二試合目の笛。
試合前日、サンケイスポーツ紙上、元プロ審判・平林泰三「タイゾーの笛分析」では『②アイルランド戦主審・ガードナー氏を“斬る”!!』と題して、「スクラムに先入観を持たれるな」と呼びかけるとともに、「21日(FRA/ARG戦)は“失敗”」として「ガードナー氏は選手に規則をしっかり守らせながら、手順に沿った笛を吹く。それが悪い方に出たのが21日のフランス‐アルゼンチン戦だった。スクラムが最後までうまく組めなかった。組み方を細かく説明したり、ときには反則を取ったりしてマネジメントしようとしていたが、言うことを守らない両軍にギブアップ。マネジメントをやめてしまった。」と書かれている。これと同じ状況が生じたのがこの試合。スクラムに関して言うと、①18分JPNのP ②34分IREのP(このシーン(だけ)が、その後、何度もテレビで流されている) ③47分JPNのP があり、この間に、幾たびか両チーム選手に説明したりもしていた。
試合当日のサンスポ紙上には『最優秀審判ガードナー主審が笛 相性悪いシュミット監督「いい判定を」』との見出しで『今年の欧州6カ国対抗でアイルランドがウェールズに7-25で敗れた一戦も主審をしており、シュミット監督は「彼の判定が味方せず、非常にフラストレーションがたまった」と相性の悪さを口にする。同主審が担当したフランス-アルゼンチン戦でも一部の判定が物議を醸した。WRは今大会の判定について異例の声明を出しており、シュミット監督は「WRから言われたばかりだし、今週こそいい判定を下すと確信している」と期待した。』との記事があった。あらためて、2019年3月16日・ウェールズ・ミレニアムスタジアムのWAL/IRE戦。一方的にIREがペナルティを「取られまくり」見ていても、笛がまったく理解できなかった。前半40分のペナルティを取られた時にはスタンドオフ・セクストンが満面に怒りを表しながらボールを地面に叩きつけるシーンが大写しになっていたのが印象的であった。
2018年のWRレフリーアワードを受賞したガードナーさん、今大会・予選プールでは、FRA/ARG戦、JPN/IRE戦、WAL/URG戦を吹き、決勝ラウンドでは笛を吹くことなく(準々決勝NZ/IRE戦では線審)終わった。
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