2019 W杯・備忘録1 ~フィジーは弱かった~
大会前、ダークホース的存在と見做されていたフィジーは、第1戦オーストラリア戦を39対21で落とし、第2戦ウルグアイ戦は格下相手にまさかの敗北(30対27)、第3戦ジョージア戦は後半に輝きを取り戻して33対7の勝利、第4戦ウェールズ戦は29対17で敗北、1勝3敗で予選プールを終え、日本を去っていった。得点を見れば、前評判は裏切られた。
1.第1戦 対オーストラリア
試合の入りは、フィジーにとって完璧。5分にPGで3点、8分にF・7番のトライで8対0と引き離す。この後、オーストラリアに反撃され、18分A・7番にトライ・コンバージョンも決まって、8対7とされるも、23分にはPGで加点し、11対7となる。ここまで、フィジーの多彩な攻撃は目を見張るものがある。
暗転するのは、25分。
オーストラリアのラックでのペナルティをフィジーがタッチに蹴出し、オーストラリア・ゴール・ラインから15mのF・ボール・ラインアウト。これ以前のラインアウトで、F・10番へのロングスローを決めて大きくゲインしていたが、今回は、意表をついてラインアウトの一番前の選手(7番)に合わせて、F・7番が突進。ゴール前5mでA・14番と交錯、ノックオン。そのボールがタッチに出て、A・6番がクイックスロー。オーストラリアは混乱し、インゴールにボールを置くのがやっとで、フィジーボールのスクラムに。
F・7番は蹲りメディカルが外へ出し(HIA検査)交代の選手が入り、試合は止められることなく、続行された。
この蹲った選手が、ヤト。日本では馴染みがないかもしれないが、フランスTop14・クレルモンのキャプテン。2018/2019シーズンのプレイ・オフ決勝は、ヤト率いるクレルモン(フランス代表数名+あのレイドローも)対トゥールーズ。トゥールーズを率いたのが元オールブラック・カイノ(2011、2015、フランカーとして出場)このチームにもフランス代表数名とフルバックであの南アフリカのコルビが出場していた。
スタッツを見て、暗澹たる気持ちになる。ヤトの記録は、25分間出場、ランメーター 73m、クリーンブレイク 3回、 タックル機会 4回すべて成功。一番輝いていた選手を「交錯」で失った。
この「交錯」について、試合後、フィジー協会がWRに異議を申し立てた。そして、4日後、WR・懲罰委員会は「O・14番の行為はレッドカード相当とし、3試合の出場停止を決定」した。(懲罰委員会の決定内容については、最後に(参考)として記述)
ということは、あの試合、正しく笛が吹かれていれば、前半25分以降、オーストラリアは8対11でリードされている状態で以後14人で戦っていたということである。ということは、あの試合、正しく笛が吹かれていれば、フィジーが大勝していた可能性が大きい。もちろん、オーストラリア魂(?)に火がついて、オーストラリアが勝っていたかもしれない。ただ、今大会でレッドカード退場者を出したチームは負けている。
「交錯」に至るまでのプレーを見返してみる。
1分 A・14番は、対面F・11番の突進に低くタックルに行き弾き飛ばされている。(このシーンは、何度かリプレーで流される。)
2分 A・14番は、F・15番の下へタックルに行き止めている。
11分 A・14番は、F・7番の腰にタックルに入っている。
12分 A・14番は、ハイパントのコンテストでF・11番に競り負けている。
A・14番は、25分に至るまで、タックルは下に入っているものの、成功していない。
そして、25分を迎える。
「交錯」そのものについては、WR懲罰委員会がレッドカード相当と認定している。 是非、25分までの試合をじっくり見ていただきたい。
ラグビーにおける「公正・公平」の考え方は、時代と共に変化してきた。
1 かつては、先発15人で戦い抜くことが「公正・公平」とされ、交代選手は、たとえ重傷者が出たとしても、一切認められなかった。
2 やがて、「公正・公平」の観点から、ケガによる交代選手の出場が認められるようになった。
3 そして、相手選手をケガさせるような危険なプレーは、「公正・公平」の観点から許されない、としてイエローカード、レッドカードが制度化された。
現時点での「公正・公平」は、相手選手に重傷を負わせた(負わせる可能性がある行為に対しても)選手には、レッドカードが出され、数的バランスを採ることにある。
あの試合の「交錯」では、明確に一人の選手が重傷を負い、試合続行がかなわなかった。であるにもかかわらず、重傷を負わせた選手は、試合中はなんの「御咎め」も受けずプレーを続けた。さらに、残念なことには(?)、A・14番は、36分にはトライを、51分にはPGを決め、オーストラリアに8点をもたらしている。 あの試合、勝者はオーストラリアだったのだろうか?
2 第2戦 対ウルグアイ
初戦に焦点を当てて準備をし、その準備がピタッとはまった25分とやりきれない気分の65分を戦って、中3日での札幌から釜石での試合。どのような心境だったのだろうか。
キックオフは14時15分。おそらく、同時刻にWR懲罰委員会が東京で開かれていたと推測される。すなわち、結果を知らされずにゲームに臨むことになる。 結果は、まさかの敗退。ウルグアイの健闘は「掛け値なし」に誉めたてるべきであろう。勝敗だけをみれば、フィジー5トライするもコンバージョンが成功したのは1回だけ。これに尽きるのかもしれない。 ヤトは、当然のことながら、リザーブにも入らず。
3 第3戦 対ジョージア戦
後半になって、フィジーの輝きが甦ってくる。後半だけで、6トライ。 ただ、この試合、現場で見ていたが、明らかにジョージア、後半疲れ切っていた。 このグループ、結果としてみれば、中三日で戦ったフィジーを破ったウルグアイが、中三日でジョージアに敗れ、そのジョージアが中三日で戦ってフィジーに敗れている。 小国の悲哀を感じる。
4 第4戦 対ウェールズ戦
ファイナルスコアは、29対17。歴史とは、厳然たる事実・ファイナルスコアだけが語り継がれていくのだろうか。
この試合、今大会では珍しく、二転三転した試合。
5分 Fのトライで0対5(相変わらずコンバージョンは決まらず)
8分 W・2番にイエローカード
9分 Fのトライで0対10(またしても、コンバージョンは決まらず)
18分 Wのトライ・コンバージョンで8対10
29分 F・7番にイエローカード
31分 Wのトライ・コンバージョンで14対10とW逆転
32分に F・12番負傷交代(これは、痛かった…)
54分 F、ペナルティ・トライ(今大会ではめずらしい)で14対17と再逆転
58分 W、PGで17対17の同点に
61分 Wのトライで22対17、W再々逆転
69分 Wのトライ・コンバージョンで29対17
マン・オブ・ザ・マッチは F・11番
フィジーの初戦25分までの戦いは、ベスト4級である。悲運のフィジーとして記憶されるべきでないか。
(参考「190926RWC19 Reece Hodge(Aus)Disciplinary Decision」より)
* ワールドラグビーのホームページから簡単にアクセスできます。是非、原文を読んでみてください。
本文は、レフリーの証言から始まっている。
1 Summary of essential elements of citing/referee’s report/footage
1 Referee: ”Incident not seen live. At the subsequent stoppage in play due to the injury I asked my TMO if there was any obvious foul play to cause the injury, the reply was that there was no obvious foul play seen”
2 AR1: “I did not see the incident as I was on the other side of the field”.
3 AR2: “My view live was that I didn’t see any foul play on Fiji number 7. I thought it was just a ‘rugby collision’”.
4 TMO: “No foul play seen live. At the subsequent stoppage in play due to an injury, I checked two angles for potential foul play and saw none. I reported this to the referee when asked”.
👉 主審とAR2は、目の前で見ている。結果として、一人の選手が脳震盪で試合続行不能になった。「交錯」は二人の選手で起きている。であるならば、加害行為を行いえるのは、F・7ないしはA・14のみ。AR2の言っている「rugby collision」とはどういう現象を指すのだろうか?
👉 TMOは、2視点から映像を見て「問題なし」と返答したとのこと。しかし、テレビ映像(WR作成で世界中に流されているもの)をスローで見れば、A・14の肩とF・7の顎が激突しているのが見て取れる。
仮に、その時点では、2視点からしか見なかったとしても、25分にHIAで退場し、10分後には再出場不能となった=重大なケガが生じた、と判明した時点で、あるいは、ハーフタイム時に、なぜ事実解明を進めなかったのか?
本文は、このあと、Citing Commissioner’s Report 、The Medical Report と続き、
その後に、Summary of player’s evidence が続く。
まず、Player‘s Representatives の一人 Martin QC が文章を読み上げたようだ。
👉 こんな場にも、弁護士が出てくる。いや、こんな場だからこそ、弁護士が出てくる時代になったということか…
本文中で目についたのは、
The player also explained why he did not apologise to Fiji 7 ( or to the Fijian team, some of whom he knew as club mates ) after match, as he was not aware that he had done anything that might be put under scrutiny.
本文は、その後、Findings of fact という章で さまざまな角度からの検討がなされ レッドカードが 確定した。
そして 「Sanctioning Process」で 原則、6週間の出場停止のところが、
「 “Clean” disciplinary record over a considerable, and distinguished, playing career. Good character and repute. 」ということで 3週間の出場停止に減じられ、現実に 準々決勝はフル出場している。
👉 少なくとも、この「交錯」に関しては、全然 good character とは思えない…
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