2019 W杯・備忘録 66
~ キックオフ ~
フットボールの試合は、ラグビーもサッカーもキックオフで始まる。
レフリーの笛や負傷などの「儘ならぬ」こととは違い、チームの意志でどこに蹴るかを決められるプレーである。
そうでありながら、将棋の初手の7六歩(ないしは2六歩)が「定跡」化しているように、ラグビーのキックオフは相手陣「遠く、かつ、右ないし左のサイドライン際」に蹴り込むことが定跡化している。
「遠く」に蹴ることによって陣地を大きく確保する、「右ないしは左のサイドライン際」に蹴ることによって相手のプレー選択の幅を狭める=防御しやすくなる、という理に適った定跡である。
今大会のキックオフの多くも、定跡どおり「遠く、かつ、右ないし左のサイドライン際」に蹴り込まれていた。とはいえ、定跡破りも世の常。興味深いキックオフも散見された。
たとえば、JPNのキックオフ。200日余の合宿で細部まで本当に周到に準備していた痕がいたるところに見受けられるが、キックオフにも表れている。
初戦RUS戦のキックオフは4回(後半開始時の1回と相手チーム得点後が3回)。このすべてを定跡どおりに蹴っていた。
第2戦IRE戦の3回のキックオフ(前半2回の得点後と後半開始時の1回)は、一変して、すべて相手陣10メートルライン後方にコンテストキックを蹴っていた。
第3戦SAM戦では試合開始のキックオフを定跡どおり「遠く、かつ、右サイドライン際」に蹴り、前半の得点(された)後も3回同じように蹴っていた。後半、開始早々に得点された後は短いコンテストキックを蹴り、73分:リードを縮められた(26-12から26-19)後は、また定跡どおりに蹴っていた。
第4戦SCO戦の試合開始のキックオフは、なんとゴロのキックで相手10メートルラインを越すという「奇襲」。SCOも対応したがノックオン。そのボールをJPNボールとして攻撃をしかけた(残念ながら得点には結びつかなかったが)。後の3回の得点後は定跡に近い蹴り方をしていた。
第5戦RSA戦、前半5分得点後のキックオフを22メートルライン前の右でも左でもない真ん中に蹴っている。おそらくコンテストキックを蹴ったのであろうが不発に終わった。後半開始時のキックオフは同じように蹴ってリーチがボールに手をかけるもマイボール化できなかった。続く2回の得点後も、やはり真ん中にそれまでよりも短めに蹴るもうまくいかず、その後の2回の得点後は定跡どおり蹴っていた。
キックオフと言えば、準決勝ENG/NZ戦の試合開始時のENGのキックオフを思い出す人も多いのではないだろうか。ファレルが右奥に蹴るように持っていたボールをレフリーの笛とともにフォードにパスして左奥に蹴り入れた、あのシーンである。このキックオフで表現されているENGの意志を感じ取った人も多かったと思われる。
一方のNZのキックオフ機会は前半2回、後半試合再開時を含めて4回。すべてコンテストキックを10メートルライン後方に蹴っている。そのうちの2回は、NZ・ロックがタップしてマイボール化できそうになっている。これはこれで凄いのだが、そのタップされたボールをいずれもENGの選手が待ち構えて取っている。NZも凄いがそれを想定してきちんと準備していたENGも凄い。
キックオフだけを「切り取って」見比べて見るだけでも面白いものがある。
ところで、得点後のキックオフ、15人制ラグビーと五輪種目の7人制ラグビーでは、蹴るチームが反対になっている。
ラグビーの競技規則の定義では、「キックオフ:試合の各ハーフを始める方法であり、また、延長時間の各ハーフの開始時にも行われるドロップキック。」とされている。
そして、競技規則第12条「キックオフと試合再開のキック(得点後のキックオフ、および、試合再開のキック)」の中で、得点後のキックオフは、
4. 一方のチームが得点した後、相手側は、ハーフウェイライン上の中央、または、その後方から行われる。と決められている。
7人制競技規則は、概ね15人制を踏襲しているが、いくつかの変更が施されている。その中でも興味深いのが試合再開のキックオフを蹴るチームである。上記の第12条4.は次のように変更されている。
4. 一方のチームが得点した後は、そのチームによるハーフウェイライン中央、または、その後方からのドロップキックにより再開する。試合再開のキックは、コンバージョンが蹴られた、あるいは、蹴られないと選択されてから、あるいは、ペナルティゴール、または、ドロップゴールが蹴られてから30秒以内に行われなければならない。
得点された後のキックオフを①得点された側(得点した側の相手側)に与える15人制と②得点した側に与える7人制、キックオフとは如何なる行為であるのか、また、15人制ラグビーと7人制ラグビーの違いを如実に表している気がしている。
キックオフとは、キックして敵陣に入ることであり、キックするとは、①ボールを前に進めるプレー(ラグビーの場合、パスは前に投げられない)であり、②ボールの支配権を相手方に渡すプレーでもある。すなわち、陣地を進める代わりにボール支配権を失うプレーである。両チーム均等に扱う観点から、得点後の試合再開の「プレー権」を得点した側に与える7人制はボール支配に力点が置かれ、15人制は陣地支配に力点が置かれた結果ではないだろうか。
単純にボール支配権を相手に渡すよりはコンテストしてマイボール化すれば一挙両得になるのではないか。では、どういうことが考えられるか?
コンテストするためにはボールが落下する時までにその地点に到達していなければならない。問題なのは、チェイサーの走力とボールの滞空時間である。早い人間(≒ウィング)を遠くまで追いかけさせればよさそうだ。そして、滞空時間の長い=高いキックを蹴れれば、陣地も稼げることになる。おそらく近未来には、キックオフボールはより高く蹴られるようになり、今よりも深い地点でのコンテストが激化する気がする。
二兎を追う者は一兎をも得ず、であろうか?
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2月初旬に始まった欧州6カ国対抗戦第3節FRA/SCO戦が、直前になって延期になった。FRAチーム内にcovid-19感染者が出て、クラスターとなり、その拡大が止まらないためである。当初、隔離された合宿所に持ち込んだのは(名前の明らかにされていない)トレーナーだと公表されていたが、水曜日にスポーツ紙・レキップが「ガルティエHCが規則違反し持ち込んだ」と報じて(ガルティエは否定している)騒ぎが拡大する一方である。フランスラグビー協会は、U-20ポルトガル合宿、7人制代表合宿に続いて3度目のクラスター発生で管理能力を疑問視されている。どのような真相が明らかになっていくのか気になっている。
ラグビー界では、6月・7月に予定されている英国連合・ブリティッシュライオンズのRSA遠征がどうなるのか、いろいろな噂が流れているようだ。これまでの平時のライオンズ遠征と同じようにRSA国内に長期遠征し各地を転戦する、というフォーミュラでは行いえないだろうと見られている。RSAでの開催は無理だから、いっそ英国で実施するという案やドバイと豪州が開催地に名乗りを挙げているとも報じられている。
東京五輪もどうなるのか、月日だけが過ぎていっている。
令和3年2月27日
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