2020年2月2日日曜日

岡島さんの 2019W杯・備忘録 11

2019W杯・備忘録 11
~ プロ・アマ ~
 
今大会、国内での盛り上がりの機運を作ったのが、ベストセラー作家・池井戸潤の小説『ノーサイド・ゲーム』。テレビドラマ化され、最終回の視聴率は13,8%。ご覧になられた方も多いと思う。『出世の道を閉ざされたサラリーマン、君嶋隼人が異動で会社のお荷物といわれるラグビーチーム「アストルズ」のGMを任され、自らの再起を懸けて戦う物語だ。』(週刊ダイヤモンド・831日号「熱狂!ラグビー」p34(経済誌が大会前にラグビー特集を組んだのも盛り上がりの一要因))
   テレビドラマ、さすがTBS日曜劇場、よく出来てる、感動の連続だった。元日本代表をはじめラグビー経験者を多用したラグビーシーンは迫真もの。見返してみると、スクラムとジャッカルのシーンが少ないのがご愛敬。
 
ところで、大泉洋が演じた君嶋GMって、プロ? それとも、アマ? どっちなのだろう。
テレビドラマ『ノーサイド・ゲーム』はアストルズが優勝し、社長(西郷輝彦が演じた)は大喜び、君嶋は本社・経営戦略室長に栄転、君嶋の後任は浜畑(元日本代表キャプテン・廣瀬が演じた)。そうだよな、君嶋がラグビー界に「骨を埋める」気なんて、これっぽっちもないよな…。小説『ノーサイド・ゲーム』は経営戦略室長になった君嶋が日本蹴球協会専務理事と和解し「経営のプロ」として協会理事に就任する。一方、現実の日本ラグビー協会では「革命」が起こり、企業経営に関係していた専務理事は解任され、企業経営に無縁の人々を中心に「プロ化」の議論が進められれている。事実は小説よりも奇なり…
 
プロとアマの違いは何なのだろうか? 選手・指導者・レフリーが、プロかアマかは、ある意味わかりやすい。では、「運営」がプロになるとは、どういうことなのだろうか?
 
「商業主義」を貫徹するWRが主催した今大会、多くの献身的な「ボランティア」という名のアマチュア、開催地方自治体の絶大な支援なくして、あの盛り上がりそして満足感は得られなかった。
 
大西鐵之祐『闘争の倫理 スポーツの本源を問う』(株式会社鉄筆 2015年、原本は1987年刊)には、次の一節がある。
… プロはプロらしくアマはアマらしくあれと呼びかけたい。プロは最高の技術と最高の勝負と最高のアピール(大衆への魅力)を目標として、自らの全力を大衆に捧げ尽してほしい。何となれば大衆こそプロスポーツの支援者なのだから。そうして世界の一流プロたちを相手に堂々と戦い勝ったとき、日本のプロもやっと一人前だということができるであろう。それがためには、アマにプロの卵をつくらせることをやめて、自らプロをつくる制度を確立することであろう。(p85
… アマはアマで画然とプロから離れてシャマーチュア(注:shamateurエセアマ《金銭的報酬を得ているアマチュア、セミプロ選手》)を除名し、人間の平和を目標として自らの修行と闘争の倫理の体得を目指してアマスポーツに精進するとき、わが国のスポーツ界はすっきりとしたすがすがしいものになるであろう。(p86
 
エレロ『ラグビー辞典』「プロフェッショナル」の項に次の一節がある。
… 1987年第一回W杯が舞踏会の始まりだった、それは同時に経済界に門戸を開くことでもあった。1991年第二回大会では真のビジネスマンである選手の代理人を見かけるようになり、1995年第三回大会で最終的に「現代」に突入した。我々の父たちや祖父たちが麗しい価値によって厳格に排除してきた世界に。
 1995年、ラグビーの所有者が変わった:テレビ、スポーツ用品企業、スポンサーは、物乞いが子羊肉の上に涎を垂らすように、このスポーツの魅力の虜になった。彼らは、新しい選手権やイベントを求めた。「スーパー12(現在はスーパー・ラグビー。サンウルヴズが参戦)」「トライネーション(現在は南半球4カ国対抗)」「トップ○○」「○○カップ」といったものが、キノコが生えるようにあれこれ出てきた。
… フランスラグビー界に始めて(選手を)「買う」という言葉が出現した。いまや、同じチームで選手生活を全うするものはいない。選手は移籍を繰り返し、チーム編成は毎年変わる。選手も指導者も入れ替わり、情報もふんだんに流れ、チームの個性は薄れてゆく。
… かつての名選手は、月に4回スタジアムに足を運んだ。いまや毎日だ。かつての名選手が行ったことのない筋トレに励む。選手の体格・筋力は見違えるもとなった。「デブ(これは80年代にみられなくなった)」や「チビ」は見かけなくなった。
… ラグビーは神秘性を失いつつある。
 
   プロ化することによって「柔能く剛を制す」シーンが少なくなった。
グランドの広さが同じままで、一人一人の体格・運動能力が向上し、ディフェンス理論が整備され、スペースがどんどん無くなってくる。小回りの利く選手がスルスル抜ける、なんて滅多に見られなくなってきた。
 
 その点、7人制ラグビーはスペースだらけだ。
2016年リオ五輪ラグビー三位決定戦は、日本vs南ア。ここまで大健闘のニッポンは54-14と力尽きる。南ア・最後のトライは途中出場したコルビ(170cm80kg)、五輪後フランス・トゥールーズで15人制に適応し、今大会で大活躍したのは記憶に新しい。三決に先発出場していたのが、クワッガ・スミス(180cm80kg)。コルビ同様、フィジカルで劣ることから南アでは使ってもらえないと判断し国外へ。選んだのがヤマハ。ここでのラグビー経験が生き今大会のスコッドに入り、ナミビア戦、カナダ戦に先発出場した。スミスは、ミディ―オリンピックのインタビュー記事で「ヤマハで成長出来て、代表入りが叶った」と感謝している。なんとなく、嬉しい気分になる…
 
    7人制と15人制、似て非なるラグビー、これからそれぞれがどうなっていくのか、これはこれで興味深い。多くの協会は、7人制が「オリンピック種目」になったことをラグビー普及の好機会ととらえ、協会主導で強化してきた。それとともに、7人制を15人制へのステップとしてとらえ、2016年五輪で活躍した選手が、南アのコルビ、スミス、仏のバカタワのように15人制に移行したケースも散見される。
 日本は、2016年五輪で初戦NZを破るという衝撃を世界中に与え、準々決勝でも仏をラスト・ワン・プレーで破るという快挙を成し遂げた。東京五輪、活躍してほしいものだ。
 フランスでは、21日、初めての7人制のプロ大会が開催された。7人制もプロ化するのか、これもまた興味深い。
 
    日本サッカー界は、W杯出場など夢のまた夢、五輪アジア予選で敗退し危機感を持った人々が「代表強化」の切り札として始めたのが、プロ化したJリーグ。サッカー界の大成功に学ぶべき点は多い。しかし、代表合宿に240日も選手を出す寛容なトップ・リーグの存在が日本代表のW杯での躍動をもたらしてくれた事実は重い。今、問われるべきは、トップ・リーグのプロ化か否かではありえない。徐々に示される「案」は、サッカー界・バスケット界の二番煎じ・三番煎じに過ぎない。日本ラグビーの長所・短所を分析して、プロ・アマの不毛な二項対立ではない課題設定をすべき時である。

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