2022年7月2日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 135

2019 W杯・備忘録 135
  ALTRAD 
 
 今シーズンからオールブラックスのジャージの胸表示が「AIG」から「ALTRAD」に代わる。FRA代表の胸表示は、2018年から「ALTRAD」。FRA/NZ戦は「ALTRAD」対決となる… 残念なことに(?)、W杯では胸表示が消される。
 
 「ALTRAD」の創業者・Mohed ALTRAD、シリア生まれの実業家・大富豪。その人生は「小説より奇なり」のようだ。Wiki・フランス語では、かなり詳細に(当然のことながら、英語版よりもかなり充実している)今日までの歩みが記載されているが、そもそも生まれた年が「1948年または1951年」とされている… 苦難の幼少期から奨学金を得て、フランスに渡り、まず、名門・モンペリエ大学で学ぶ。後年、大富豪になったAltradが財政難に陥っていたモンペリエ・エロ—・ラグビークラブ(以下「MHR」)に手を差し伸べ、2011年には筆頭出資者になる。MHRに投資(?)し、南アフリカにはラグビー・アカデミーを作り、FRA代表の公式スポンサーになり、NZ代表の公式スポンサーにもなる。現在のワールド・ラグビー界最大の「タニマチ」である。
 
 先週の金曜日の夜のフランス選手権の決勝は、そのMHR(ジャージの胸表示は当然「ALTRAD」)と古豪カストル(以下、「CAS」)の対決。4年前・2018年決勝の再戦(その時は、29-13CASが勝利)。
4年前、FRAWRランキング10位で苦しみ、ガルティエ現FRAHCはトゥーロンのHCを「首」になっていた。当時のMHRは「ラングボックス」(=「ラングドック」地方の「スプリングボックス」)と揶揄されるぐらい南アフリカの出身の選手が主軸を占めていた。
2018年決勝メンバー46人のうち2022年にそれぞれのチームにそのまま所属している選手は、MHR6人、CAS7人。2022年決勝のメンバーに入ったのは、MHR1人、CAS5人。選手は入れ替わる。そして、HCもコロコロ変わる。MHR2018・コッター(NZ人・現在FIJ代表HC)⇒ガルバジョザ(FRA)⇒サンタンドレ(2015W杯時のFRA代表HC)、CAS2018・ウリオス(FRA、現UBBHC)⇒レギアルド(ARG)⇒ピエール・アンリ・ブロンカン(FRA)。
 
 ALTRADは、この12年間で8千万ユーロをMHRに投下したが、今年が一番選手補強をしなかった年でもあった。決勝の翌日、Midolの取材に「他の強豪チームは1世紀の歴史があるのに(たとえばCAS1906年創設)、MHR36年目、まだまだ歴史を作る段階だ。自分たちは、かつてRSAのスター選手を集めてきて満足していたが、それは間違いだった。いいチームを作る、CASはよきお手本だ」と語っているのが印象的だ。
 
( 参考 )
2022/6/24(金)21:00キックオフ MHR/CAS KSLPFD
「分」は得点時間
大文字は勝者 小文字は敗者のボール支配
K:キックオフ
S:スクラム
L:ラインアウト
P:ペナルティ (PG*PGを狙って外したもの)
F:フリーキック
D:ドロップアウト (D*はゴールライン・ドロップアウト)
- :関連するリスタート
 
 
得点
5
9
11
20
33
38
K l P-l s T
k l p-L TG
k l T
k P-pg* D P S-p-L p-PG
k S s L-p-L S s s P-l l P-pg
K L s-p-PG
k
5- 0
12- 0
17- 0
20- 0
20- 3
23- 3
67
74
76
k l P-l L F l l-P-l-P-l P P s-f-s-P-s p-L P-l P-l D* s-P-l P*-l S f l l-f p-PG
k P-l P S-p-L L tg
K p-PG
k p-L S-f p
26- 3
26-10
29-10
 
 戦前の予想ではCAS優位が。それが「あっと言う間」のMHR3トライで決まる。
この3トライ。いずれも起点のリスタートはCASボール。
(5分:トライ1
起点:センターライン付近・CASボール・スクラム ⇒ CAS展開し・8フェーズでMHR22m内へ ⇒ CAS12番がノックオン ⇒ MHR15番がロングキック ⇒ CAS14番がキャッチしてショートパント ⇒ MHR14番キャッチ・ラック・繋いでトライ
9分:トライ2)
起点:センターライン付近・CASボール・ラインアウト ⇒ CAS展開し11番がMHR22mライン付近でタックルされノックオン・そのまま倒れ込みP ⇒ MHRPKをタッチに蹴り出し・CAS陣内でのラインアウト ⇒ MHR・ラインアウト・モール(CASPADが出る中)フェーズを重ねトライ
15分:トライ3
起点:センターライン付近CASボール・ラインアウト ⇒ CASキャッチしモールを作るもボールを奪われる ⇒ MHR4フェーズ目で展開しトライ
 
 最初の2つは「ノックオン」から。Midolによれば、原因はCAS1112番いずれもフィジー出身の選手で「ボールを抱えている腕の方から相手に当たったから」(FRAでは子供の時から「そんなことをしてはいけない」と教えている)。神様は細部に宿る…
 
 この試合のPMHR17(イエロー:1)、CAS11。「3点」を刻んでしぶとく食らいついていく弱者の戦法が身上のCASが大量リードされ、かつ、ゲームメーカーでキッカーの10番:ウルダピレタ(ARG代表)がケガのため10分で退き、「試合を作れなかった」。
 
 MHR、昨シーズンは2部降格の危機に見舞われたが今シーズン蘇った。その要因の一つとして、プロレフリーだったルイス(2019W杯では「アシスタントレフリー」として参加。五輪7人制では主審を務めていた。1987年生)がコーチングスタッフに入り、「ディシプリン」と「ラック」を担当したことが挙げられている。来シーズンからは現プロレフリー・ポワト(2019W杯主審)がトゥーロンのコーチングスタッフに入る。単なる「流行」ではあるまい。
 
 この試合の主審は会社員のトレニニ。26分、CAS6番・主将バビヨがタックルに行きMHR2番・ギラド(2019FRA代表主将)が脳震盪で倒れる。TMOで何が原因かを確認する。確かにバビヨの肩がギラドの頭に当たったかにも見えるが「単なるペナルティ」でカードなしの判定。長きにわたってCASを支え続けてきたバビヨ、FRA代表主将として苦渋も舐めたギラド、ともに「フェアープレー」でも名をはせてきた。いろいろな思いがよぎるワンシーンだった。
 
令和472

  

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