2020年2月2日日曜日

岡島さんの 2019W杯・備忘録 9

2019W杯・備忘録 9
~ ワリス ~

 「ワリス」という地名を聞いたことがありますか?

 フランスの不動の5番(だった)「ヴァーマイナ」の英語版ウィキの項は、次のようにはじまる。
Sebastien Vahaamahina(born 21 october 1991 in New Caledonia) is a French rugby union player of Wallisian origin from the French administered South Pacific overseas collectivity of New Caledonia.

 南太平洋にあるワリス島。その200カイリ内で日本のマグロ船が操業していることから、日仏漁業協定が締結されている。かつて、その協定改定交渉に参加して、ワリスの議員と歓談したことを思い出す。

 この大会、ヴァーマイナは、あのおバカな肘打ちで世界中に顔と名を売ったのだろう。そして、その記憶は、(おそらく)しばしば流される映像とともに上書きされ、人々の心に残ってゆくのであろう。

 フランスの初戦、対アルゼンチン戦。「ロペスのドロップ・ゴールで再逆転」と記憶している人々も多いであろう。繰り返し何度も見ているうちに、あることに気付く。
 前半を予想外の20-3と大量リードで終えたFRA。後半、2本トライを取られて差を詰められ(20-15)、29分のARGPG20-21と逆転されてしまう。
 このPGの前の連続プレーの中で負傷したFRA14番プノーに変わってピッチに入ったのが22番・ロペス。ロペスのキック・オフで再開された試合は、2フェーズでロペスの再逆転ドロップ・ゴールにつながる。

 ロペスのドロップ・ゴールはなぜ生まれたのか?

通常、キック・オフでは蹴ったチームが相手チームにボール支配権を渡すことになる。
①それを所与のものとして、地域を獲得する観点から、相手陣22mライン後方へ深く蹴り込むのが主流である。
②支配権を相手に渡すのを避けるためには、10mライン近傍に蹴ることがたまに見かけられる(たとえば、JAPSCO戦の開始時の田村のキック・オフ)。
 FRAARG戦のロペスのキック・オフは、このどちらでもない。ARG22mラインのほんの少し前に蹴り込んだ。もちろん、ARGの選手がキャッチする。そのキャッチした選手を瞬時にボールごと抱え込み・味方陣の方向に倒してマイ・ボール・ラックとする。たまに見かけるキック・オフ。これによって、ロペスのキック・オフしたボールはFRA支配下に戻り、2フェーズでロペスのドロップ・ゴールが生まれる。
 キック・オフのボールを愚直に追いかけ、ARG選手を仰向けに倒したのが、ヴァーマイナ。ロペスと同じクレルモン所属。息の合った至芸。
先発出場で疲れが極限に達する後半30分。それでも体を張り続けた5番は、全速力で駆け、ARG・ボールキャッチャーを絶妙な技でFRA側に倒す。ロペスのドロップ・ゴールの「お膳立て」をしたのがヴァーマイナ。彼なくして、FRAの勝利はなかった。

 もし、この試合、ARGが勝っていたら、FRAの決勝ラウンド進出はなかったであろう。仮にそうなれば、ヴァーマイナのおバカなプレーは出現しなかった!?
(台風で、M35 FRAENG戦は中止となったが、仮に、M3ARGが勝っていたら、WRM35を中止したか・中止にできたか、疑問である。)
 
   M43 WAL/FRA戦について、2003W杯優勝HCのウッドワードは、「①ヴァーマイナのようなプレーをする選手は、代表選手の資格がない。 ②この試合で、勝敗を分けたのは、FRA6点リードで迎えた後半相手ゴール・ライン前のFRAボール・スクラム。あそこは、ロペスがドロップ・ゴールを決めなければいけない場面。ドロップ・ゴール以外の選択肢はなかった。」と断言している。(ちなみに、このインタビュー記事の冒頭、「ボックス・キックほど、つまらないものはない。」と嘆いている。)

M43終了後のDCの報告書にヴァーマイナについて、次のような記述がある。
He had played rugby for 13 years. He was 28 years of age. This was his first knockout game for French in any World Cup. Ha had 46 caps for French. He had already decided to retire from international rugby after this World Cup.”
“He has a three year old son and he will not be proud of what he had done. The disappointment is terrible.”
“The Player’s conduct before and during the hearing was exemplary. He was honest, candid and did not prevaricate at all relating to his offending.”

寡黙で愚直で不器用なヴァーマイナ、彼がARG戦を救ったと記憶している人はどれぐらいいるのだろうか?

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大学選手権決勝、57345人の観客が集まる。あらためて、大学ラグビーの磁力を見た気がした。翌日のトップリーグ第1節の最多観客試合は、神戸製鋼vsキャノンの23004人。

年末年始のテレビ視聴率を見ると、箱根駅伝が群を抜いている。(復路 28.6% 往路 27.5%) つくづく日本人は、学生スポーツが好きだな、と思う。学生スポーツは郷愁を呼ぶ。「部活」は、世界遺産に登録してもいいような伝統文化だ。

今回の早明戦、あれだけ「猛々しい」早稲田フォワード・あれだけ「弱々しい」明治フォワードというコントラスト、終ぞ見たことなかった気がする。そして、1年生からレギュラーを張り続けた斉藤・岸岡のハーフ団、その4年間の集大成としての見事なゲーム・コントロール。同年代の選手たちが切磋琢磨しながら共に成長してゆく、青春の1ページ、プロリーグでは見られないのだろう。年齢限定・期間限定で、途中加入なし・「移籍禁止」の学生スポーツ。そして、「アマ」。ともかく、おカネとは縁遠い。

大学ラグビーについて、変えた方がいいな、と感ずる点は多々ある。なぜ、変えた方がいいのか? それが、本来は問われなければならない。たとえば、エディーは、「選手のラグビー的成長」の観点から大学ラグビー(高校ラグビー)の現状を批判している。傾聴に値する。2015年に出版された生島淳著『エディーとの対話』(文藝春秋)の一節「大学ラグビーの問題点」の中で「現状を見てみると残念ながら帝京大学以外のエリートチームは、エリートにふさわしい練習が出来ているとは言いがたい」という発言が紹介されている。

「代表強化」の観点から見た場合、今回の日本代表31名の内、外国生まれの15人の経歴を見ると、①高校入学時に来日し、高校・大学と「部活」を体験したのが、具、ヴァル、リーチ、アタアタの4人 ②大学入学時に来日し、大学で「部活」を体験したのが、中島イシレリ、ウヴェ、ツイ、マフィ、ラファエレの5人、③「部活」体験なくトップリーグチームに加入したのが、トンプソン、ファンデルヴァルト、ムーア、ラブスカフニ、レメキ、トゥポウの6人。これをどう評価したら、いいのだろうか。

「地域密着」であれ、「組織密着」であれ、肝心なのは、人々の心にラグビーが根付くこと。ラグビーの本質を忘れてはならない、と思う。

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