2019 W杯・備忘録 41
~ 大会初戦 ~
すべてのW杯出場チームに「大会初戦」が存在し、4試合戦うことが予定されている。起承転結の「起」、序破急の「序」。
もちろん、優勝を狙うチーム、ベスト4、ベスト8を狙うチームにとっては4試合で完結するわけではない。7試合を想定しての各試合の戦い方を布置するのだろう。それでも、大会初戦は必ずあり、「始まり」「最初の一歩」であることに変わりはない。
大会初戦は、ある意味で、試合の前半の前半、キックオフからの20分ともみなせる。試合も大会も「入り方」は重要である。「流れ」を作りたい。誰も、意図してドジやヘマはしない。であるにもかかわらず、JPNの大会初戦の「入り方」は最悪に近かった…
大会初戦、「完璧に」入ったのがIRE。予選リーグのライバルと見做されていたSCO相手に27-3。大差の完勝。4トライ・ボーナスポイントも獲得し、かつ、ディフェンス面ではノートライに抑えている。「ワンサイド・ゲーム」。さすがランキング1位、「強い」と感じてスタジアムを後にした。
大会の結果を知ってから見直してみると、いろいろと見えてくるものがある。そういう観点から、大会3日目横浜で行われたM6 IRE/SCO戦を振り返ってみる。
両チームの戦い方は、以後の戦いを見据えて、「手の内」を見せない。したがって、ラグビーの基本に忠実な(?)標準的プレーの連続である。すなわち、パス回しは順目・平凡、キックを多用する。ラインアウトではモールを組む。まるで「ぶつかり稽古」のように。
スタッツだけを見つめていると、互角の戦いである。それなのに、大差がついた。「実力差」なのか、「運」なのか、正体不明の「流れ」なのか… 要因は一つではなく、複層的に錯綜した様々な要素の集積値とでも言い得るのだろうか。
そして、ケガ人も出てくる。以後の戦いに影響する。セクストンもその一人。前半、ケガのケアを受け、それ以後はゴールキックを蹴らなくなった。立っているだけのセクストン。まるで、サッカーのメッシのように…
大会前にフランスで出版された本の中で、IREラグビーは次のように解説されている。
『シュミットHCの指導の下、IREの国民性にあった堅実なラグビーを突き詰めることでNZに二度勝利(2016、2018)するなど、2013年シュミットがHCに就任して以降の勝率は75%を超えている。彼らのプレーの原則は、次の三つから成り立っている。
①高いボール保持率 :ラックの連取、オフロードの不使用
②マレーのキック :IREの伝統スポーツ・ゲ―リックフットボールの影響
③セクストンのプレー選択:セクストンの背後に複数の選手をポジショニングさせる』
ランキング1位まで上り詰めた「シュミット・システム」は「セクストン・システム」でもある。「2018年度ワールドラグビー最優秀選手賞に輝いたセクストン中心のチーム」のはずが、大黒柱に暗雲が。そもそもIREは、「2番手の若手SOとして着実に経験を積んできたカーベリーは、ウォームアップゲームで負傷し、大会出場が微妙な状態にある」(ラグビーマガジン)ということで、10番・スタンドオフを3人連れてきていた。他の多くのチームは2人であるのに。
結局、この大会、IREの5試合のスタンドオフの出場時間は次の通り。
1 SCO
|
2 JPN
|
3 RUS
|
4 SAM
|
5 NZ
| |
セクストン
|
⑩ 57分
|
⑩ 40分
|
⑩ 50分
|
⑩ 62分
| |
カーティー
|
㉒ 23分
|
⑩ 60分
|
㉒ 40分
| ||
カーベリー
|
㉒ 20分
|
㉒ 30分
|
㉒ 18分
|
参考までに、JPNは次の通り。
1 RUS
|
2 IRE
|
3 SAM
|
4 SCO
|
5 RSA
| |
田村
|
⑩ 66分
|
⑩ 80分
|
⑩ 80分
|
⑩ 80分
|
⑩ 47分
|
松田
|
㉒ 14分
|
㉒ 33分
|
こうしてIREとJPNを比較してみると、不動の「田村」の存在は大きかった、と言える。パッと思いつくだけでも、AUS、ARGが精彩を欠いた大きな要因は先発スタンドオフが固定できなかったことにある。
「シュミット・システム≒セクストン・システム」の特徴は、セクストンが多くボールタッチすることにある。
各スタンドオフのスタッツから、(出場時間)÷(パス回数+キック回数)で、どれぐらいの頻度でボールに絡んでいるかを見てみると次の通り。(単位:分)
1 SCO
|
2 JPN
|
3 RUS
|
4 SAM
|
5 NZ
| |
セクストン
|
5.7
|
2.7
|
2.2
|
2.5
| |
カーティー
|
3.3
|
3.2
|
1.9
| ||
カーベリー
|
1.4
|
3.8
|
2.3
|
JPNの数値は次の通り。
1 RUS
|
2 IRE
|
3 SAM
|
4 SCO
|
5 RSA
| |
田村
|
1.7
|
2.2
|
2.4
|
1.6
|
1.3
|
松田
|
3.5
|
2.5
|
あらためて、「田村」はすごい!
「怪我も実力のうち」なのだろうか。あるいは、IREには「プランB」がなかった、ということなのだろうか…
以後の展開を知っているだけに、何を書いても「結果論」に過ぎないのだが、大会初戦、苦しんだ方が、反省点・修正点が顕在化して却っていいのかもしれない。「流れ」はいつまでも続くものではない。いつか反転する。IRE、慢心したのではないのだろうけど、あまりにも簡単に勝ちすぎたのかもしれない。
( 参考 )
IREボール
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
KO
|
-
|
1
|
1
|
-
|
2
|
S
|
-
|
4/4
|
3/3
|
3/3
|
10/10
|
LO
|
4/4
|
1/1
|
4/4
|
3/3
|
12/12
|
PK
|
2
|
2
|
-
|
2
|
6
|
FK
|
-
|
-
|
1
|
-
|
1
|
DO
|
1
|
-
|
-
|
-
|
1
|
計
|
7
|
8
|
9
|
8
|
32
|
(注) KOのうち1回は、後半開始時のもの。
S、LOの分母は、マイボールでの投入回数。分子は、そのうちのボール獲得回数。
PKの回数は、相手チームのペナルティ(反則)によって獲得したPKの回数。
68分・IRE19番にイエローカードが出ている。その後の10分間(すなわち、一人少ない時間帯)には、得点されていない。
IREの得点
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
トライ(T)
|
2
|
1
|
1
|
-
|
4
|
T後のG
|
1
|
1
|
-
|
-
|
2
|
PG
|
-
|
-
|
-
|
1
|
1
|
SCOボール
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
KO
|
3
|
1
|
1
|
1
|
6
|
S
|
1/1
|
-
|
0/1
|
-
|
1/2
|
LO
|
3/3
|
3/3
|
2/2
|
6/7
|
14/15
|
PK
|
1
|
2
|
1
|
3
|
7
|
FK
|
1
|
-
|
1
|
-
|
2
|
DO
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
計
|
9
|
6
|
6
|
11
|
32
|
SCOの得点
0-20min.
|
20-40min.
|
40-60min.
|
60-80min.
|
計
| |
T
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
T後のG
|
-
|
-
|
-
|
-
|
-
|
PG
|
1
|
-
|
-
|
-
|
1
|
IREのトライは、
① 前半3分、起点は、SCO陣内に入ったところでのIRE・ラインアウト。IRE・ラインアウトからモールを作り、I・2番がサイドを抜けて、I・9番がキック。SCO・ゴール前のSCOラックからS・9番がボックスキック。I・14番がキャッチして2度のラックを連取し、I・4番がビックゲイン(=SCOのディフェンスミス)、ラックを連取して(8フェーズ)I・5番トライ。
② 前半13分、起点は、PKからのSCOゴール前5mのIRE・ラインアウト。モールを組んでI・2番トライ。
③ 前半24分、起点は、キャリーバックで得たSCOゴール前5mのIRE・スクラム。そこからサイドを2度ついて、I・3番トライ。
( IREが蹴ったゴロパントがSCOゴールポストに跳ね返り、本来だったらインゴールのタッチダウン、SCO・ドロップアウトでの再開になるところが、キャリーバックになっていた。 )
④ 後半13分、起点は、センターライン上のIRE・ラインアウト。モールを作り、I・9番ボックスキック。SCO、ラック二度の後、S・9番ボックスキック。IRE、ラック二度の後、I・9番ボックスキック。Sバックスが取り損ね、IラックからブラインドサイドのI・14番トライ。
トライはトライなのだろうけど、「平凡な」トライというか、感激性の薄いトライ…。
ケガ人という点では、SCOの7番・ワトソンが37分で負傷退場・大会から離脱した影響は大きかった。この試合の37分間でのワトソンのタックル回数は「14」・100%成功。彼の機動力を失ったことは痛かったに違いない。ちなみに、SCOは、正スクラムハーフになりかかっていた(?)プライスもこの試合後大会から離脱していた。
令和2年8月29日