2022年4月30日土曜日

岡島レポート・2019 W杯・備忘録 126

            2019 W杯・備忘録 126

  ENG 
 
 ENG、強いのか弱いのか? 愚問なのだろう。 問題なのは、ENGが次のW杯で優勝するか否か。 今日のワールドラグビー界、四年に一度の結果がすべてになってきた感がある。
では、現時点でその可能性はどうなのだろうか? 昨秋はトンガ・AUSRSAに三連勝。一方、今年の六か国対抗は、振るわなかった。昨秋のテストマッチと今年の六か国対抗のチームスタッツを見てみる。(昨秋、第1戦トンガ戦は対象外)
 まず、得失点。
-1 得失点
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
得点
   32
   27
   17
   33
   29
   15
   13
失点
   15
   26
   20
    0
   19
   32
   25
 
 どんな戦い方をしていたのかをいくつかのスタッツで比較してみる。
 
-2 ボール保持率(%)
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
   60
   46
   54
   59
   49
   43
   55
相手
   40
   54
   46
   41
   51
   57
   45
 
 当然のことながら、相手によって戦い方を変えている。ENGは、ボール保持に執着しているようには見えない。面白いのは、AUSRSAFRA戦の数値。
 
-3 Time in Possession
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
1748
1413
1808
2220
2132
1402
1936
相手
1133
1623
1534
1521
2244
1711
1553
 計
2921
3036
3342
3741
4416
3113
3529
 
 興味深いのは、昨秋のAUSRSA戦の保持時間「計」の短さ。今年の六か国対抗15試合平均の保持時間は「385秒」。試合の密度が、六か国対抗で上がっている。その原因の一つが、キッキングゲームか、パスをつなぐかに起因しているように見える。パス志向の試合は長く、キック志向の試合は短い傾向にある。表-6「キック比」の数値が大きいほどキック志向に、表-7「パス数」が多いほどパス志向に、パス志向の試合の方が表-9「ラック獲得数」が多くなっている。
 
-4 Time in Opposition 22
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
  344
  240
  237
  458
  326
   16
  729
相手
   14
  252
   54
  441
  508
  323
   16
 
 六か国対抗では、「本職」のウィングを使わずにBKユーティリティプレーヤーをウィングに起用していた。それによって、相手陣深く攻め込んでいても、決めきれない試合が続いた気がする。IRE戦は、開始早々のレッドカードによって14人で戦い続けたことが影響している。
 
-5 地域獲得率(%)
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
   63
   48
   62
   42
   52
   39
   56
相手
   37
   52
   38
   58
   48
   61
   45
 
 完封勝利のITA戦、意図して相手にボールを持たせてディフェンス練習に特化していた感がある。では、RSA戦、意図して相手にボールを持たせて勝ったのか、それとも、負け試合を拾ったのか。
 
-6 キック比(% Possession Kicked
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
  12.7
  15.6
  13.5
   5.8
   7.8
  16.3
  10.7
相手
  13.4
  14.4
  13.3
  10.8
   5.0
   6.4
  14.0
(注)六か国対抗サイトでは「%Possession Kicked」の数値が掲載されているが、残念ながら定義は掲載されていない。おそらく、ボールを持っているプレーヤーのプレー選択(キックorパスor…)の内のキックを選択した割合だと思われる。数値が高いほど、キックを多用していることを示している。
 
 秋のテストマッチ、ITAWAL戦は意図が感じられる。IRE戦は14人になったことでの必然の選択。FRA戦、どういう意図で戦ったのか。相手に付き合わざるを得なかったのか、それとも仕掛けたのか。
 
-7 パス数
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
  126
   82
  113
  205
  159
   68
  164
相手
   88
   87
  101
  125
  220
  189
   99
 
 世界チャンピオン:RSAに勝つためには、相手と同じような戦略(=キック主体、パスを最小化してゆく)で試合を進めるべきだ、ということを表している気もしている。
 
-8 オフロード
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
    9
    1
    7
    9
    6
    4
    4
相手
    3
    2
    3
    8
   14
   11
   13
 
 RSA相手には、リスクを最小化することも求められているのかもしれない。
 
-9 ラック獲得数(Ruck Won
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
   65
   57
   73
  108
  110
   42
   85
相手
   41
   56
   58
   62
  109
   87
   70
 
 14人で戦い続ける、事の是非はともかく、現実にそういう事態に陥った時にどう戦うのか、その意味ではIRE戦の数値は興味深い。
 
-10 タックル成功率(Tackle Made (%)
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
  75.3
  85.7
  84.8
  90.6
  89.1
  84.0
  85.8
相手
  83.0
  82.8
  93.9
  90.4
  89.8
  91.5
  87.8
 
 ENG、現時点までは、精度よりは大胆さ・「飛び込む」ことを優先している気がしている。「本番」に向けて、この数値をどう向上させていくのか。
 
-11 ペナルティ数
 
vs AUS
vs RSA
vs SCO
vs ITA
vs WAL
vs IRE
vs FRA
ENG
  9(0,0)
18(1,0)
10(1,0)
12(0,0)
13(0,0)
  8(0,1)
  8(0,0)
相手
18(2,0)
  8(1,0)
13(0,0)
12(0,0)
13(1,0)
15(0,0)
  9(0,0)
(注)()内の最初数字はイエローカード、二番目の数字はレッドカードを出された数。
 
 タックル同様、Pに関してもリスクを取ることを求めている気がする。勝敗に拘りながらも各試合の意図が見え隠れしている気がする。
 
 大相撲:輪島の黄金の左手ではないが、強み・「得意技」を持っているに越したことはない。一方で、相手あっての勝負、相手の出方に臨機応変に対応することも必要だ。そして、想定外の事態への適応力も鍛えておかなければならない。その意味では、IRE14人で戦い続けなければならない事態に陥ったことはENGにとっては「ラッキー」だった気がしている。「本番」までの練習試合、何を課題として、それぞれの試合を戦っているのか、そこはかとなく感じられないでもない。
 
 今週のMidolでは、ENGの現状について次のように解説していた。
ENGが強いことは認めるが、このところ調子が良くないのは事実だ。陳腐な戦略、物議を醸しだすHC、17か月後のW杯を前にして地味な存在である。アウトサイダーなのか? 多分。 しかし、エディーの選手たちを用心しろ。前回勝者:RSAW杯1年半前の状態を思い起そう。ENGは、人びとの目を誤魔化し、密かに優勝する・サプライズを巻き起こすことを狙っている。』
 
令和4年4月30