2021年2月20日土曜日

岡島 レポート・2019 W杯・備忘録 65

                                           2019 W杯・備忘録 65

    ~ 負傷交代 ~

    ラグビーにケガは付き物である。さはさりながら、試合中の負傷交代は起きてほしくないものである。チームにとっては予測不能なアクシデントである。

 レフリーの笛と同様、ケガに泣かされることがままある、制御不能な代表的な事象である。

  決勝RSA/ENG戦の試合開始早々のENG3番・シンクラーの負傷退場・交代を記憶している人々は多いだろう。その試合の前半でRSA2番、5番が負傷退場・交代したのを記憶している人はどれぐらいいるのだろうか?

 今大会、決勝ラウンド7試合で前半のうちに負傷交代したのは、決勝の3事例と準々決勝WAL/FRA戦でのWAL8番、準決勝RSA/WAL戦でのWAL3番、14番の3事例。

  これらの負傷は防げなかったのであろうか?

素人考えながら、肉離れなどの筋肉系の負傷は、「無理をしなければ」(=試合に出さない)防げる気もする。

一方で、激突での負傷は避けがたい気もする。とはいえ、激突と言っても、敵と激突するのと味方同士で激突するのは違う気もする。

  シュミットの自伝第13THE GAMEの中で、タックルという節を設けて興味深い考察をしている。以下、概略を箇条書きする。

 ・ WRがヘッドインジュリーを重く見て、レフリングのハイタックルに関するガイドラインを示していることは評価できる。

・ 2013~2015年の主要なテストマッチ・クラブ間の試合をビデオで見てみると、HIAHead Injury Assessment)が611事例あった。このうち、464事例がタックルに起因するものであった。WRがタックルを厳しく取り締まろうとするのは理解できる。

・ しかし、このタックルでの事例のうち、4分の3はタックラー(タックルしたプレーヤー)の脳震盪である。

・ ハイタックル(首から上へのタックル)を厳しく取り締まることで、他の危険なプレーを見過ごしている。

・ また、一つの課題を解決するための厳罰化は別の課題を生み出している。すなわち、ハイタックルでのペナルティ・カードを避けるために、必要以上に低く入ることを試みて、結果として脳震盪を起こしている。

・ 2019年初にアルゼンチンで行われたジュニアW杯では、30試合でデンジャラス・タックルに対して26枚のカード(レッド:5、イエロー:21)が出された。このうち、レッド:4枚・イエロー:16枚はハイタックルに対してであった。しかし、これらの26枚のカードの対象となったプレーの被害者(タックルを受けたボールキャリアー)は、誰一人HIAを受けていない(=脳震盪を起こしていない)。

・ 2019年夏の南半球のラグビー・チャンピオンシップでは、3回の脳震盪が起こったが、いずれも低いタックルに入ったプレーヤーがボールキャリアーの膝などで頭を打つことに起因している。

  たしかに今大会を思い返してみても、レッドカードが出たシーンで被害を受けた選手が負傷退場・交代したシーンが即座には浮かんでこない。一方で、HIAで(一時)退場する選手をかなり見たが、その多くはタックルに入った選手であった。

 ハイタックルの厳罰化は意味があるが、脳震盪の軽減には効果がなさそうである。

 チームとして、予測不能な負傷交代のリスクを軽減するために、①S&Cコーチチングの充実 ②タックルスキルの向上が進化すると思われる。

  一方、ルール面では、おそらく、脳震盪に関する訴訟が提起されたこともあり、WRとしてのファールプレーに対する厳罰化は深化するであろう。

これはトップレベルの試合よりもジュニア世代で、より大切な気がしている。1995年・プロ化によって、プロ選手は日々筋トレをし・サプリを摂取し大型化・重量化し続け、その結果、ケガも重症化している。それとともに、プロ選手とアマ選手の格差がどんどん広がってきている。おそらく、プロの試合とアマ、とりわけ初心者の試合を同じルールで律することには無理がある。たとえば、JPNの高校の試合でのスクラム・プッシュを制限しているのは適切であり、こういう措置を講ずべきであろう。

  脳震盪を実質的に軽減するためにどんな対策を講じうるのか、妙案が出てくるか、そして、それがルール化された時にゲームがどう変質してゆくのか、次回大会までどう推移してゆくのか興味が尽きない。

                                                         令和3220

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